第25話

 フィアマの島に着いたのは、翌日の早朝だった。

「アリスさん、眠れましたか?」

「ええ、少しは。ブルーノ様は?」

「私は船もなれているので、ゆっくり眠れました」


 ブルーノとアリスは装備を調えた。

「それでは、船を下りましょう、アリスさん、お手をどうぞ」

「はい、ブルーノ様」

 ブルーノから差し出された手をとり、アリスは下船した。

 ブルーノは、一緒にやって来た兵士達に、船で待機するよう命じた。


 フィアマの島は所々に草が生えていたが、だいたいは岩が転がっていて土がむき出しになっていた。風の向きが変わると、硫黄の匂いが鼻につく。

「魔女とはいえ、こんなところで暮らしていけるんでしょうか?」

 ブルーノはアリスに問いかけた。

「そうですね、こんなに何も無い島で生活するのは大変でしょうね」


 ブルーノを先頭にして、アリス達は島の中に入っていった。

 しばらく歩くと、山の裾に洞窟があった。

「ブルーノ様、この中から強い魔力を感じます」

「……入ってみましょう」

 洞窟の中には、明かりがともっていた。

「これは炎の魔法?」

 アリスが呟くと、ブルーノは言った。


「アリスさん、静かに。奥に何か居ます」

 アリスとブルーノが奥に進むと、美しい女性が岩に腰掛けていた。

「誰? 断りもせずに人の家に入り込むなんて」

「貴方がフォーコ?」

 アリスの問いかけに、フォーコは答えなかった。


「人間が二人? いや、そちらのお嬢さんは魔女かい? 強い魔力を感じる」

 フォーコは立ち上がり、アリスに近づいた。

「危ない、アリスさん!」

 ブルーノがアリスの前に飛び出すと、フォーコは片手でブルーノをなぎ払った。

「ブルーノ様!?」


「うるさいねえ。私は目覚めたばかりで機嫌が悪いんだ」

 ブルーノは軽い擦り傷だけですんだらしく、立ち上がるとアリスの傍に駆け寄った。

「ずいぶん長い間封印されていたからね。それもこれも緑の魔女、マリーのせいで」

「おばあさまのせい?」

「おや、アンタ、マリーの孫かい? それじゃマリーは……死んだのかい?」

 フォーコは上機嫌で笑った。


「それじゃ、もうこの島を出るのも自由ってことだね」

「いいえ、私とブルーノ様がいます。この島からは出ないで頂きたいのです」

 アリスは魔石を取り出した。

「そんな小さな魔石で、このフォーコ様を封印出来ると思っているのかい?」

 フォーコは鼻で笑うと、手を振り上げた。

 炎がフォーコの手の上にあらわれ、アリスの持っている魔石に当てられた。


 魔石はもろくも崩れ去った。

「さあ。遊びはここまでだ。人間共々燃やし尽くしてやろう」

 フォーコの手にまた炎の塊が現れ、今度はブルーノに当たった。

「くうっ!!」

 ブルーノの体が燃え上がった。

「水よ、集いなさい!! ウォーターボール!!」


 アリスは水魔法を唱えると、ブルーノの炎が消えた。

「ブルーノ様!? 大丈夫ですか!?」

「……なんとか」

 ブルーノはそう言ったが、フォーコの魔力を帯びた炎で体は焼け焦げていた。

「ヒール!!」

 アリスはブルーノに回復魔法をかけ、横に座らせた。


「フォーコ、許しません……」

 怒りに震えるアリスの目に、不気味な光が宿った。

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