第23話

 落ち着いた日々が過ぎていた。

 アリスが目を覚まし玄関から外に出ると、ブルーノが馬に乗ってやってくるのが見えた。

「アリスさん、おはようございます」

「おはようございます。どうしたのですか? ブルーノ様」

「実は、王子から手紙が来まして。アリス様と一緒に城へ来るようにと書いてありました」


「まあ、そうですか。私もですか?」

 ブルーノは起きたばかりの様子のアリスを見て、微笑んでから言った。

「はい。でもまずは、朝食をお取り下さい。アリスさん」

「はい」


 アリスは急いで簡単な朝食を済ませた。そして肩掛けカバンにパンと飲み物をいれ、コートを羽織った。

「ブルーノ様、お待たせ致しました」

「それでは、私の後ろにお乗り下さい。急なことだったので、馬車の用意が出来ませんでした。申し訳ありません」


「分かりました、ブルーノ様」

 アリスはブルーノの後ろに座った。馬の背中は思っていたよりも高く、少し怖いなとアリスは思った。

「それでは、動きますよ? アリスさん、私にしっかりと掴まって下さい」

「はい」

 アリスがブルーノに抱きつくと、ブルーノは馬を走りださせた。


「アリスさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

 アリスはブルーノにしっかりと掴まったまま、頷いた。

 馬はスピードを上げて駆けていく。

「この早さなら、夕暮れ前には城につけるでしょう」

「はい」

 アリスは馬の走る振動で、お尻が少し痛いとはブルーノに言えず、ただ黙ってしがみついていた。


 しばらく走ると小川が流れていた。

「ここで一度休憩にしましょうか? アリスさん」

「はい、ブルーノ様」

 先に馬から下りたブルーノは、アリスを支え地上に降ろした。

 アリスはふう、と息をついた。


「アリスさん、大丈夫ですか?」

「……ちょっとだけ、疲れました」

「それでは、馬に水を飲ませてきますから、すこし休んでいて下さい」

「はい」

 アリスは馬を小川に連れて行くブルーノを見ながら、草原に座り込んだ。


「ブルーノ様、お腹は空きませんか?」

「少し、空いています」

「では、パンと飲み物をどうぞ」

 アリスはそう言って、カバンを開けて食べ物を取り出す。

 パンと飲み物を半分ずつに分けて、ブルーノと昼食をとった。


「王子様は、私たちにどんな用事があるんでしょうか?」

「さあ? 詳しいことは直接話すと手紙には書かれていたので、分かりかねます」

「そうですか」

 アリス達は食事を終えると、また馬に乗り城を目指した。

 城への道のりは特に障害もなく、馬は順調に走って行った。


 城へ着くと、兵士がブルーノの馬を連れていき、ブルーノとアリスは謁見の間に案内された。

「こんにちは、アリスさん、ブルーノ。良く来て下さいました」

「レイモンド、何の用事だ?」

 レイモンド王子は、ブルーノに言った。

「ちょっと、困ったことがあってね」

 アリスはおずおずと、レイモンド王子に尋ねた。

「レイモンド王子、私が呼ばれたのも何か事情があるのですか?」


「実は、二人にフィアマの島に調査に行って欲しいのです」

「え? あの炎の島に?」

 ブルーノの眉間に皺が寄った。

「なんで、あんな危ない火山島に行かなくちゃいけないんだ?」

「どうやら炎の魔女、フォーコが目覚めたようなのです」


「フォーコだって?」

 ブルーノの表情が一層険しくなった。

「魔女同士なら話が早いと思い、アリスさんにも声をかけさせていただきました」

「私、フォーコ様なんて存じ上げません……」

「先代の森の魔女、マリーに魔力を封じられていたようなのですが、その効力も切れたようです」


 レイモンド王子の言葉を聞いて、ブルーノは叫ぶように言った。

「おい! そんな危ない奴にアリスを会わせるのか!?」

「はい、敵ならば先手を打って頂きたいですから」

 レイモンドは綺麗な笑顔をうかべたが、その目は笑っていなかった。

「すでに、港に船を準備してあります。早速向かって下さい」

「……国王は何と言っている?」


「父は病気で寝込んでいます。今は全権を私に委ねていますから、私の言葉は王の言葉となります」

「……分かりました。行きましょう、ブルーノ様」

「アリスさん、良いんですか?」

「はい、フィオーレの国の危機に私が役立てるのなら、私は参ります」

「ありがとう、アリスさん」

 レイモンド王子は微笑んでから、右手でドアを指し示した。

「とっとと行けって事か。わかったよ、レイモンド」


 ブルーノはアリスの手を引いて、城から出て行き港に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る