俺、赤点回避したのに呼び出される
数学Ⅱの答案が返ってきた。四十五点。赤点回避だ。
今回も百点中六十点が教科書、副教材と全く同じ問題で、四十点が入試レベルの難問だった。
俺ははじめから難問を捨てていたから残り六十点にかけていた。そのうち四十五点をとったのだから四分の三、実質七十五点のようなものだ。優秀ではないか。
しかしそんな理屈が小町先生に通用するはずもなく、俺と
職員室横の小会議室。生徒にとっては面談室と呼ばれるところに俺たちはいた。個人面談ではなく少人数を相手に話をする時に使われる場所だ。
「
「四十五点」
「俺は四十二点だったよ。クリアしたんだけどな」
「確かに」なのになぜ呼び出される?
部屋には俺と大崎以外にもう一人生徒がいた。H組の
その鮎沢は何やら問題を解かされていた。しかもH組担任で数学Bを教えている
おかしな光景だったが俺と大崎は身構えてしまった。俺たちも問題攻めにあうのか?
「あ、気にしないで。彼には期末テストをもう一度解いてもらっているから」
「俺たちもっすか?」大崎が訊く。
「あなたたちには夏休みの宿題を特別に用意したわよ」
「ゲゲッ!」
「サービス問題まで計算ミスをやらかすのだもの。トレーニングしてもらわないと」
ただでさえ数学の夏休み宿題は多いのにさらに追加するのか?
殺生な。俺の貴重な時間を奪わないでくれ。
俺と大崎の目の前に分厚い計算ドリルのような冊子が現れた。
「地獄のトレーニングよ」小町先生、実は体育会系?
「簡単な問題だから夏休み期間中にいちいち提出しなくて良いわ。特に小出しは絶対にダメよ」小町先生の顔を見に通うのも無しですか。
「期末テストの補習者がいなくて助かったわ」あんた自分が楽するために手を抜いただろ。
結局、今回の数学Ⅱで赤点は鮎沢一人だった。その鮎沢も小町先生の補習が受けたくてわざと赤点をとったことがバレたらしい。まあ見え見えだな。
「俺の夏休みが……」大崎は天を仰いで出ていった。
鮎沢は西脇の監視下、問題をスラスラ解いている。やっぱり俺よりできるのか。大きな眼鏡に半分かかるくらい前髪が下りていてこれで見えるのかて感じだ。
「私の夏休みが……」小町先生が呟いた。まるで大崎だ。何があった?
「八月上旬に引率することになったのよ」何の?
「生徒の私的旅行なのに二泊も」ん? それって。
「人数が多いかららしいけど。
問題を解いている鮎沢と西脇が顔を背けた。明らかに笑っている。
てか、聞こえてますよ、あの二人に。
ぶつぶつ言う小町先生の声は静かな室内に響く。
その後、小町先生は俺に愚痴を言い続けた。
何で私的旅行に引率が必要?と思ったが、教員も
水沢先生が結婚してA組の担任を外れたから現在のA組担任の倉敷先生が行くのかと思いきや、副担任の
それで小町先生の夏休みが三日つぶれることになった。御愁傷様。
「だから夏休みの補習はなし。一学期中に補習は終わらせ、あとは宿題よ」なるほど。
「千駄堀君にも参加してもらおうかな」
「は?」
「どうせどこにも行かず暇でしょう?」
「俺は招待されませんが」
「そんなの、どうにでもなるわよ」
小町先生は西脇をチラリと見た。西脇は顔を
「先生、終わりました」鮎沢が呑気な声を出した。
「先生、見て下さいます?」小町先生は鮎沢の答案チェックを西脇に押し付けた。あんたの補習だろ。
しかし西脇は鮎沢と答え合わせをしている。こちらの話には加わりたくないようだ。
「八月の○日から二泊よ。良いわね?」東矢の意向も無視して話を決めている。暴君だ。
「その日は千駄堀家でも家族の予定が」
「ないわよ、妹さんに確認したもの」外堀を埋めてやがらあ。
「俺にだって予定が」
「ボクと遊ぶことになっていたよね」突然鮎沢が口を挟んだ。
「あ、ああそうだったな」俺は鮎沢にすがるしかなかった。
西脇は目を見開き、小町先生は不気味な笑みを浮かべた。
「そうなの……それは良かったわ」いや恐い。恐すぎる。
俺はどうにか鮎沢に助けられた。
「千駄堀君には夏休み前にもう一度補習が必要ね」助けられてないわ!
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