【改訂版】マスターレベルの錬金術師となった転移者のおっさんは島を買って魔王と戦う
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転生したら錬金術スキルがマスターレベルになっていました
第1話 転生したら錬金術スキルがマスターになりました
新井翔也……三十路。
さえない営業職、だった。
仕事中に炎天下で倒れ、目が覚めるとそこは何かの古物商の倉庫のような……あるいは実験室のような雰囲気の部屋だった。あまり広くはない。実験用の机のようなものがあり、そこでは半透明のガラスのランタンのようなものが置いてあり、中で紐が燃えていた。じりじりと油が焼けるようなにおいがただよっていた。
「ここは……?」
うっすらと埃をかぶった棚の類。それが四周にあった。
そこにはフラスコのような楕円体のいびつな形をしたガラス瓶が並んでいた。
瓶にはさまざまな鉱物や液体が詰められている。
目の前には煉瓦か何かでできたキャンプ場の調理場のような雰囲気のようなものがいくつか並び、そのうちのひとつには金属の容器が載せられ、その金属の容器からはガラスのチューブが伸びていた。ことことと小さな火が燃えて、中の液体が煮えているようだった。
「沸騰中……蒸留でもしてるのかな……?」
新井は後頭部をさすりながら身を起す。
ふと、見慣れない少々肌触りの悪いローブのようなものを着ていることに気づいた。
(宴会芸の途中ででも倒れたかな……?)
頭の中でがんがんと鐘でもなっているかのような激しい頭痛。
その時、不思議な声が響いた。
——錬金術師フィリップの錬金術師スキルがコモンLV77からマスターLV1になりました。金属を貴金属に変換することができます——
(れんきんじゅつ……? マスター……?」
「先生!」
少女の声がし、ドアが開けられると何者かが飛び込んできた。
みると新井が着ているローブと同じような系統のローブをまとい、何やら卒業式の時にしかかぶらない名前のわからない上部に四角い布がのっかった帽子をかぶっている。帽子からさらさらとした赤毛が溢れ、ふわふわとゆれている、少女の目も不自然なほど赤い。
彼女は心配そうな表情でこちらを見ている。
「爆発音がして……だ、大丈夫ですか? 先生?」
「ん? ああ……? 君は誰?」
彼女はきょとんとした表情になったがすぐに笑い始めた。
「嫌だなぁ錬金術師フィリップの弟子、クルエラですよぅ、混乱されてますね?」
クルエラがケラケラと笑う。
「はぁ?」
部屋の隅には古びた鏡があった。
新井はそちらを見る。
宴会芸ででも着せられたかのような黒字に銀の四周が入ったローブ。しかし激安チェーン店で売っているような質感ではない。滑らかな光沢、きらきらと上品に輝く銀糸。そして見たことのあるようなないような人物が鏡の向こうからこちらを見ている。
顔の作りのベースというより方向性は明らかに新井本人だ。
しかし気のせいか若干、顔の彫りが深くなったような気がする。髪の色は灰色に変わっていた。目の色は橙色。その人物は驚いたようにこちらを指差している。
間違いなくその灰色の髪の人物は新井だった。
「えっ!?]
「まぁでも無事そうでよかったです。さて先生、実験が一段落したなら食事の用意をしますよ。今日はお客さんとか来ないみたいですから……」
「客?」
「そうですよ、錬金術師フィリップの客ですよ。金属を金に換えること以外は大抵のことできるじゃないですか、アレな薬とか作ったりとかアレな目的のナニとか……」
新井はとにかく考えをまとめようとクルエラについてその部屋を出た。
そこはちょっとした客間のような作りになっており一角には石積みの暖炉がしつらえてあった。暖炉に放り込まれた薪の上でちょろちょろと火が燃えている。その暖炉の反対側には扉。ちょっとしたレース編みのようなカーテンがかかっていて仕切られているが、どうもその扉の先は外のようだ。
さらに見回すと、この部屋には革製か何かのカバーのついたソファが置いてあった。壁には振り子時計が設置されていた。精巧な木彫りの時計だ。
さらに壁に新井……というより錬金術師フィリップの肖像画がかかっている。厳しい表情。そこには読めるような読めないような文字が書かれている。
新井はあわてて外に出た。
涼しげな風が吹き込んできた。そして喧騒。時間はおそらく夜前。
外はまるで欧州の旧市街のような街並みが広がっていた。
扉の先はちょっとした路地だった。地面には石畳が敷かれ、何やらコートのようなものを着込んだ男やふわっとしたドレスで着飾った女性が行き交っている。
御者が乗った馬車がゆっくりと路地を走る。
明らかに現代の欧州と異なる点としては街灯やランプの代わりに不思議な光沢の金属製の柱の上にほんのりと光を放つ光体が浮かんでいることだ。路地のあらゆるところにその光体は浮かんでいた。
「……!」
「先生〜? 今日もスープでいいですか? 豆とトマトですけど」
背後からクルエラが声をかけてくる。
「く、クルエラといったっけ?」
「はいな先生、そうですけど。頭でも打ちました?」
新井はふらふらと部屋に戻った。
「確認するが……ここはどこだ?」
「何かのテストですかぁ? ここはオリヴィエル帝国ですよ、先生ここで開業してもう2年になるじゃないですか」
「オリ……? まぁいい、俺は錬金術師なんだな。儲かってるのか?」
クルエラは目に哀れみの表情を浮かべた。
「先生ってスキルレベル、コモンレベルじゃないですか……まぁそのへんに掃いて捨てるほどいますよね」
「わりとはっきり言うタイプなんだね」(そうかぁ……)
「先生、心の声漏れてないですか?」
「いや……」
「続けますけど、ただまぁ今時、魔王軍との戦争で物資なんか不足しちゃってますから。コモンレベルの錬金術師でも薬とかの調合で需要ありますよね。帝都に来てよかったですね」
「魔王軍!?」
「はいな、魔王軍。もう"西風の魔王"ゼフィロスが出現して10年くらいになりますけどずーっと戦争してるじゃないですか。今や劣勢でオリヴィエル帝国が最前線ですよ。そのかわり仕事いっぱいありますけど」
「マスターレベルの錬金術師っているのか?」
新井は先ほど頭の中で響いた「錬金術マスターレベルになりました」という声を思い出していた。
「マスター? 冗談ばっかり。コモン、レア、エキスパートと難しくなりますけど、たいていの人は寿命を終えるまでにレアに開眼するかどうかなんですから。200年前にマスターがいたらしいですけど、そんなもんですよ?」
クルエラがケラケラと笑う。
「あ、もしかして試験か何かでした?」
「いや特に……」
とにもかくもここは営業先でもないし夢でもない、どこかに運ばれたわけでもないらしい。明らかに異世界だ。そしてどうやら錬金術師に「なった」ようだった。
新井はぶつぶつとつぶやいた。
「試してみるか……」
新井……フィリップは扉を閉めて外界を遮断した。
何か金属物を探す。
あった。
夕食用だろうか、古びたテーブルの上に銀食器が置いてある。
フィリップはスプーンを手にとった。
そして意識を集中させてみた。
(金にな〜れ!)
緑色の閃光。そのスプーン自体が輝きを放っている。
クルエラが「えぇ!?」と声をあげる。
フィリップは奇妙なことにその緑の光に懐かしさを覚えていた。
光が弱まる。
消える。
そしてフィリップの手には黄金色のスプーンが握られていたのだった。
――フィリップの現在の所持金
銅貨10枚(4000円相当・財布)
銀貨12枚 銅貨20枚(104000円相当・クルエラ管理)
黄金色のスプーン(未鑑定)
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