絶望のゴールデンタイム
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道化師の襲撃に備えて、亜人種課の面々が避難誘導等を行っている最中。
署の前に、大人数を引き連れた男が現れた。
その男は、ニュースなどに出てきている男で、前日の夜に道化師と話し合っていた男、小沢だった。
険しい顔つきで、亜人種課を睨む彼だが足は震わせており、内心では怯えていた。
「どうされました、小沢さん。
……あなたの提出したデモの内容だと、時間は夕方であったハズです」
「私は……今から、ゲリラデモを行う!!
お前達、亜人種課の蛮行を許すことなど、断じて出来ない!!」
その、怯えを断ち切り。
彼は、目の前に現れた職員を突き飛ばしてメガホンを口前に添え、亜人種課を糾弾する。
「お前達亜人種課は、ところ構わず命を殺め
、子供達にも悪影響を及ぼし、更には無実の鬼を殺し、手柄をでっちあげる最低最悪、悪辣極まった存在だ!!
今すぐに解体し、所長の煌月 灰利を牢屋へぶち込め!!
そして大虐殺者の玄人は罪をその命をもって、裁かれろ───────!!」
「そうだそうだ、噂に聞けばお前達は、賄賂を渡したら罪を逃れられるらしいな!!」
「あと、強姦魔が在籍していると聞いたぞ!!
どういうことか聞かせてもらおうか!?」
突如始まったデモ。
それに職員が対応しようとするが、即座に彼らの周囲に筋骨隆々の、屈強な男達が小沢達のバリケードとして立ちはだかった。
玄人は現在、不在である。
理由としては彼は現在、爆破事故に対する報告を行いに、そして他の警察組織にも避難誘導等の手伝いを行ってもらう為に警察署へと向かっていた。
それが災いして、対応に戸惑う職員たちを見て今がチャンスだと即座に小沢がさらに捲し立てる。
「我々の言ってることは間違っているのか!?
犯罪を犯した鬼は牢屋に入れればいいだろう!?
それを良くもまぁ、何食わぬ顔で殺そうとするものだ!!」
「社会的弱者の鬼を苦しませて……楽しいのか!?」
そして小沢に続き、他の者達も糾弾し始める。
そんな連鎖を、向かいのビルの屋上から高みの見物で歓楽する者がいた。
その者、道化師は傍に
「“醜いですねぇ人は。”
“折角カレらは命を賭して彼らを守っていたというのに”」
「下らねぇ。
酒を飲んだ方がマシだぞ、こんなバカらしい景色の歓楽なんぞ」
言いながら、巽は背を向けてその場から去ろうとする。
しかし、
「……まぁ、貴方はそういう人だと思いましたよ。
純粋な血が湧き、血を沸かす。屠り、燃やし、粉砕し尽くす。
生殺与奪が、人の形となった特異な存在がアナタ、ですからね。
しかし…………これなら、アナタも湧くでしょう?」
巽が道化師へ振り返る。
彼が道化師の手へ視線を向けると、その手にはリモコンが握られていた。
「それはなんだ?」
「“花火を見る為のスイッチです”
“さぁさぁ……ご照覧あれ”」
スイッチを押す。
その瞬間、亜人種課前にいた小沢が突如として苦しんだ様子で膝を着いた。
「…………ぐ、おおおぉ…………!!」
「小沢さん、どうし───────」
仲間の一人が駆け寄った刹那、大爆発が巻き起こった。
その爆発は亜人種課のビルを爆風で巻き込み、窓ガラスを割尽くした。
「あーあ……ちょっと足りなかったかな。
まぁ、いいや。じゃあね、バカなオッサン。
……あの時、ただ手を握らせるわけがないってのに、呪術を知らないからこうなるんだ。
骨の一部を爆弾に変えるなんて、思いもしなかっただろうね」
「なんだ、たまには面白いことするじゃあないか」
「それだけじゃないですよ」
リモコンを投げ捨てて、道化師が指を指す。
巽がつられて視線を向けると、そこには巨大なモニターに移る道化師の姿があった。
どこかのニュース番組の舞台にいる彼は、現在そこにいるという、矛盾した事実が起きていた。
しかし、巽はその理屈を瞬時に理解するのだった。
「なるほど、自分を増やしたのか」
「ええ、容易いことです」
『“Ladies and gentlemen!!”
“ワタシは、復讐劇のシナリオライターでございます”』
深々と頭を下げるモニターに映る道化師。
バルーンを抱えているその光景は、どこか異様に感じられた。
『“コレより開幕されます劇には、アナタも、アナタも参加できます。
包丁を取れ、カッターを持て、血を啜れ!!”』
言いながらバルーンを曲げ、何かバルーンアートを作ろうとしている。
その形は、マシンガンを模しておりどこか不穏な雰囲気を醸し出していた。
『……ちょ、ちょっとなにを』
固まっていたアナウンサーが、勇気を振り絞って道化師に歩み寄る。
道化師が振り返ると、彼の手元にあったバルーンはいつの間にか、マシンガンへと変貌していた。
『“煩い端役にはご退場をお願いします”』
『え───────』
道化師が引き金を引く、次の瞬間には火花と共に弾頭が次々と放たれた。
弾丸はアナウンサーの身体に穴を開け、無惨な肉塊へと調理する。
次々と、道化師は銃口の向きを変えてその場にいる人達を同じ様に調理していく。
そして、一人ぽつりと残った劇場で道化師は、昂り叫んだ。
『さぁ、殺し回ろうじゃないか?』
そして、モニターの映像が途切れる。
その一幕に、巽が目を輝かせながら大太刀の束を握り直した。
「…………もう、いいのか?」
「えぇ、しかし貴方は───────」
言い終える前に、巽が姿を消す。
道化師が亜人種課の方へ視線を向けると、その中央には巽がいるのだった。
「よぉ、早速だがお前たちを鏖にする」
「き、きさ───────」
突如と、腕から“焔”を発言させて周りにいる亜人種課職員達を燃やし始める。
声も出す暇すらなく、彼らは燃えて灰燼と化していったのだった。
そんな綺麗な惨殺の流れの中、道化師は違和感に気付く。
有望な職員達の姿が見つからない。
違和感の正体を察し、道化師が首を傾げる。
「…………避難を開始させたか?
動きが速いな、流石は煌月の最高傑作だ」
コツコツと革靴の音を鳴らし、道化師がビルの屋上から飛び降り、着地して巽へと歩み寄った。
「引きましょう、貴方は夕方から暴れてもらいます。
……何ごとも、手順が必要でしょう?」
「───────この祭りを前にか?
いいが、お前はつまらんな」
渋々と道化師の言う通りに従い、巽と道化師が姿を消すのだった。
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