終結
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「“ふむ、正直に言うと意外だったな。
キミが、その力を既に会得しているのは。
異能が発現する時、それは自身の死に瀕した時のみ”」
「道化師……!!」
「“やぁ、悪魔の子よ。
……しかし、まぁなんということだ。
キミがそのチカラを持っているということはワタシの欲しい力が手に入れれないということだ”」
残念そうに呟く道化師。
その直後、持っていたステッキの形が変わる。
形、なんてどころじゃない。ステッキは突如として、マシンガンとなったのだった。
授業で、武器のカタログを見せられたことがある。
その時はなんのために、なんて考えていたがその理由が今わかった。
その銃はとても昔の銃であり、第二次世界大戦の頃に大日本帝国が使用していたとされるマシンガン。
九十二式重機関銃が、
「“じゃ……まぁ、死んでもらおうかな”」
銃口はオレに向いている。
オレはすぐにナイフを懐から出した。
未知の敵との遭遇のせいか刹那が、どうしてか久遠のような長い、長い感覚となる。
そんな緊張感の中、僅かに火薬の香りが鼻腔をくすぐった。
─────今だっ!!
放たれる小さな流れ星。
一秒間に七発。それを計四回。
そして、残った二発の弾丸は何故か、温存されたままだった。
計二十八発。
なるほど、こうやって法外に武器を入手する可能性も見越して、覚えさせていたわけだ。
弾丸さえ数えれれば、相手の余裕がどれほどが分かるのだから。
「───ハッ!!」
冷静に、迫り来るその弾丸の雨を切り、払い、避ける。
そんな感じで道化師を放った弾丸を回避、したものの……オレは早速、道化師の罠に引っかかってしまった。
「“チェック”」
道化師が指を鳴らすと共に地面から杭が生え、オレの身体を突き立てる。両足、両手が拘束される。
「“残念だったね、私の狙いは初めから彼さ”」
そう言い、道化師は藤也へと踵を向けるのだった─────
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「ぐっ……クソ、動かねぇ……!?」
手足に刺された杭を、何とかして折ろうとオレは力を込めたが、杭はピクリともしない。
象を背負い投げするかのような、そんな絶望感がオレを襲う。
そうしてる間にも、道化師は藤也の元へとのらりくらりと近づいている。
……まるで鎌を持った死神だ。仮面の下は歪に藤也を、オレを嘲笑っているかのような、そんな歩き方だった。
「”……そういえば、キミは面白いことを言っていたね。
『生きるこそが罪を償う方法』とな?
そうなれば世の殺戮者は処刑になることは有り得ないハズなのだよ。
キミの暴論、幼童のような理論は聞いてて耳が痛くなる“」
九十二式の形を変化させる。
小さくなり、ソレは拳銃となった。
拳銃の中でも指折りで威力が高いとされている名銃。
数々のハリウッド作品でも登場した、皆が見慣れたその銃……デザートイーグルと九十二式が変化し、藤也へと銃口を向けた。
獲物を狙う荒鷲のように、その銃が光る。
「それが友情から動いたものだとすれば尚更だ。
君は理解するべきだ、人が一番持っては行けないモノ、ソレは感情なのだと。
感情がなければキミも、ワタシも。
このような狂行なぞしなかったのだから」
「……感情的だね道化師。
何が感傷したのか知らないけど、僕はキミには殺されたくはないね───!!」
珍しく感情的になっていた道化師の隙を、藤也がついて呪術による奇襲を仕掛ける。
火球を顔面へ向い放たせ、しっかりと顔面へと命中させた。
「……やるね、因幡クン」
道化師が藤也の足場を杭状へと変化させる。
しかし、藤也は後ろへ跳んで回避する。
「”まぁ、腐っても鬼狩りの一族、流石は殺人劇の主人公だ。
この攻撃を回避するとはね。
だが残念だ、ここで劇の内容の変更だ“」
道化師が指を鳴らす。
また藤也の足元を杭状に変化させるのか、そう予想していたがそれは不正解だった。
雑草が肥大化し、藤也を包む。
そして、葉から無数のトゲを生やして、藤也の身体を貫いた。
「……ガッ、ハ……!!」
「藤也……ッ!!」
「“内容は至ってシンプル。
君は端役である被害者へと転落だ。
その変わり、ワタシが新しく殺人鬼へと成り上がろう。
手始めに、キミのオトモダチを殺す”」
宣言すると、道化師は木の枝をガトリングへと変化させる。
……オレはというと未だにこの杭を折ることが出来ていない。
───まだ、伊藤にすら会えていないというのに、ここで死ぬのか?
あの理不尽を、理不尽のままで終わらされるというのか?
……クソ、クソクソクソ……!!
そんなこと、いいわけないだろうに……!!
怒りの炎を、燃やす。
憎悪の炎を、滾らす。
壊す、壊す、壊す、壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す……!!!!
この杭をまずは、そして次にこの感情を見せようとしないすかしたヤロウを。
そして……伊藤を、絶対に壊してやる……!!
「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!!!!」
力を入れ、再度杭をへし折ろうと試みる。
しかし、虚しくもヒビすら入った感覚は無い。
「“……まぁ、キミはとっておきで殺してあげようかな。
ガトリングで殺すのはあまりにも芸がない。
ここは、アイツらみたいな殺し方をしてあげよう”」
そう言いながら、道化師がオレの肩を掴む。
「“ワタシはね、有機物、無機物の何かを変化させる、変化という『禁呪』を保有している。
……つまり、キミを異形にして殺してあげることが可能なんだ”」
───それを聞いた瞬間、オレは殺されるのだと理解した。
心の奥底から、嫌という程に理解をさせられた。
身体中にお湯のような感触が走る。
これが呪力を付与された状態なのだろうか。
後は、この地面や、ステッキのようにオレは人としての生を終えるのだろう─────
そんな、諦観は一瞬にして消えた。
力が沸きあがる感覚と共に。
道化師もどこか不思議そうに首を傾げていた。
……今なら、この杭を壊せる気がした。
「どういうことだ、源に力が……?」
「力をくれてありがとうよ、道化師!!」
杭をへし折りながら、道化師に殴り掛かる。
今の力ならきっと、鋼だろうと突き破れる。
そんな気がした。
道化師の顔へとめがけて、オレは拳を振るう─────!!
「“残念”」
道化師がそんな、負け惜しみじみたような余裕を見せる。
拳が道化師の顔へと接触する。
鋼すら貫くであろうオレの腕は、まるで木の枝のようにポッキリと別方向へと折れ曲がった。
「グ、つぅ……!!」
「“ウルツァイト窒化ホウ素……ダイヤモンドよりもさらに硬いとされる硬質だ。
わざわざ海外まで飛んで触った甲斐があったよ”」
お返しだと言いながら、道化師がオレへと一撃加える。
まるで羆のような獰猛な膂力に、思わずオレは吹き飛ばされた。
「“三毛別羆事件、石狩沼田幌新事件……その主犯である羆は、素晴らしい膂力を持っている。
本来ならば、首が吹き飛ぶところだったが、鬼の血に助けられたね”」
地面を転がる。まるでサッカーボールかのように。
そんな中、背筋から鋭い痛みが走り、腹部を貫く杭が現れた。
「“そこで寝ていたまえ”」
指を鳴らし、道化師が雑草を元のサイズへ戻す。
そこには、まるでアイアンメイデンのように数多の箇所に風穴を作られた藤也の姿があった。
「“───何か、言い残すことは?”」
「藤也……逃げ、ろ……!!」
藤也は逃げることなく、その場に立っていた。
逃げる体力もない、と言った方が正しいだろう。
そんな藤也の肩に、残酷にも道化師が手を乗せる。
すぅ、と一呼吸おいて藤也は、
「蒼龍に、ありがとうってだけ言っておいてくれ」
───その瞬間、藤也の身体が膨れ上がり、破裂した。
「藤…………也ァァァァァァァ!!!!!!」
慟哭する。
あまりにも惨い、惨すぎる親友が虐殺された姿に、神はいるのかと疑ってしまう。
否、神などいない。からこそ、藤也はこんなにも可哀想な死に方をしてしまったのだ。
「道化師ィ……!!」
道化師を睨む。
こんな惨い死に方をさせたクソ野郎を、絶対に殺すと睨みつける。
「“───次は、キミだ。
最後に一つ、良いことを教えてあげよう”」
どこか嬉々とした声音で道化が語った。
「“───因幡藤也、彼の凶行を仕組んだのはワタシだ”」
「やっぱり、テメェが……!!」
「───ほう、其れはいい情報を聞いた」
まるで槍のように飛来し、オレと道化師の視線を奪うのは、灰色の髪色をした男だった。
オレの恩師であるその人は、犯罪者達にはこう呼ばれ恐れられている。
「“死神───!!”」
「やぁ、道化師。
どうやらお前は本当に│そう《・・》みたいだな」
呪装具なのか、玄人さんが巨大な鎌を道化師へと向ける。
「“さて、面倒なことになっ───”」
「俺もいるぞ、道化師……ッ!!」
道化師の顔面を、鞭で鞭打するかのように鎖で打つ。
蒼龍が、遅れながらもこの場へと現れたのだ。
道化師はその鞭打に飛ばされ、川へと落ちる。
……藤也の死を目撃してしまったんだろう。
蒼龍の目には明らかな怒りが灯っている。
川へ落ちた道化師へもう一撃加えようと蒼龍が歩むが、玄人さんに止められた。
「やめておけ。罠だ」
「“……おや、バレてしまいましたか”」
「その川に僅かな粘性を視認した。
……硫酸かなにかにしたのは即座に分かったよ」
川の中から、道化師が顔を見せる。
ふと、玄人さんがオレの方を一瞥し、
「そうか。その腕、役に立ってくれてよかった」
満足気に頷いて、呪術を唱え始めた。
「“憐憫なまでに身を焦がされるその罪人達。
地獄の業火をその身で喰らい、暗い帳の底へと朽ち落ちゆく。
溢れ出し禁忌達が焼き、滅ぼし、笑う。
そこには聖人君子はいない、菩薩も然り。
天災を巻き起こし第六天魔王の生き写しとなりて、全て焔で飲み込もう。
朱雀、炎ノ極地───『煉獄』”」
その瞬間、焔が現れ、道化師に向かって濁流かのごとく押し寄せる。
青白いその炎は無数の魂のように。
冥府へと共にゆこうと言わんばかりに道化師へと迫った。
「“出たな、お得意のお遊びが……!!
禁呪をそんなにバカスカ唱えて何が楽しいのやら……!!”」
道化師は、川の水をドーム状にして自身を隠してしまった。
炎が衝突する。
やはりと言うべきか、炎はあえなく水の前で完敗を喫し、消えていった。
「腐っても、マグマ並の温度はあったんだが……普通の川の水ならば炎を消すこと等出来んはずだがな」
「“川の水は演出というやつさ。
ワタシはただ、この周辺の大気を二酸化炭素のみにして消しただけさ。
知ってるかい? 炎はね、水以外にも二酸化炭素を増やしさえすれば消えるんだ”」
砂埃などなかったというのに、わざとらしく道化師が自身のスーツを払う。
「“ところで、風魔がいるということはあのオカマは死んだのかい?”」
「殺した。てめぇだって藤也を殺してんだ、おあいこだろう?」
「“そうだね。というわけで逃げてもいいかい?
流石に、分が悪い”」
道化師が指を鳴らすと、ぬかるんだ地面が絶壁と変化した。
「“ウルツァイトの壁だ。流石に破壊することなど出来んだろう?”」
「シッ───────」
道化師が自信満々に言うが、それを容易く否定するのは玄人さんの渾身の一撃だった。
見えなかった。その一撃を、オレは捉えれなかった。
ウルツァイト窒化ホウ素という世界一の硬質を持つ絶壁は、玄人さんがいとも容易く破壊したのだった。
「“うわ、怖いねぇホントに”」
余裕な態度で道化師が呟く。
壊すのを道化師は予期していたのか、自身に羽を生やして、空を飛んでしまっていたのだった。
「逃がすか─────!!」
蒼龍が呪装具の鎖を伸ばし、道化師へと一撃入れようと試みる。
二人の距離は役百メートルほど。
ホントに、どうやってそんな大移動をしたというのだろうか。
そんな、余裕で距離のある鎖を道化師は、口からチューイングガムを吐き出して、ソレをさっきのように壁にして防いだ。
……オレは見てるだけだった。
下手に抜けば失血死する可能性がある、だから動かなかったのもある。
しかし、それにしても情けなさすぎる。
友人一人すら守れず、このザマだ。
穴があったら入りたい。
必死に歯を食いしばり、オレは最後に一回、道に転がっていた小石を道化師がいた方へ向かって投げる。
恐らくは当たらない。けれど、攻めてもの抵抗のつもりだった。
オレは、大切な人をまた一人亡くしてしまったのだった─────
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