第7話 しまむらのブラ
一瞬、頬と頬が触れ二人でハッとして、磁石の同極が弾けるように身体を反らすと、思わず顔を見合わせて、「ごめんなさい」と照れる。
「あ、このタブレットで観るのではなく、テレビにタブレットの映像をキャストして映し出すんだ」
気を取り直したかのように機器について説明する早川君。
「キャスト? そんな事ができるんだ」何が何だか、機械音痴の私にはサッパリ分からない。おかげで先ほど頬が触れあった事など忘れてしまう。
「うん、無線を使ってテレビに接続している機械に音楽や映像をストリーミングデータ-として配信するんだ、簡単に言うとスマホやタブレットの画面がテレビで観れる、という事」
(???)
説明されても良く理解できないが、タブレットではなくテレビを観るという事は分かった。
「うんうん」、と分かってないくせに頷く私。
「ソファーに座って観ようか」彼がそう言ってソファーに腰かけたので、私も少し離れてソファーに座る。
「エッチな動画のサイトはたくさんあるのだけど、有名なところでいうとこれかな」
いつの間にか、テレビにはブラウザーのアプリの画面が表示されていた。早川君が検索キーに『アダルト動画』と入力し、検索結果の一番上に表示されているリンクを指して説明してくれた。
リンク先を踏んだのか、裸の女の子画像がいっぱい並んだページが表示された。
あまりの多さに圧倒される。
「え……と、綾瀬さんが書いた小説の冒頭部分は読んだんだけど、主人公はAVに出演する女子大生なんだよね」
「うん、わたしと同じ年代の子が主人公だと書きやすいかなと思って」
「だったら、若い女の子が出演している作品が良いかな」
早川君は表示しているサイトのサイト内検索キーに『10代』と入力し、候補を絞った。
ページが更新され、相変わらず裸の女の子の画像がいっぱい並んだページが表示されたが、今度は、表示されているのは若い女の子ばかりのような気がする。
(なんだか、手慣れてる。もしかしたら早川君もこういうのをよく観てるのかな?)
チラッと横目で確認するが、彼は事務的に作業しているように見えた。
「どれが良いかな? 分からないから、適当に再生してみようか」
「う、うん、おまかせします」
ビデオが再生される。
若い女の子、私と同年代だろう。しかし、びっくりするほど可愛い。それに、とてもAVに出演しているとは思えないほど清楚な感じで、お嬢様と言った感じだ。
(紗栄子を遊びまわっている女子大生風に設定していたけど、お嬢様とまでいかなくても、少しトーンを落とした方が良いかな……)と頭の中でメモを取る。
映像では、簡単なインタビューが始まっていた。
『年齢は? 18歳です』『彼氏は? います』『経験人数は? 8人、かな』淡々と質問は続く。
(経験人数8人って、18歳で8人も経験があるってこと!?)自分とあまりに違い過ぎる。画面の女の子がまるで宇宙人のように思えた。
「この辺、というか冒頭部分は参考にならないから飛ばそうか?」
私が唖然としているのを他所に早川君は、あくまで事務的だ。
たしかに、彼女のインタビューを聞いても、私が書こうとする部分、官能シーンには役に立ちそうにない。
早川君がタブレットを操作すると、テレビの映像も早送りとなり、女優の女の子が服を脱がされるシーンのところで通常の速度に切り替わった。
「この辺で良いかな」
タブレットの操作を止め、テレビの画面に見入る。
ソファーに座る女優の隣に座った男優が、女優のあごをひき唇を近づけると、女優が舌をチロチロと出す。それを男優が大きな口で塞ぎ吸い込むと『うぐぐ』とくぐもった声が女優から漏れる。
唾液が混じる音が鳴り響き、その間にも男優の手は休まずに女優が来ているブラウスのボタンを外していった。
ブラウスが完全に開けると、中から若い女の子に似つかわしくない、セクシーな下着が現れる。薄い紫色の少し透けたレース素材でできたブラだ。
つい、チラリと自分のブラウスのボタンとボタンの隙間から見えるブラを確認してしまう。しまむらで買ったセクシーさの欠片もないオバサン仕様のブラだ。
男優もいつのまにか上半身裸になり、動画はどんどん過激なシーンへと進んでいく。
テレビのスピーカーからはベッドの軋む音に合わせて少女の甘い声が流れていた。
想像以上の激しい映像に、思わず私は(もう止めて!)と心の中で叫ぶ。
「綾瀬さん……、だ、大丈夫?」
30分くらいの映像だったろうか?
ビデオが終了しても暫く呆けていた私だったが、早川君の声で我に返った。あまりのショックに目には涙が溜まっていた。
慌てて涙を拭き、とにかく取り繕う。
「う、うん、大丈夫。
ちょっと、ショックで、なんというかビックリして」
「初めて観たんだっけ? やっぱり、ひくよね」
「うん、あんなにハッキリ見えるなんて思わなかったし、それに……、最後のシーンで二人が抱き合って愛おしそうにしてたけど、あれも演技なのかな?」
「確かに、演技にしては本当の恋人みたいだったし、真に迫っている感はあったよね。と言っても、僕にも実際のところ分からないんだけど、観ているぶんには演技以上のものを感じたかな」
「女優さん、すごく幸せそうな表情だった……。あれは気持ち良かったから?
それとも、本当は男優さんの事が好きだったとか……? ああ、どうなんだろう?」
「まあ、まるっきり好意を持っていないとは言えないだろうけど、仕事として割り切っているんじゃないかな。
それよりも、どうだった? 参考になりそうかな」
私には納得できない。仕事と割り切っているとしても、好きでもない人とセックスをして気持ちよくなるなんて。
私はますます分からなくなってきた。
やはり深刻だ。とても上手く書けそうな気がしない。
「せっかく見せてもらったけど、エッチなシーンの参考にはなったけど、セックスをしている人の心情までは読み取れなかったかな……。
やっぱり経験がないって致命的かも」
「綾瀬さん、考え過ぎだよ。
とりあえず、ストーリーができているんなら、どんどん書き進んでみたら?」
確かに、早川君のいう事は一理ある。迷って答えが出るならまだしも、停滞していては時間だけが過ぎてしまう。
「そうだ!」突然、早川君が大きな声を出す。
「え、どうしたの?」
「僕も、そのコンテストに出品してみるよ」
「え?」
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