似死さんは死にたがり
志珠
第1話 何してるの…似死さん…?
「ふわぁ〜」
チャイムと同時に僕は気が緩んであくびをした。昨日の夜はゲームをやりすぎたせいで全然眠れなかったから、授業中も睡魔と戦っていた。
「今日は早く帰って寝ようかなぁ」
そう呟いた時だった。校庭からキャァぁぁ!と女の子の叫び声がした。その声に甲高い声に僕の眠気は一気に覚めた。なんだなんだと、教室にいた人たちが校庭側の窓に集まる。僕もつられて窓に行く。そこには衝撃的?な光景があった。
人々の注目の先にある、多分悲鳴を出したのであろう、校庭の、もう一枚も花びらのついてない桜の木の近くで女の子が座り込んでいた。そんな彼女が見ていたものは、彼女の近くに植えてあった例の葉も花びらもない桜の木だった。一見なんてことないただの木だけれど、その木には明らかに異質な物?いや人か、まぁとにかく普通じゃありえないものがぶら下がっていた。(もしかして、またあの人か…)
木にぶら下がっている、いや実際には首を吊っている人を僕は知っている。なんなら同じクラスで、隣の席の人だ。何故かブランブランと、まるで遊具で遊ぶ子供のように楽しそうに揺れている。小さすぎて顔をしっかりとは確認できないが、多分似死さんだろう
(大丈夫かなあの人…)
「さすがは似死さん、馬鹿すぎる…」
あの木にぶら下がっている人は似死さん。ま、あの人はただただスリルを味わいたいだけだろう。似死さんはおかしいほどにスリルな体験が好きな人だ。その影響で僕まで巻き込まれるんだけど…似死さんは自殺未遂を犯すことで生と死の間際というスリルな体験を味わっている。要するに死にたがりだ。まぁ、本人はスリルを味わいたいだけだと否定するが、だったら他の方法もあると言うのに、彼女はいつも「死」という方法で味わおうとする。なんで自殺未遂なのか前に聞いてみたことがあったけど、適当に流された。あの人はほんとそうゆう人だ。好きなことには一生懸命で、他のことには微塵も興味を示さない。簡単に言うとただの変人だ。僕は窓から離れて校庭へ向かう。これが僕の仕事。いつも似死さんを回収するのが僕の役目だ。学校の先生や、地域の人たちにも公認されている。……何故僕なんだっ!
校庭に出て木にぶら下がっている人物の後ろ姿を確認する。腰まで伸びた黒髪は首を吊っているロープに引っ掛かってちょっと絡まっている。そして、同い年の女の子にしては少し高い身長。後ろ姿から見てもやはり似死さんだ。顔は見えないけど、多分相当な笑みを浮かべているのだろう…
「はぁ……何してるの似死さん」
僕が声をかけるとぶら下がった似死さんが振り返る。ちなみにこの時もロープは首に掛かって吊られてる状態になっている。よくもまぁそんな器用に…
「おぉ、佐々木やっと来たのか。助けてくれ。このままじゃほんとに死にそう」
そうゆう似死さんは万円の笑みを浮かべている。うん、言葉と表情が噛み合っていない。
「死にたいんじゃなかったの?」
「私は死にたいわけではない。ただ、スリルを味わいたいだけだ」
「意味わかんないし」
スリルを味わいたいからって自殺未遂なんてするか?普通?いや、この人が普通でないだけなのか?
「私が普通かどうかそんなくだらないこと考えてる暇があるならさっさとおろしてくれ」
「勝手に人の心読まないでよ」
はよはよと、似死さんがぶらぶらと揺れながら煽ってくるのに少しイラっとするが、僕は持ってきといたカッターナイフで似死さんと木が繋がっているロープを切った。もちろん踏み台なんてものは用意していないから、似死さんドテッと落ちた。思いっきり腰を打っていた。
「イタタタ、ちっとは優しくおろせないのか?腰痛いし…」
「人の気持ちを考えず死のうとする人の腰の痛みなんて僕は知りませーん。歩ける?」
そう言って僕は手を差し出す。
「だから死のうとしたわけでは…あと、佐々木、お前言葉と行動が噛み合っていないぞ。ツンデレか」
「違うわ!」
僕はポケットにカッターをしまい、似死さんを起こす。
「はぁ〜、マジで死ぬかと思ったわ」
「今度からは人目につかないとこでやってよ。あの女の子その後気絶してたし」
「あんなんで気絶するのか」
「君が普通じゃないだけだよ」
「褒めても何もないぞ」
「褒めてねーよ」
クククと、さっきの会話でツボったのか似死さんはその場に跪いて笑っている。全く何が面白かったのかがわからない。
「なんで笑ってんの?」
「なんでもない、なんでもない。」
「全く…教室戻るよ」
「へーい」
次の授業は確か国語だったけな…そう思いながら、ちゃんと似死さんがついて来ているかを確認する。案の定似死さんはいなかった。
「あの人はほんと…」
来た道を戻る。似死さんは途中で横切った中庭に植えてある竹を見ていた。
「今度はどうしたの?」
「この竹、炭にしたらいい炭ができるだろうねぇ」
「これ学校の竹だし、後片付け大変だからマジやめて」
「チェッ。煉炭自殺もいいと思ったんだけどねぇ」
「ほら早く。次の授業始まっちゃうから」
僕は似死さんの服を引っ張って強制的に教室に連れて行った。
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「佐々木聞いたか!?あの太宰治も5回も自殺未遂を繰り返したそうだぞ!早速私も今から入水に…」
「マジでやめて似死さん、今授業中だし…」
「こうしちゃいられないっ!」
そう言って似死さんは教室から飛び出していった。
「……先生、あれ無視して…」
「佐々木、回収してこい」
国語の先生タイミング絶妙すぎるでしょ…
その後僕は入水をしに逃げ出した似死さんを追いかけ、川から引っ張り上げ、制服はびしょ濡れになるし、着替えもないし、びしょ濡れの状態で学校に帰ってきたら国語の先生には怒られるし、散々な目にあった。
「似死さんのせいじゃん…」
……似死さんの馬鹿ぁぁぁ!!
似死さんは死にたがりです。
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