第11話
遂に今日、フランツの宿屋がオープンする。
既に気の早い冒険者が何名か訪れており、その者たちには隣村の宿屋に泊まるように言ってある。
彼らはソロで村を訪れてきた者たちばかりだったから、彼らが隣村の宿屋でパーティを組む相談をしているのでない限り、ダンジョン攻略が開始されるのはもう少し先のことになるだろう。
ちなみにダンジョンの入口には看板を立てて「ソロ攻略禁止。パーティ平均レベル15以上推奨」と書いておいた。
どうもここのダンジョンはこの世界の他のダンジョンよりも難易度が高いらしい。
他のダンジョンでは少し腕に覚えがあればソロで攻略したり、浅い層であればレベル1の初心者でもうろつくことができるそうだ。
だがここのダンジョンは浅い層から既にある程度強い魔物がうろついているらしい。
だから立て看板を立てておいた。まあ看板の文言を無視したところで罰則はない。
罰則を実現する為にはダンジョンの入口に見張りを立てなくてはいけないからね。今のこの村にはダンジョンの入口で常に見張りをしてくれるような人員はいない。だって危ないから。
うちのダンジョンは何故かダンジョンから外に魔物が湧いて出ることはないが、それでもいつかは出てくるかもしれないとみんな思っている。
「ロベール、フランツの宿屋を見に行こう。ここからダンジョン村の経営が始まると言っても過言ではないのだから」
昼頃、僕はロベールを誘った。
多分いま行けば集まり出した冒険者の姿を見ることができるのではないだろうか。
この行動は別にRTAとは何の関わりもない。ただ単に僕が様子を見たいだけだ。
定期的にゲーム内とは違った状態になってないか、何か予想外のイベントが起きていないか見回るのは大事なことだ。
……それに、ナルセンティア家の資産のおかげでこの状態になるまでの期間を実に数ヶ月分は短縮できた。
それが嬉しくて堪らないので、村を見て回って短期間で村がどれだけ整ったのか実感したいのだ。
「分かった分かった、アンは働き者だな」
ロベールは溜息を吐いてみせるが、僕が声をかけると決まって彼が上機嫌そうな顔になるのを僕は見逃していない。
そんなに僕のことが好きなのだろうか、素直じゃないやつめ。
村の中でも主な施設が建っている辺りを見て回るのに馬は必要ない。僕たちは徒歩で城から出た。
それというのも、宿屋や武器屋などの店は僕が最初に整備した城から村の外までの道に沿って建てられたからである。
だから僕たちはただ道に沿って歩けばそれらの店を視察できる訳だ。
道は既にいくらか踏み均され、だいぶ歩きやすくなっている。やはり広い道を歩けるのは気分がいいものだ。
るんるん気分で歩いていると、まず宿屋が見えてくる。
市民権を無料で得られた分、フランツは店舗にお金をかけることが出来たらしい。三階建ての立派な宿屋がそびえ立っていた。結構な人数を泊めることができるだろう。
この世界では建物の建築にも何らかの魔術を使っているのか、結構な速さで立派な建物ができる。
見ている間に冒険者が宿屋に入っていく。
どうやら隣村の宿屋に泊まってなさいと追い返した冒険者たちがやっと宿屋がオープンしたと知って早速やってきたらしい。
前衛職らしき者が二、三人。魔術師が一人。バラバラと宿屋に入っていく。
彼らだけでパーティを組むにはいささかバランスが悪いだろう。ある程度この村に冒険者が集うまでは酒場が彼らの集う場所になるに違いない。
そう考えると早めに冒険者ギルドが必要な気もする。
「これはこれは、領主さま!」
僕らが視察に来たのに気が付いたのか、宿屋からフランツが出てきてにこやかに頭を下げる。
「おかげさまで自分の店を持つことができました、それもこれも全て領主さまのおかげでございます」
「この村が発展していくに従い二軒軒目、三軒目と宿屋は増えていくことになる。ここが唯一の宿屋になる訳ではないから、慢心せず繁盛させていけよ」
「心得ております」
それからフランツはそういえば、と話を差し向ける。
「お二人はこの間も一緒にいらっしゃいましたよね。お城の方にお二人は兄弟なのだとお聞きしました。ご兄弟で同じ領地を治めていらっしゃるなんてお二人は仲がよろしくていらっしゃる」
フランツはにこにこと笑う。
どうやらフランツの集めた情報にはやや抜けがあるようだ。
「確かに兄弟ではあるが、共に領地を治めているのはだからではない。ロベールと僕は
「待てアン、まだ婚約しただけだ。正式にはまだ婚姻関係にはない」
僕らの言葉にフランツのにこやかな笑顔がピシリと固まる。
「あ……ああ、そういえば貴族の方は男性同士であっても血の繋がりがあっても婚姻なさるのは普通のことでございましたね。どうも庶民の発想では結婚するのは男女という先入観がありまして、すっぽり抜けておりました」
フランツは努めて柔和な笑顔を形作り、動揺を押し隠した。
どうやら僕らが
なんか知らんがいつも一緒にいるお偉いさんたち、というようにぼんやりとしか認識されてないのだろう。
こんなにも僕ら仲がいいのになぁ、と僕はロベールと腕を組んでみせる。
「なっ、ば」
ロベールは謎の音を発してあからさまに狼狽えた。もうキスだってしてるのに腕組みくらいで動揺するとは。
僕たちが
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