第71話
「……つ、疲れた」
アラサーは年甲斐もなく海で大はしゃぎしてしまった。
もう腕とか足がプルプルしてまともに歩くことすら出来ない。
一気に三十歳くらいは年を取ってしまったかのような状態の私だ。
何もかもがしんどい。
なんとか拠点のところまで歩いて行って椅子に腰を下ろした。
あの3人は未だに海でバトルをしている。
躊躇なくスキルを使って水の玉をぶつけてくるアヤメに対し工藤さんもついに本気になった。
以前スケルトンとかイフリートと戦ってる時に見たあの水を操る感じのスキル。
あれをちょっとアレンジしてダメージのないような威力のやつでアヤメに反撃しだしたのだ。
スキルが飛び交う中それに巻き込まれた月城さんが次の離脱者になった。
2人はそんなことは気にも止めずにお互いにスキルを使いながら遊んでいる。
まあ別にスキルってモンスターと戦う為だけにあるもんでもないだろうし、あんな風な使い方も我がダンジョンに限って言えばいいのかもしれないな。
先に一息ついていた私の元にハルカがやってくる。
その手には水の入ったペットボトルが握られていた。
「喉が渇いたかと思って、どうぞ」
「ありがとう。多分月城さんもう少ししたら来ると思うから彼女の分も用意してくれる?」
「ええっもちろん」
ちなみに月城さんもさっきまでの私と同じように手足がプルプルしながらこっちに来ていた。
それでも歩くスピードが若干早くその表情は別にそこまでキツくありませんが?
みたいな顔をしているのは若さゆえその強がりができる体力があるのだろう。
私はそんな取り繕う余裕もなかったよ。
そしてハルカがペットボトルを取ってくる頃には月城さんも私の隣で腰を下ろしていた。
「月城さん、お疲れ様です」
「一河さんもお疲れ様です」
「なんと言うか遊ぶというのも大変ですね」
「ふふっ確かに…」
アヤメと工藤さんはスキルを使ってるからなのだろうか。
お互いに結構大きな海水の塊を宙に浮かせている。
決着の時か。
それをお互いに向けてぶっ放した。
結構な音と共に水飛沫が舞う、そしてその水飛沫が収まるとあの2人は海面にプカプカと浮いていた。
「ハルカ、あれは助けた方がいいのかな?」
「… 放っておけばいいと思うわ」
「放っておくんですか?」
月城さんは若干心配しているがハルカはそういうなら大丈夫だ。
だって彼女は瞬間移動を使えるからね、いざとなれば一瞬で助けられる。
「ハルカがそういうのなら本当に問題ないと思いますよ?」
「そうですか…確かにそうですね」
何より一旦腰を下ろした今の我々の手足はプルプル。
だから自力で助けに行くなんて…素直に言って全くやる気が起こらんよ。
「あっ海で体力を使ったのなら体も冷えたわよね…バスタオルと一緒に温かい物を持ってくるから待っていてちょうだい」
ハルカはそう言うとダンジョンゲートの方に向かった、新居の方に物を取りに行ったのだろう。
月城さんと2人きりになったので少し話そうか。
「どうですか? このダンジョンでの休みはストレス解消になりましたか」
「それはもうっ! こんなに楽しい気分はここしばらくなかったですよ」
「それは良かった…」
他愛もない話をしていると不意に気になったことがあったので聞いてみる。
「そういえば月城さんと工藤さんってダンジョンセンター職員と探索者って関係だけでなくプライベートでも親しかったんですね」
「はいそうなんです。というのも実はそれには一河さんが関係してるんですよ?」
「え?」
何ですかそれ、初耳だ。
そして話を聞いてみる意外なことがわかった。
「工藤さんがいたんですか? あの初心者の為のダンジョン講習の時に?」
「はい実はそうなんです」
私は以前ちょっとした気の迷いから本気で探索者になろうとした時期があった。
人類はダンジョンに初めて入った時に何かのスキルを一つだけ得る、そのスキルに人生の一発逆転を賭けて。
「しかしあれは初心者の為のダンジョン 講習だったはずで工藤さんが探索者になったのは何年か前だと…」
「それはですね…」
そして話してみると。
どうやら工藤さんは一般参加者に混じっていたらしい。
そういう依頼をダンジョンセンター側である月城さんが工藤さんにしたそうだ。
何でも最初にダンジョンに行く時に我々がスキル一つ与えられるわけだがそのスキルが有用かどうかが気になるのは本人だけではないらしい。
とりわけ…禄でもない連中というのが どこの業界においてもいるって話だ。
ダンジョン関係の方にもそういう人間の闇組織があるのだそうだ。
そういうゴミク…コホン。
そう言う連中は有用なスキルを持ちかつ警戒心が薄く、組織などに守られてもいない駆け出しの個人というのはまさにカモなのだ。
その人間の個人情報を調べ上げ、家族関係なども調べたり。
そこで掴んだネタで脅して有用なスキルを得た人間を闇バイト的な組織に取り込むらしい。
そういう人間の手先が初心者ダンジョン講習の中に混ざっていないか、そしてそういう人間がスキルを得たばかりの一般人に接触しないかなどを見張る。
そういう依頼を工藤さんは引き受けてあの講習に来ていたそうだ。
そんなの全く気づかなかった。
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