第47話 倍返しはデフォルトだよね?①
「……あれ、俺の聞き間違いかな? 君は今、なんて言ったんだ? まさかこの俺の提案を断る気じゃないよな?」
ああ、よかった。
ちゃんと伝わっていた様だ。
「ああ、それとも何か? もし俺がダンジョン攻略を進めてお前達から我が物顔でアイテムをぶん取ったら、笑って許してくれるのか??」
俺がそう言うと、ユウキは顔を引き攣らせる。
「屁理屈を……。オーディンに会いゲームに囚われた人を解放する為には世界を渡る為に必要なキーアイテム『ムーブ・ユグドラシル』が必要なんだよ。ユグドラシルショップが無くなった今、そのアイテムがどれだけ希少かお前にも分かるだろう?」
「なんだ。よくわかっているじゃないか。そんな希少価値のある物を崇高な志を口頭で伝えれば、素直にこれを渡すと思ったのか? DW経験者ならわかると思うが、回数制限付きの『ムーブ・ユグドラシル』なら中級ダンジョンや上級ダンジョンでもドロップする。人に物を強請るよりも先に回数制限のある『ムーブ・ユグドラシル』を手に入れる努力をしたらどうだ? まずはそこからだろ」
こいつはそんな当たり前の事もわからないのだろうか?
ああ、わからないからこんな事をしている訳だ。
冒険者のランクもCみたいだし、こいつに渡す位なら『ああああ』かカイルに渡した方がまだマシだ。
「うぐぐっ……。今日の所はこの位にしておいてやる。顔は覚えた……。精々、その『ムーブ・ユグドラシル』を無くさぬよう気を付けるんだな!」
ユウキは悔し顔を浮かべると、マントを靡かせそのまま去っていく。
あれがこのDWの世界に転移した事を喜んでいる連中『転移組』か……。
中々、ヤバい連中だな。主に頭と思考回路が……。
まあいいや。とりあえず、掲示板でも物色しよう。
何か面白そうなクエストが貼られているといいんだけど……。
掲示板の前でクエストを眺めていると、視界にアホ毛が映る。
「えっと、何の用ですか。さっき話は終わったと思ったんですが……」
「まだ話は終わっていません! 副協会長がカケル様との面会を申し出ているのです。お願いだからついて来てください!」
正直言って邪魔だ。鬱陶しい受付嬢である。
俺の目の前でピョンピョン跳ねないで欲しい。
掲示板が見えないだろ。
「カケル様!?」
「あーわかったよ。一分だけな。一分経ったら帰るから」
「ほ、本当ですかっ!?」
俺の言葉に受付嬢が笑顔を浮かべる。
「ええ、本当ですとも」
「それじゃあ、副協会長を呼びに行ってきますね!」
「はいはい。行ってらっしゃい」
そう言って、手をひらひら振り、受付嬢が扉の中に消えた瞬間、一分が経過した。
「……よし、帰るか」
受付嬢には一分経ったら帰ると言ってある。
嘘は付いていない。
副協会長が来てから一分だなんて誰も言っていないのだから。
他の受付嬢達が唖然とした表情を浮かべる中、冒険者協会の外に出ると、俺はダンジョンに向かう為、転移門『ユグドラシル』へと向かった。
「いやぁ~。それにしても、変な奴が増えたなぁ~」
DWがゲームであった時からおかしな連中は相当数存在したが、ここまでではなかったような気がする。
転移門『ユグドラシル』に辿り着いた俺は、メニューバーを開き、行きたいダンジョンを選択する。
「転移。デザートクレードル」
転移門の前でそう叫ぶと、俺の身体に蒼い光が宿り、広大な砂漠ダンジョン『デザートクレードル』へと転移する。
転移すると先程までいた街の喧騒は消え去り、代わりにまるで砂が歌っているかの様な低い音やモンスターの声が聞こえてくる。
ここは、通称『砂漠のゆりかご』と呼ばれる上級ダンジョン『デザートクレードル』。
転移門『ユグドラシル』から離れた場所には、あちらこちらに蟻型モンスター、アントライオンが掘ったすり鉢状の巣穴があり、その巣穴の中には、様々なお宝が眠っていると言われている。
まあ、実際の所、アントライオンの落とすドロップアイテムがお宝みたいなものなのである意味間違っていない。
さて、なんで俺がこのダンジョンに転移したのか。それは……。
「ねえねえ。そろそろ出てきてくれない? 用があるみたいだったから折角、人目に付かないよう上級ダンジョンに転移してきたんだからさ」
そう言うと、サボテンや岩の後ろから数名のプレイヤーが姿を現す。
「……へえ、ワザと上級ダンジョンに足を運んだの? 流石はSランク冒険者、まさか俺達の尾行に気付くなんてね」
「課金装備『モブ・フェンリルスーツ』には、探知機能も付いている。同じDWプレイヤーなら知っているだろ?」
つーか、中級ダンジョンで手こずっている奴等がよく上級ダンジョンに入ってきたな。怒りで我を忘れているんじゃなかろうか?
「確かに……。まあ、この世界が現実になった今、そんな着ぐるみを装備するのはお前以外存在しないみたいだけどな。まあいいだろう。よくもこの俺を冒険者協会で虚仮にしてくれたな……。お前の事は絶対に許さないからなぁ!」
「へえ、別に許してくれなくてもいいけど、仮に許さなかったらどうするつもりなの?」
興味本位で聞いて見ると、ユウキはほくそ笑みアイテムストレージから『モンスターリスポーン』を取り出した。
『モンスターリスポーン』は一定時間、モンスターをリスポーンさせる課金アイテム。それを取り出したという事は……。
「決まっているだろ? お前をモンスターに襲わせ、満身創痍になったところで『ムーブ・ユグドラシル』を回収させて貰うよ。いくらお前でも上級ダンジョンのモンスターが相手では対処できまい。安心しな。俺達は安全な所で、お前が無様に蹂躙される様を見学させて貰うよ」
まさか、たったあれだけの問答で殺しにくるとは……。
ちょっと、頭がイカレ過ぎてはいないだろうか?
その風貌からして日本人だよね?
ネット民の心の闇を今知ったよ。
もしかして、この世界をゲームの延長線だと思っているんじゃないだろうか?
ユウキが『モンスターリスポーン』を使うと、ユウキを起点として地面が円形に赤く染まり、次々とモンスターが湧いてくる。
「……さあ、俺達を虚仮にしたこと、後悔するがいい!」
ユウキが高らかにそういった瞬間、エレメンタル達に光が灯り、地面から湧いてくるモンスター達を次々と虐殺していく。
「なあっ!?」
驚愕の表情を浮かべるユウキを余所に、俺は上級ダンジョンのモンスターが屠られドロップアイテムを落としていく姿をボーっとした視線で眺めていた。
流石はエレメンタルだ。容赦がない。上級ダンジョンでも余裕である。
しかし、それでいい。
何故ならば、上級ダンジョンでもエレメンタルが有効である事を今確認する事ができたからだ。
「な、何が起きているっ……。エレメンタルが上級ダンジョンのモンスターを? そんな馬鹿な……。あれはあくまでプレイヤーの補助的な役割を担うだけで、そこまでの力は……」
ふふふっ……。
現実世界の五百万円(相当)をかけて、エレメンタルを強化した事がないのだろう。
知らなくて当然だ。
俺自身、ここに来て、マイルームに入っているエレメンタル強化グッズを潤沢に使い始めてその真価がわかったほどだ。
そこまでDWをやり込んでいない一般の人にそれがわかる訳がない。
何より五百万円なんてリアルマネー、突っ込めるはずがない。
俺もマイルームに入っていなければ検証すらしなかっただろう。
「ふふふっ、俺を殺そうとしたんだ。当然、やり返しても問題ないよね?」
そう言って、課金アイテム『ボスモンスターリスポーン』を使うと、俺を起点として地面が円形に赤く染まり、次々とボスモンスターが湧いてくる。
それを確認した俺はユウキ達から距離を置いた。
「お、お前何をっ!」
随分と焦っているようだ。
イレギュラーには弱いらしい。
「……今、使用したのは課金アイテム『ボスモンスターリスポーン』。良かったな。思う存分、ボスモンスターと戦う事ができるぞ……。安心してくれ。俺は何もしない。精々、生き残って見せろ」
そう言うと、ユウキ達を囲む様に『デザートクレードル』のボスモンスター、アントライオン・ネオが姿を現す。
「あ、あわわわわっ……」
ユウキの冒険者ランクはC。
到底、敵う相手ではない。
『『グララララララッ!!』』
蟻地獄から上がってきた『アントライオン・ネオ』は、ユウキ達に視線を向けると楽しそうに笑った。
「……に、逃げろ。逃げろっ! 俺達のレベルでは上級ダンジョンのボスモンスターには敵わない! すぐに転移門『ユグドラシル』まで退避するんだっ!」
しかし、その願いは届かない。
「う、うわあぁぁぁ!」
「ユ、ユウキ様あぁぁぁ!」
突然、地面から這い出た『アントライオン・ネオ』の触手がユウキの仲間を拘束していく。
「ヤ、ヤマトォォォォ! ヒュウガァァァァ!! おのれぇぇぇぇ!」
叫び声を上げ『アントライオン・ネオ』に立ち向かっていくユウキ。
しかし、圧倒的にレベルが足りない。
捕われたヤマトとヒュウガを助ける為、『アントライオン・ネオ』に攻撃するも、剣は欠け、触手すら倒す事ができない。
すると、『アントライオン・ネオ』を前に、俺に顔を向けユウキは叫び声を上げた。
「お、お前に人の心はないのかぁぁぁぁ! ボスモンスターを呼び出し、俺達に戦わせるなぞ、そんな事が許される筈がないっ! 今すぐこれを止めろぉぉぉぉ!」
「お前こそ人の心がないのか? 俺はお前にやられた事を倍返ししているだけなんだけど……」
そう言うと、ユウキは顔を引き攣らせる。
そして俺との問答は無駄と悟ったのか、欠けた剣を手に『アントライオン・ネオ』に向かって駆け出した。
「う、うわあぁぁぁぁ!」
ガキンッ!
「あっ……」
当然、上級ダンジョンのボスモンスターにCランク冒険者が叶う筈ない。
『デザートクレードル』のボスモンスター、『アントライオン・ネオ』を前に恐怖の表情を浮かべると、触手の一つがユウキを吹き飛ばし地面に横たわる。
所詮は触手の一撃。Cランク冒険者のステータスであれば耐える事ができるだろう。
周囲を見渡せば、俺を『モンスターリスポーン』で殺そうとして失敗し、横たわるユウキと今も触手に締め上げられているユウキの部下が二人。
「エレメンタル。あの三人を護れ」
俺の声を聞き、エレメンタル達がユウキ達の守護に着く。
「さて、それじゃあ、レアドロップ狙いのボスモンスター討伐といきますか」
そう呟くと、エレメンタルに光が灯り、『デザートクレードル』のボスモンスター、『アントライオン・ネオ』の頭に光線が走った。
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