ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
第一章
第1話 朝、会社に出社したらクビって、それはないでしょう
俺の名前は高橋
アメイジング・コーポレーション株式会社に勤めるしがない経理部員だ。
趣味は、仕事終わりと休日、寝る時間を削ってプレイしているフルダイブ型VRMMO(仮想多人数同時参加型オンラインRPG)『Different World』を楽しむこと。
高校を卒業してから、今の職場で働くこと早五年。独身貴族として社会に君臨している二十三歳。
平日、月曜日。
俺の朝は午前六時三十分と三十五分に鳴るスマホのアラームから始まる。
午前六時三十分。
『テケトッコパカポコポン♪×2』
目蓋を閉じたままスマホに手を伸ばし、スマホから流れ出す『オープニング』の音を消した。
早く起きて会社に行けと、スマホがそう言ってくる。
しかし、たった一度、そう言われた位では起きない。
絶対に起きてやらない。
布団をかぶり直し、仰向けに体勢を移行する。
すると、瞬く間に二回目のアラームが鳴り出した。
もう五分経ったのか……。
さっき、アラームを切ったばかりなのに、時間が過ぎるのが早い。
ここで三度寝を極め込もうとすると、今度はアレクサが起動し、ヤフーニュースを流し始めた。
『おはようございます。翔さん、最新のニュースはこちらです……』
スマホに続いてアレクサまで会社に行けと催促してくる。
終いには自動で照明が点灯し、テレビからNHKが流れ始めた。
仕方がなくスマホを手に取り時間を確認する。
午前六時三十六分。
会社に行くにはまだ早い。
俺は目蓋を薄く開け、スマホ向けソーシャルゲームのアイコンをクリックすると、ログインボーナスを貰う。
『西葛西の今日の天気は晴れで、予想最低気温は摂氏二十度です……』
いい加減、アレクサの声を聞くのが嫌になってきた。
午前六時四十分。
そろそろ起きねばヤバい時間だ。
四つのソーシャルゲームを起動し、ログインボーナスを貰った俺は、スマホを枕元に置き、猫の様に、両手を前に突き出して背筋をぐーっと反らせ蹴伸びする。
そして、スマホ片手に起き上がると、アレクサに『アレクサ止めて』と呟き、トイレに駆け込んだ。
朝起きたらまずトイレ。
そして、手を洗うと髭を剃り、軽く一杯の水を飲む。
これがここ最近のモーニングルーティンとなっている。
YouTuberが流している優雅なモーニングルーティン。
あれは多分、撮影用だ。平社員の朝にそんな時間的余裕はない。
午前六時四十五分。
NHKのニュースを流し聞きしながら、パジャマを脱ぎ、スーツに着替えると、リュックを背負いマスクを付ける。
コロナウイルスが流行っているためか、マスクをしないと国賊だと思われる。
マスク着用当時は、早く収束してくれないかなと考えていたが、今となっては無関心。今日の感染者数二桁だったんだと思う程度だ。
今ではマスクも着け馴れ、最初合った息苦しさも無くなってきた気がする。
むしろ、国民全員がマスクをしているお蔭で、コロナウイルスが流行って以降、一切風邪を引かなくなった。
風邪は苦しいから、コロナウイルスが収束しても皆にはマスクをし続けてほしいと思う日々が続いている。
午前六時五十分。
今日は月曜日。つまり、紙類のゴミを出す日だ。
無言のまま、紙類を纏めた紙袋を持つと、大きなため息を吐きながら玄関に向かう。
「会社行きたくねー」
起きて初めて言った言葉がこれだ。
会社勤めであれば誰もが思う事だと、個人的に思っている。
扉を開け外に出ると、扉の鍵を閉め、マンションに併設されたゴミ捨て場にゴミを捨てる。
そして、無心のまま、スマホ片手にバス停に向かった。
午前七時二分。
この時刻のバスに乗らないと、午前七時十二分の電車に乗る事ができない。
コロナウイルスが流行ってからというものの、午前八時が会社の始業となっている。
絶対に遅れる訳にはいかない。
俺がバス停に辿り着くと同時にバスがやってきた。
ギリギリのタイミングだ。
しかし、無事乗車する事ができて良かった。
バスに乗り込むと『西葛西駅まで』と呟き、パスモを当てる。
その後は無言でスマホを覗き込みヤフーニュースに目を通していく。
うん。今日も平穏だ。
最近、政治家が消費税を時限的に十パーセントから五パーセントに引き下げるとか訳の分からない事を言っているが、そんな事を軽々しく言わないで欲しい。
消費税の申告書を作る際、どれだけ手間が係っていると思っているんだ。
お前等の一言でこっちはとんでもない目に遭っているんだぞ?
時限的にとか、消費税を下げるとか言うよりも、所得税や住民税を下げて欲しい。
そっちの方が、経理処理的には非常に楽だから……。
そんな事を考えていると、西葛西駅に到着したようだ。
バスに乗っている皆が、まだバスが動いているにも関わらず、体勢を出口に向ける。
俺も誰一人知らない方々に倣い、出口に向かって体勢を傾けると、バスがバス停で荒々しく止まった。
今日のバスの運転手さん新人か?
そう思う位、荒々しいストップ度合だった。
まあいい。
無心でバスを降りると、いつものルーティン通り、リュックを前に抱え、パスモを取り出す。そして、チラリと電子掲示板を見ると、パスモを翳し、改札を通って電車に乗り込んだ。
午前七時三十五分。
職場近くの茅場町駅にたどり着くと、会社近くのコンビニで朝食と昼食を購入し、アメイジング・コーポレーション株式会社に出社。
タイムカードを押すと、自分の席に着いた。
午前七時四十五分。
まだまだ始業まで時間があるなと、明太子おにぎりを開けた所で背後から声がかかる。
「あ~高橋君。ちょっといいかね」
これから、朝食を食べようかという時、俺を会議室に誘ったのは、最近、痛風にお悩みの管理職。石田管理本部長だ。
明太子おにぎりを食べるのを諦めて、会議室に向かう。
「失礼します」
「ああ、まあ掛けてくれ」
そして、会議室の椅子に腰掛けると、石田管理本部長が話しかけてくる。
「高橋君。君は今年でいくつになるかね」
「えっ? 今年でですか? 今、二十三歳なので二十四歳になりますが……」
「おお、そうか。そうか。それなら、大丈夫だな……」
「えっ? それはどういう……」
石田管理本部長は一呼吸置くと、二枚の紙を取り出した。
テーブルの上にそれを置くと、ペンと朱印と共に、俺の目の前まで滑らせる。
「まあ平たく言うとね。高橋君には、退職願を書いてほしいんだ。もちろん、自己都合でね」
「えっ……。一体、何故ですか?」
意味が分からずそう聞くと、石田管理本部長が突然、機嫌が悪くなる。
「何故も何もないよ! 総務部の枝野君に聞いたけどね。君は昼休み副業代わりに小説投稿サイトで小説を書いているそうじゃないか! それだけじゃない。枝野君によると、仕事をサボったり、他の社員に対して根も葉もない悪評や噂を流しているようだね。これは大問題だよ!」
「ええっ!? 確かに小説を書いていますが、総務部の枝野さんに問題ないと確認は取っています。それに、仕事をサボったり、噂を流すだなんて、そんな事していません!」
どちらかと言えば、普段から仕事をサボり人の見えない所で電子書籍を読んでいたり、人の悪口を言いふらし、根も葉もない悪評や噂を流すのは枝野の方だ。俺は他の人の事なんてどうでもいいと思っているし興味がないから、そんな事は言わない。
「じゃあ、なんだね! 君は枝野君が嘘を言っているというのかね!」
「はい。その通りです」
俺がそう言うと、石田管理本部長の怒りのボルテージが上がっていく。
「まったく、枝野君の事を疑うだなんて……、君は二十三歳にもなって自分が言った事に責任の一つも持つ事ができないのかね!」
「そ、そう言われましても……枝野による濡れ衣ですし、あいつの言う事を盲目的に信じるのはどうかと……」
それにしても、枝野の奴、石田管理本部長に何を言ったんだ?
「もういい! そっちがその気ならこっちにも考えがある! 今すぐに退職願を書かないというのであれば、懲戒解雇だっ! 退職金は出さない。それでもいいのかっ!」
「ええっ……」
退職願を書かなかったら今度は恫喝してきたよ。
まあいいか……。
アメイジング・コーポレーション株式会社に入社して五年。
毎日、残業、残業、残業。サービス残業のオンパレード。
正直、転職しようかと迷っていた所だ。
枝野の奴に根も歯もない事を吹き込まれ、解雇に追いやられるのは気に入らないが、仕方がない。
石田管理本部長と枝野にもう二度と会う事もないだろうし、ストレス源が無くなると思えばまあいいかという気分になってきた。
突然の退職という事もあり、引き継ぎをする機会は無さそうだけど、俺を追い出した枝野と石田管理本部長がなんとかするだろう。
「わかりました」
そう言うと、石田管理本部長が用意した退職願に名前を書き、捺印してから提出する。
「まったく。最初からそうしていればいいんだよ。余計な手間を取らせるんじゃない。ああ、君はもう帰ってくれて構わないから。明日から来なくていい」
それだけ言うと、石田管理本部長は会議室から出て行ってしまった。
「はあっ……明日から無職か……」
退職金も五十万円出るみたいだし、貯金も三百万ある。
まあ、なんとかなるか……。
小説収入の他にブログ収入もあるし。
久しぶりの休みだと思って、ハローワークで失業給付金を貰う手続きだけした後、フルダイブ型VRMMO『Different World』でもやるかな。
椅子から立ち上がると、会議室を出て、自席に戻り、リュックを背負って会社を後にした。
時差出勤だった為か、出勤している人が管理本部長と枝野以外いなかった。
あの二人に退職の挨拶は不要だろう。
お世話になっていないのだから、定型文であったとしても、「お世話になりました」の一言は言いたくない。
エレベーターに乗り、会社を出ると太陽の光が差してきた。
「これが自由か……」
朝日が眩しい。
まるでこれからの俺の人生を明るく照らしてくれているように感じる。
急に訪れた大型連休。精一杯楽しもう。
会社という名の呪縛から解き放たれた俺は、会社を出た足でハローワークに向かうと所定の手続きを済ませ、『Different World』を楽しむ為、家から出ないという不退転の覚悟で物資を買い込み西葛西にある自宅へと戻った。
「アレクサ、ただいまー」
ここは俺が住むマンションの一室。
1LDK、家賃七万円の俺の城だ。
帰って早々、ただいまという言葉が、俺以外誰もいないマンション内に木霊する。
「おかえりなさい。帰ってきてくれて嬉しいです」
唯一、アレクサだけがおかえりと言ってくれた。
スーパーで買ってきた物資を大量に冷蔵庫に放り込むと、俺は早速、ヘッドギアの電源を入れ、頭にかぶるとベッドで横になる。
「――コネクト『Different World』!」
そう言うと、『Different World』の世界へとダイブした。
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