53 パラリラパラリラ
ルールーに見逃してもらうという淡い期待は叶いませんでした。
あのあと、悪魔たちの住処を城下町を作る感覚で楽しくやっていたところに、大量の紙を持ったルールーが現れました。
そして、そのまま二日間の徹夜をして、ようやく仕事が片付いたのです。自業自得ですが、大変でしたよ……。
文官勢にもかなり働いてもらったのですが、やっぱり人手が足りてませんね。村人の中から希望者を集めて教育しなければなりませんかね?
「教育といえば学校ですよねー」
疲れた体を癒すために、最大まで大きくなったフェンの背中で寝転がりながら、考えます。
人も増えてきましたし、子供も増えていくので絶対に必要だとは思うんですよね。
「学校……独立する頃には作りたいですね」
フェンは寝てるので、私の独り言には返事は返ってきません。
眠気が限界まで来たところで、まぶたを閉じます。
すやぁ、ですね。
そのまま眠りにつきましょう。
バサッ。
バサッ。バサッ。
……ん? なんか、羽ばたく音が聞こえるような。
瞼をあけると、眩しさで景色がぼんやりします。
音は真上から聞こえてきーーうわぁ、フェン、急に起き上がらないでください。
「ワイバーンか!」
そうフェンが叫ぶ頃には目も慣れて、空を悠然と飛ぶ飛竜が目に入りました。まっすぐ村に向かっています。
「巡回してた連中は何をやっていたのだ! 主よ、止めねばまずいぞ!」
「直ぐに行きましょう!」
ん? 何かワイバーンの正面から近づく集団がいますね。
マーガレット城の方からですか。
悪魔たちがぞろぞろと飛んできています。なんか、禍々しい空飛ぶ馬車付きです。すごい刺々しい装飾がなされてます。
しかも、パラリラパラリラと謎の騒音を奏でながらワイバーンの撃退に向かっています。わざわざ音を鳴らすのに魔法を使ってますね。
ワイバーンも気づいたのか、炎を吐き出しました。むむ、あれはワイバーンが自然に吐く炎では無いですね。
かなりの高度な魔法を使ったブレスです。まぁ悪魔たちなら大丈夫でしょう。
「ぎゃぁぁぁ」
「やりやがったのクソ駄竜が!」
「ヒャッハー!」
前言撤回です。めちゃくちゃ燃えてます。そういえば、あの悪魔たちは来たばかりの悪魔たちで、村で訓練された悪魔たちではありませんでした。
大丈夫ですかね……燃えながら突撃してますが。
魔力反応的に死にかけてる悪魔も、弱っている悪魔もいませんが、放っておく訳にはいきません。新参だなんて関係なく、村の一員です。
私が守ります。
まずは悪魔たち全員に魔力による防壁を貼った上で、魔力を直接吸い込ませます。
悪魔なら、これで傷も治るはずです。
「おおお? マーガレットの姉御か。余計なちょっかいを出しやがって……」
口は悪いですが、全員軽く頭を下げてます。言動が一致してなさすぎです。
というか、もう姉御呼びになってるのはなぜです? まだ村に来たばかりなのに……。
「ギャオオオオオ!」
「《天使の子守唄》」
「キャウン?!」
スヤリスの技、便利ですね。あの時魔法を受けた甲斐がありました。さすがに一度見ただけだと固有魔法を真似するのは難しいですが、受けてしまえば解析は楽になります。
「グル……」
……さすがに見よう見まねだと効果が薄かったですか。元々このワイバーンが強いのもあるでしょうか?
「天使の……いや、《聖女の子守唄》」
「ギャウ……」
ちょっと変えてみました。効果は抜群みたいです。ワイバーンは寝ましたね。落下しないように浮かせましょう。
魔法を変えたと言いましたが、効果を強くしただけではありません。実は契約魔法を同時にかけました。なのでこのワイバーンは今日から村にいてもらいます。
丁度、転移を使わなくてもいい移動手段を探していたので、このワイバーンに頑張ってもらいましょう。
アーさんも喜びそうですしね。
アーさん、隠そうとはしていますが、新しく来た悪魔さんたちのように、少し不良っぽい雰囲気が好きなんだと思います。
昔の話をあまりしたがらないのは、少し恥ずかしさがあるからなんでしょうが……別に悪くないと思うんですけどね、私は。
そのままワイバーンは村の農作業で大きな運搬能力を発揮する存在になりました。村のみんなも最初は少しこわがっていましたが、元々色んな種族がいますし、直ぐに慣れましたね。
そして、ワイバーンと言えばなんですが、マーガレット城で創作料理会に出向いた時に、なんとなくワイバーンの住処の方へと行きました。
そこには、ワイバーンをこれでもかと言うほど撫で回すアーさんの姿が。
「おー、よしよしよし。沢山食べて、デビルドラゴンになるんだぞ。そして我を乗せてくれ」
物陰から見てる私には気づいていません。
ていうか、デビルドラゴンって神話に出てくる化け物ですよね? 天使の軍団に対してたった一匹で悪魔の軍勢の殿を務めたという……。
そもそも、ワイバーンがドラゴンに慣れるのでしょうか……いや、この村なら行けるかもしれません。
「よしよし、いっぱい食べるのだぞ。ほら、カブさんの蜜だ」
え? アーさん、カブさんの蜜は貴重なのでシルフィが管理してるはず……あ、さてはこっそり持ち出しましたね?
咎めたいところですが、私もよくやるのでここは見逃しましょう。
むしろ、今度一緒にやりましょうか。
「それと、悪魔たちの魔核だ。遠慮などするな。たくさんある、好きなのを食べるがいい」
超級悪魔やそれ以上の強さを持ち悪魔たちの魔核をぼりぼりと食べています。
……ほんとに進化できるかもしれません。デビルドラゴンに。
なんてことがありました。今はまだ進化していませんが、10日もしないうちにワイバーンは少し大きくなってます。細い体でしたが、段々とドラゴンのようなずっしりとした体型になってきていますね。
「本当にドラゴンになれるかも知れませんね」
「いや、マーガレット様。あれは太り過ぎです」
……え? あれ、がっしりしてるんじゃなくて太ってるんですかシルフィ。
「食事は適切な量だったと思うんですが……誰かが食べさせたんでしょうか?」
そのシルフィの言葉を聞いていたアーさんがビクリと震えます。
何事も無かったかのように、仕事に戻ろうとするアーさん。
ですが遅かったようです。アーさんの細い尻尾を、シルフィが掴んでいます。
「アーさん? 話があるんですが」
「……待て、話せばわかる! 話せばわかるのだシルフィ!」
あぁ、引きずられていきました。最初にあの二人があった時からは想像もつかない光景です。
平和ですねぇ。
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