50 いざ、ダンジョンへ(2)
トンテンカン、トンテンカンと金属同士がぶつかる音が響きます。
村の中心部から少し離れたところ、そこにはこの村唯一の鍛冶師がいます。ルールーが王都から連れてきた中の一人ですね。
村の金属製品の修理はすべてここで行われています。私が前やったみたいに魔法で作り出せることも出来なくはないですが、かなり魔力を消費するのでちゃんと作った方がコスト的にも強度的にも安定します。
「マーガレット様、こんなところまで来てくれるとは」
「こんにちは」
こんなところといっても、村の一部であることに間違いはありません。仲間外れでは無いですよ。
「それで、どの金属に魔力を込めればいいんです?」
「こちらです」
案内してくれた場所には、インゴット上になった三本の鉄がありました。少し少ない気がしますが……武器や防具にすると案外沢山できるのでしょうか?
私、あんまり鍛冶とかの知識がないんですよね。勉強してくるべきでしたか。
いや、こうなったら実戦から学びましょう。この間アーさんに言われたんですが、最近何をするにも慎重というか、行動が遅くなってる気が自分でもします。
守るものが増えて、慎重になりすぎていたのかも知れません。
「マーガレット様?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて……それで、ここにある鉄に魔力を流せばいいんですよね?」
「そうです。鉄の中でも魔力を吸いやすい部分をできる限り抽出したものです。もう少し正確に抽出出来ればいいんですけど……」
鍛冶師さんはすごく申し訳なさそうに言います。
何も悪いことは無いですよ。ここの設備は最低限のものですし、その環境の中でこれほどの抽出を行えたのはあなたの実力です。
元気を出してください。
さて、抽出してくれた鉄に魔力を込めていきましょう。
魔力のこめ方はわかりますよ。魔法と似たようなものです。任せてください。
鉄の内部の隙間を埋めていくように魔力をこめて、密度をあげるイメージです。
「あの……マーガレット様? 凄まじい量の魔力を込めようとしていませんか?」
「気のせいですよ」
せいぜい一割くらいですよ。大丈夫です。多分。
魔力を込めるにつれて、ガタガタと鉄が震え始めます。
よし、仕上げましょう。行きます!
「うわぁ?!」
衝撃波とともに、辺りが光に包まれます。鍛冶師さんが驚いて尻餅を着いたあたりですぐに光は収まりました。
三本あったインゴットのうち、二本は魔力をきちんと内包してる上に、赤く輝いていますね。
もう一本は……なんか、虹色に輝いています。よく物語でみるやつじゃないですか、これ。
「ヒ、ヒヒイロカネ……それにこっちは、まさか、オリハルコン?!」
そんな目でこっちを見ないでください。私もそんな半ば伝説のような金属ができるとは思いませんでした。
だって、全力の一割程度の魔力ですよ? 全力で魔力を込めたらどうなるのか気になりますね……今度こっそりやって見ましょう。
「あの、無理です。俺にはこんな金属扱えません! 設備もなければ腕もありません!」
ヒヒイロカネやオリハルコンを打てる鍛冶師って言うと、ドワーフの中でも大匠と呼ばれる方々だけでしょう。
「やりすぎました?」
「やりすぎです。俺が打てるのはせいぜい魔鉄かミスリルくらいです!」
「じゃあ、それも作りましょう」
さっきのでコツを掴んだので、出来るはずです。
「無理です、マーガレット様。魔力を込めやすい鉄はもう残ってません」
「鉄なら沢山あるじゃないですか」
山のように積まれていますよ。
「いや、あれは普通の鉄なので魔力は込めれません」
「大丈夫です。見ててください」
まったく魔力を吸わない訳ではありません。
私がやると基本的にやりすぎてしまいますが、吸収率が悪いのならばいい感じになってくれるはずです。
行きますよ……えい!
「よし、出来ましたね」
「嘘……本当に魔鉄が出来た」
山のように積まれていた鉄鉱石は全部魔鉄になりました。ここから武器の形まで持っていくのは大変ですが、ダンジョン攻略組のためにも頑張ってほしいですね。
後のことは鍛冶師さんに任せます。
ヒヒイロカネとオリハルコンは表に出すと間違いなく問題が起きると思うので隠しておきます。
「あー、マーガレットお姉ちゃんがなんか隠してるー!」
お腹に隠したのが良くなかったのか、途中で子供たちにもみくちゃにされました。最初から魔法で隠しておけばよかったです……。
今ではちゃんと家に保管してあります。
ただ……高位の金属というのはそこにあるだけで存在感を放つようで。
ヒヒイロカネとオリハルコンを作ってから1週間、立派な髭を蓄えた少し小さめの人達がズラっと並んでいました。
「マーガレット様、彼らはドワーフですよ」
ルールーが教えてくれますが、私だってそれくらいはわかりますよ。
「ここに、オリハルコンとヒヒイロカネがあると思うのだが」
「ありますね」
「……帝国から盗んだか?」
そんなわけないでしょう。私が作ったんですよ。
「なんと……!」
「そんなはずがない!」
信じてくれるドワーフと、全然信じてくれないドワーフで綺麗に別れましたね。
よく見ると、信じてくれたドワーフの髭は白いです。信じてくれないドワーフの髭は黒いですね。なんの違いですか?
「では、どうやって作ったのだ?」
「私が魔力を流して、作りましたよ?」
「……化け物か」
久しぶりに言われた気がします。白髭ドワーフさんたちは素直に信じて驚いてくれますが、黒髭ドワーフさんたちはこそこそと何かを話しています。
「ヒヒイロカネやオリハルコンをつくるなど、神の領域だ。到底信じられるものでは無い! やはり、帝国から盗んだのだろう!」
「む、お前ら、この方の魔力を測れんのか。それは言いがかりだろう!」
「何を言うか白ドワーフ。相変わらず頭の悪い連中だな!」
「なんだと? 貴様たち黒ドワーフこそ、権力などというつまらない物に染まってるんじゃないのか?」
「あ?」
「あ?」
なんか、喧嘩が始まりました。殴り合いです。
……かなり腕っ節は強いのでしょうから、激しい殴り合いになってます。ただ、ドワーフの見た目が少し子供っぽいので、あまり危険な感じがしないというか。
「止めないんですか? マーガレット様」
「そうですね……そろそろ止めますか。みなさん、何で喧嘩してるのか知りませんが、村の中で暴れられると迷惑なのでやめて貰えますか?」
私がそう言うと、ドワーフ達の目線が私に集まります。あれ? 敵意が私に向かってません?
「ドワーフ同士の問題に口を出すなど!」
「そうだそうだ! 人ごときが!」
そういって、ドワーフたちは私に向かってきます。
そして、次の瞬間に私の後ろから出てきた村のみんなにボコボコにされました。
……10秒くらいでドワーフたちは地面に縛られた状態になります。
「……話を聞きたいので、白いドワーフと黒いドワーフから代表者っぽい人を家に連れてって貰えますか?」
私はその間に残りのドワーフを閉じ込める檻を作っておきます。私がいない間に村の中で暴れられても困りますから。
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