35 この歳で子持ちは嫌です
お、お母さん……。
凄まじい破壊力のある言葉です。この年で子供にそう呼ばれるのは心に深い傷が入りますね……。
というか、なんでゴーレムを作ったのに感情と意志を持って喋ってるんです? しかも、魔力もかなりもってるはずなのに完璧に統制してます。
「これ……生き人形ですね」
「生き人形?」
それ、なんですかマトン君。アーさんやバレンタインも知っているのか、驚いた顔をしています。
「生き人形というのは、魔界でもはるか古くに廃れたと言われている技術です。どういった作り方をすればいいのか、今となっては誰も知らないと言われています」
「けど、作れちゃいましたよ?」
「マーガレットさんなら納得できます」
なんでみんな頷いてるんですか。
「魔界でも現存する生き人形はいますが、どれも凄まじい戦闘能力を持っていると言われています」
凄まじい戦闘能力……この子がですか? なんか、見た目を改めて確認してみると、少し怪しい雰囲気なような?
前髪で片方の目が隠れてますし、なんか口元がニヤついています。ローブのような服で帽子も被ってますし……。
みんな、怪しいという感想を持っているのか、生き人形に視線を向けます。
けど、私のことをお母さんと呼んだ子供に向かって疑いの目を向ける訳には行きません。親になる覚悟はありませんが面倒を見る責任はあります。
「……私はマーガレットです。あなたを作ったのは私なので、親といえば親になるんでしょうか」
「マーガレット」
私の名前を確かめるように繰り返します。……かわいいですね。
「僕は……僕は?」
「名前はありますか?」
かなり混乱しているかと思いましたが、そういう訳ではなさそうです。私が名乗ったのに、自分に名乗る名前が無いことからの疑問でしょうか。
首を振ってるということは、名前は無いみたいです。
私が名付けるのがよさそうですね。
「うーん、じゃあ、あなたの名前はアダムです」
「アダム……わかった! 僕の名前はアダムだね。それでお母さん、僕は村のどこを守ればいい?」
「待ってください、飲み込み早すぎません?」
さっきまでと打って変わって反応がいいですね。
しかも、生まれたばかりなのに状況を把握してます。
「よくわからないけど、記憶にあったよ!」
「記憶に……」
素材に悪魔たちやマトン君の魔核を使ったからでしょうか?
なんにせよ、状況を詳しく説明する必要が無いのはありがたいです。
ただ……強いとはいえ、この見た目で戦いを任せるのは不安ですね。
「なんだ……その、アダム」
「何? アーさん」
「我の名前もわかるのだな。アダムは戦えるのか? 見た目から考えると、戦いを任せるのは不安なんだが」
うんうん。アーさんの言う通りです。
「バレンタインお姉ちゃんも子供だよ?」
「お姉ちゃん?!」
バレンタインが狼狽えてます。それはお姉ちゃんと呼ばれたからなんでしょうか、それとも子供扱いされたからなんでしょうか。
「……多分ですが、アダムはバレンタインよりも強いかもしれません。魔力統制の質がとんでもないです」
「そうだよー、お母さんの言う通り。僕強い!」
むきっと力こぶを作ろうとしてます。どうしましょう。だんだん我が子のように見えてきました。かわいいです。
「アダム、ちょっと来て貰えますか?」
「なぁに?」
アダムを呼ぶと、てこてこと近寄ってきます。
ぎゅっと抱きしめます。
子供独特の匂いがします。あと、私が作ったからかとても魔力の質が近いです。
「……お母さん?」
「はい。なんですかアダム」
「「「認めた?!」」」
みんなが驚いてますが、なんかお母さんを嫌がる理由もそこまでないなと思うので、認めてしまいましょう。
「まだ、勇者が来るまでは時間があるので、その間にアダムの実力を確かめましょう。みんな、また防衛強化に戻りますよ」
ただ、働いてばかりだと疲れてしまうので、楽しみも用意しなきゃ行けません。
「仕事が終わったら、みんなでパーティをしましょう。アダムの歓迎会もかねて」
「そうですね。ワタクシもそれがいいと思います。それでなんですがマーガレット様、ワタクシにもアダム君を抱っこさせてはもらえませんか?」
……。
「マーガレット様?」
なんか、お母さんてことを認めると可愛さが溢れて止まりません。どうしましょう、抱っこしてる状態を変えたくありません。
まさかこの年で子持ちになるとは……人生何があるか分かりませんね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アダムが生まれてから3日ほどたち、村の防衛はかなり強化されました。村を囲むようにして作られた防壁は、初見ではほぼ間違いなく迷いますし、一方的に攻撃可能な部分がとても多いです。
アダムの実力も、凄まじいものでした。生き人形であるアダムは自分の体を動かすのと同じ感覚で魔力を扱えるようで、魔法の規模も精度も並ではありませんでした。
そして、極めつけはゴーレムを生成できるところにあります。アダムの作り出すゴーレムは、アダムの指揮下になるようでかなりの戦闘能力を持っていますし、魔力さえあれば土や木からでも作れるので、いざ戦いになればアダム一人でゴーレム軍隊を操れます。
強いです。アダム。
アダムは村の子供たちのひとりとして、必要以上に特別視されることなく扱われています。子供たちとも仲良くなっていますし、馴染めて良かったです。
バレンタインは子供扱いされたのが気になってるのか、アダムといる時は大人っぽく振舞ってます。この前は魔法で姿まで変えてましたからね。私よりもはるかに女性らしい体つきになってました。
あと、嬉しいことがありました。フェンが帰ってきたんです! しかも真っ白な魔狼をつれて!
お嫁さんだそうです。名前はシラユキというそうで、魔狼から進化した白魔狼という種族らしいです。
そして、私は今フェンとシラユキのもふもふに挟まれながら、お昼寝をするアダムを抱きかかえています。
この世の幸せを詰め込んだような状況にいるんです。
「天国です……とろけますね」
「……主よ。勇者は大丈夫なのか?」
「ちゃんとゲートで定期的に確認していますよ。まだここにくるまではかかりますし、私が出向くタイミングも決めてあるので大丈夫です」
「そうか、ならばいい」
フェンはお昼寝タイムですね。シラユキは……喋りませんね。フェン曰く言葉もわかるし喋れるそうなんですが、魔狼として誇りを持っているらしく人の言葉を使いたがらないとか。
魔狼として誇りを持っているとはいいますが、暖かい部屋の中でうとうとしています。いいんでしょうかそれで。
けど、そんなシラユキのお腹の中にはフェンとの赤ちゃんがいるそうです。楽しみですね。
フェンもお父さんになるんです。私もお母さんになりましたが……互いに親として頑張りましょう。
私には勇者達を追い返すという大きな仕事がありますし、今はもふもふとアダムの温かさを堪能しましょう。
もふもふー。
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