千文字小説百物騙
凪司工房
第壱乃段
まえがき
百物語。
それは中世の
何故私がこのような話をするのか。
それは担当編集の
「あ、あの。お替りを」
空になったまま所在なげにしていたカップを持ち上げると、カウンターでスプーンを
スマートフォンには「電車遅れてます」というメッセージが届いていたが、それを確認してから既に十五分は経過していた。窓の外に視線を向ける。明け方から降り始めた雪はまだ止む気配がない。
と、ドアベルが鳴り、明るい茶色に染めた髪の毛の雪を払いながらオレンジのコートの女性が入ってきた。
「遅れて申し訳ございません」
彼女は対面の席に座るとホットココアを頼み、足元に鞄を置く。
「それで先生、企画の返事なんですが」
「百物語になぞらえてショートストーリーを百話、
「売れてないことはないです、ただマニアックな読者しか付いてないだけで」
苦笑すら浮かばない。作家になって二十年あまり、その間にヒットと呼べる作品はあったのだろうか。
年末に提案された時すぐに
ただ全て書き終えた時、それこそ怪談の百物語ではないが、自分に何か作家としての成長が訪れるのではないだろうかというある種の予感はあった。
「本当に
私は「お願いします」と頭を下げ、契約書にサインをした。
こうして私の百物語は始まったのである。
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