第277話 ハイン・ホワイトワイバーン。

 ジェミニの地下大迷宮で探索を始めて百五十五日目。


 ここは地下二十一階から地下二十階へと登っていく坂道の途中。


 ニールと小人達との間には若干の緊張感があった。


 ニールは腰に手を当てて見上げると、大きく息を吐く。


「ふうー来てしまったなぁ。難関階」


 隣にいたジンはいつもよりも表情が固く見える。胸に手を当て。


「俺にはニールやチューズのように事細かに気配とやらをよむことはできない。しかし、そんな俺にもひしひしとわかる……この扉の先に化け物が居ると」


「そうだろ? ただ」


 ニールは視線を巡らせて。


 顔を青くして、若干こけたチューズを見つけて苦笑する。


「普通の人に分かっちゃうってことは、普段から事細かに分かっちゃう俺やチューズなんかは、もっと分かっちゃう訳で……もはや気分が悪い」


「それほど……だな。数日前からチューズの顔色が悪そうなのは気付いていた。あの顔見たのは昔、人減らしの強行軍に参加した奴らを助けに出た時以来だ」


「本当にヤバいんだ。地下四十階のロンドニックの時もヤバかったが。ロンドニックとは違って、気配に敵意というのが混じっていて、ヤバいなぁ」


「しかし、ここまで来て諦めて、進まない訳にも行かないだろう……」


「そうなんだよ」


「まぁ、今日のところは扉の中に一瞬入って、敵を見ることだから」


「俺から言わせると見たところで……って感じなんだが。作戦を練ったら、どうにかなるレベルじゃない気もするが……何かあるかな?」


「ニールが駄目……個人で駄目なら。集団で戦うしかない……作戦立案をする俺の腕の見せ所だ」


 ジンが腕を組んだ。笑みを深めて、続ける。


「さて、敵を見ようか」




 ニールとジン、少数の護衛は互いに視線を合わせると、意を決する。


 ニールは地下二十階の扉を開けて……ランプで照らして中を確認する。


 ここ地下二十階は地下三十階と地下四十階と同様にフロワーは一つしかなく。


 地面、壁、フロワー全体が氷漬けにされていて、凍えるほどに寒かった。


 そして、中央辺りに白いドラゴン……。


 ギルドの保管する魔物辞典によると。


 ハイン・ホワイトワイバーン。


 SSS級の魔物。


 ナンバーズ一歩手前で、人類の存続が危ぶまれる大災害級の魔物である。


 大きさは以前戦った緑龍ロンドニックとほぼ同じで三十メートル程。


 眼光鋭い金色の瞳。


 鋭利な牙に、大きく強靭な顎を持つ。


 全身硬質な白色の鱗で覆われていて、軟な剣では傷すらつかないように見える。


 そして、特徴的なのが頭部にある半透明な青白い角を三本生やしていることだった。


 ドラゴンの亜種ながら、体内に強い冷気を有していて……吐く息は一瞬で、周囲の物、生き物を芯まで凍らせる。


 もしも出会ったら、逃げたところで意味ないので、運命だと……死を受け入れましょう。


 扉を開けたニールとジン、小人達はハイン・ホワイトワイバーンと目が合った。


 ハインは体を起こすと、頭部にある半透明な青白い角を若干光らせて……。


「ギャアアアア」


 ニールとジン、小人達の体……全身から汗がブワッと吹き出し。身動きが取れなくなるほどに圧倒的な殺気だった。


『ボーっとしていると死ぬぞ! ニール!』


 カルディアに声を掛けられてニールはいち早く、我を取り戻した。急ぎ、小人達に声を掛けて開けた扉を閉め始める。


「っ! 出るぞ! ヤバい!」


 ハインは大きく白い冷気を吐いた。その白い冷気はダイヤモンドダストのようにキラキラと美しく、地面を滑るように素早く広がって……。


 ニールが扉を閉めるのが少しでも遅かったら、氷漬けになった扉のようになっていた……。


「っ! 扉から離れろ! オラクル発動……【カルディアの剣】、【青鳥(ブルーバード)】」


 白い冷気が扉の隙間から漏れ出ているのに気づいたニールは慌てて近くに居たジン、護衛の小人達を抱えると。


 跳躍と共に、オラクルで、背中に翼を生やして飛び上がる。


 白い冷気が扉から漏れ出して……地下二十一階から地下二十階との間の坂道が氷漬けになっていく。


 待機していた小人達へも白い冷気が迫る。待機していた小人達は状況が変わらず動け……シルバー、チューズが声を張り上げて逃げるように促すものの残念ながら、間に合わないように見えた。


 ニールは後方で待機していた小人達へと手を向ける。


「っ! 【流星(フォーリングスター)】……できるだけいっぱいお願い」


『仕方ないだろうな。マナ、すべて使うぞ。意識を保てよ』とカルディアからの声がニールの頭の中に聞こえると。


 ニールは意識が飛びそうなほどに力が流れ出る感覚に囚われる。


 唇を噛みしめ……痛みで意識を保つ。


 翼が消えて、今度はニールの手を向けた方に……青い炎を纏った三センチ前後の小さな半透明の剣の結晶が三十本出現する。


 待機していた小人達へと向かう白い冷気に向けて、青い炎を纏った剣の結晶を一斉に放つ。


 それはまるで、大気圏で燃える流れ星のようにきらめき降り注いだ。


 白い冷気は消えることない青い炎の熱によって弱まって、押し留まった。


ゲリラ投稿。あ、祝小説フォロワー8000です。嬉しいです。ありがとうございます。

この後は通常通りの水曜、土曜投稿に戻ります。

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