第46話 紅茶を捨てる。

 リリアとマーシャルは椅子に座って雑談することになる。


 その雑談の内容はまず幼すぎるニールのことに触れる定番の流れから、リリアの通っている魔法学園の話に差し掛かっていた。


「ピオニール競技会で学長賞を取ったと聞いたが凄いじゃないか。しかも、二学年目で。素晴らしい快挙であると耳にした」


「ありがとうございます。私は……そうですね。そう、運が良かっただけですよ。今年は私の他にも優秀な人が多く居られたので」


「何を言っている。私は魔法や学園には詳しくないがピオニール競技会の学長賞は耳にしたことがあるくらい有名な賞ではないか。夏季休みを出たら王宮魔導士の話も出てくるのではないか?」


「それは……来るでしょうね。ただ、私は飛び級で……まだ魔法学園を卒業するつもりはないので」


「勿体ない感じもするが」


「ふふ、私は学生の身分を楽しみたいのです」


「そうか。なんにしても将来有望だな。お前はどうしたい?」


「……どうしたいとは?」


「私はお前のことを評価しているんだよ」


 マーシャルは目を細めて、テーブルの上で手を組んだ。そして、声を少し狭めて続ける。


「兄上がウィンズ子爵の実権を握った場合、力ある貴族にお前を嫁がせて派閥を大きくしたいと考えているのだろう。実際に何度か話を持って来られたんじゃないか?」


「……」


 マーシャルの問いにリリアは視線を下げるだけで、口を開くことはなかった。


「君が私の力となってくれるなら。リリアの婚姻に口出ししないことを約束してあげてもいいよ? 正直、君は優秀だ。ウィンズ子爵領に縛っておく方が得だと思っているし」


「……」


「ふ、考えておいてくれよ」


 マーシャルはそういうと、椅子から立ち上がってその場から離れていった。


 マーシャルの姿が見えなくなったところで、リリアは大きくため息を吐き。そして、ティーカップを手に持って、入れられていた紅茶を地面に捨てた。


 ちなみに、ティーカップに注がれていた紅茶はニールが用意したモノのではなく、マーシャルが連れてきたメイドが淹れた紅茶であった。


「はぁーないと思うけど念のためにね」


「リリアお嬢様。こちらに」


 ニールはリリアの持っていたティーカップを受け取って、片付けていく。


「ありがとう」


「お嬢様……あの」


「何か感じた?」


「……ええ、敵意のような気配を感じました」


「そう。なら、さっき言っていた話も胡散臭いわね」


「リリアお嬢様は次期当主の問題についてどうお考えなのですか?」


「私? 考えなんてあるわけないじゃない」


「そ、そうですか」


「……強いていうなら、三男のトリスタンお兄様がいいと思っているんだけど」


「トリスタン様……私はまだあったことはありませんね。どういうお方なんですか?」


「隠しているけど。当主の能力的な才能は一番あると思っているわ。ただ、問題があるとすれば、めんどくさがり屋でアーレスパーティーにすら来ない」


「そうなんですね。お館様はどのように考えているんでしょうか?」


「んー順当にビルヘルムお兄様だと思うけど……。なんにしても、お父様には私のために一日でも長く当主であってほしいわね」


「ハハ……そうですね」


「そんなことよりも……私の体力ないの。限界なの。ここを離れましょう。また誰か来てしまうかも知れないわ」


「は、はい。すぐに片付けますので、少々お待ちを」


 リリアの指示で、ニールは急ぎティーカップセットとテーブル、椅子を片付け、リリアに割り当てられたテントへと戻っていった。



 テントに戻った途端、リリアはペタンと座り込んでしまった。


「疲れたわ」


「お疲れ様です」


 リリアの後ろからテントに入ってきたニールが苦笑を浮かべて答えた。


「もう動けないわ」


「え、今の今までスタスタと歩いていたではないですか」


「う、動けないわ」


「えっと」


「動けないわ」


「どうしたいいので?」


「動けないから、やさしく抱っこして」


 リリアが両手をニールの方へと伸ばして抱っこを要求した。


 ニールは小さく苦笑すると、持っていたバックを下す。そして、リリアに近づくと、リリアをお姫様抱っこする。


「と、ベッドに運びますので、ちゃんと捕まっていてくださいね」


「っ。抱っこってこういうのなのね。よ、予想とだいぶ違ったわ」


「え? 抱っこってこうではなかったけ? では違う抱っこの仕方に変えましょう」


 ニールがリリアを一旦降ろそうとした。ただ、少し顔を赤くしていたリリアは首を横に振って答える。


「いいわ。この抱っこの仕方も悪くないわ」


「ならいいのですが」


 ニールはリリアをお姫様抱っこしながら、ベッドへと歩いていく。


 ちょっと足元がふらつく場面もあったがリリアをベッドまで運んで、ベッドの上に寝かせる。


「では、俺はテントの外で警戒にあたりますので休んでください」


「えーニールも一緒に横になろうよぉ」


「それは……できません。俺は護衛の仕事をしないと」


「夕食まで、もう誰も来ないわよ」


「かも知れませんが。もしも、リリアお嬢様に何かあった時に対応が遅れる恐れがあります」


「そうね。ごめんなさい。無茶なことを言ったわ」


「いえ。では失礼します。何かあったお呼びください」


「うー」


 寂しそうなリリアに後ろ髪をひかれながらも、ニールは一度頭を下げると、テントの外に出て周囲警戒にあたるのであった。



悲報、私のパソコンさん死亡。新しいパソコンさんを儀式召喚します。_(:3」z)_

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