令和の恋はカラフルか?

春雨らら

1話  絶食系男子は断りたい

 3月26日月曜日、午前11時。1年生の終わりを告げる修了式直後。桜の花弁が散っていく様を眺めながら、待ち受ける至福の春休みを想像していた時、それは起きた。


「優太と最初に会った時のこと、私は今でもはっきり覚えてるんだ」


 同じクラスである星見美央子ほしみみおこに、真剣な面持ちで空き教室へ呼び出されたのだ。なんでも『ちょっと話がある』らしい。


「入学して最初の日。登校中に車に轢かれそうだった私を助けてくれた人が、まさか同じクラスでしかも隣の席で、あれはびっくりしたなあ」


 どう見ても『ちょっと』ではない騒ぎに潤んだ瞳と震えた声。僕は別に鈍感でも何でもないし流石に分かる。これは……間違いなく告白だ。


「学園祭で困ってた時、優太だけは私の味方で居てくれたよね。街中で怖い人達に絡まれた時も守ってくれた。悩んでた時も背中を押してくれた。いつもいつも、友達と喧嘩した時も何も言わずに話を聞いてくれた。相談に乗ってくれた。傍に居てくれた……あの時だって、私とずっと一緒に居てくれた」


 美央子は自身の胸元に手を当て、まるで思い出を抱えるように振り返り、瞼を閉じながら語っていた。思えば確かに色々あったなあ。僕だって彼女の明るい性格や真っ直ぐな言葉には助けられたことは記憶している。


「僕はただ君が困っていたから、見過ごせなかっただけだよ。一緒に居たのはそうしたかったからで」


「そんな優太だからこそ、私は好きになったの」


 言って、彼女は瞼を開いた。きっとかなりの勇気を振り絞っているのだろう。僕はそんな彼女の気持ちが素直に嬉しいし、行動は尊敬に値するものだと思う。


「だから、その……私と付き合ってくれる?」


 加えて美央子は、芸能人と比べても遜色無いくらいには可愛い生徒だ。返答を待ちながらもぞもぞと忙しなく体を動かす様、時折真っ直ぐ見つめてくる大きく丸い目、緩んだ小さな口元、紅潮した柔らかそうな頬。色白の肌と同調する輝く金色のセミロング。典型的正統派美少女、みたいな女子。


 まあそれはさておき、僕はこの告白を断らなければならない。


「ありがとう。でもごめんなさい」


「……へ?」


「え?」


 恋愛とは、実に素晴らしいものだと思う。恋人がいる幸福は得難いものだ。しかし勿論苦難もあるだろう。喧嘩や浮気、気持ちの擦れ違いなど様々な要因で別れたり、深く傷付いて人を信用出来なくなってしまうこともある。でも……もしかしたら、そんな経験がより強固な関係を育むきっかけになるかもしれない。奇跡や運命のような出会いだって、この世界のどこかにはあるかもしれない。生涯を賭しても守りたいと思える、かけがえない存在を得るかもしれない。本当に素晴らしい。


 どうぞ、僕抜きでやって欲しい。

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