人の優しさと勇者としての目覚め
ふと目を覚ますと横にマリーさんが僕の手を握って寝ていた。
恐らく寝ずに僕のことを看病してくれていたのだろう。
本当に優しい人だ。
「僕なんかの為に……。あれ? なんで俺は今自分を下げるようなことを?」
記憶がない以上、僕にはわからない。
マリーさんが昨日、僕の素性を調べておくとは言ってくれていたけど。
そんなことを考えているとマリーさんが目を覚ました。
「無事、目が覚めたようで良かったです」
「まだ体は痛みますけどね」
「昨日お伝えしませんでしたが、その体の状態で生きていることは奇跡に近いんですよ?」
「神の奇跡とマリーさんの治療の甲斐だとおもっておきますよ」
「いえそれが貴方の
「
「それも覚えておいででないんですね。それは人が生まれた時から持っている神からの贈り物です。例えば剣を上手く振れたり、魔法を上手く使えたり、料理が上手くできたりと多岐にわたります」
「それが俺は回復能力だと?」
「いえ貴方の能力はそういった一般の
マリーさんはどうやら俺に特別な能力があると思っているらしい。
多分そんなことはないと思うのだが、恩人からのアドバイスには大人しく従うべきだろう。
俺は体が治り次第王都へ向かう約束をマリーさんとした。
◆◆◆
今日は王都へ行く約束をし、マリーさんと簡易的な検査もしてかなり疲れが溜まっていた。
布団へ飛び込んだ瞬間、俺の意識はもう夢の中だ。
『これが今代の勇者か。随分と心に汚れが溜まってるのう』
「お前は誰だ……?」
『我か? 我は勇者のやりたいことを見極め、それを実行させる為の装置みたいなものじゃ』
「1ミリも言葉の意味が理解できないんだけど」
『なに簡単な話じゃ。お前は今代の勇者に選ばれた。お前は自分の信じる正義を実行すればいい。例えそれが同種を全て滅ぼすことだとしても』
「同種を滅ぼす? 人間を僕が殺すってことか? 僕はそんなことは絶対にしない!」
『お前は面白いことを言うな。ならこの預かっていた汚れをお前に返してやる。ついでに名前もな』
少女は懐から黒いモヤを取り出す。
嫌悪感を思わず示してしまうほどの黒さに俺は少し後ずさる。
だが少女は俺が触るまで動く気はないようだ。
本当は触りたくはないが——少女の有無を言わさぬ雰囲気に押され俺は黒いモヤへと触れる。
触れたと同時に俺の心に流れ込んできたのはひたすらに黒い感情だった。
こんな記憶は僕にはない。
なんで僕は同族の人間に火だるまにされているんだ? どうして人が焼かれてるのに周りの奴らはニタニタと笑っているんだ?
奴等を許すな。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
「そうか。僕、いや俺は奴らを……」
『そうとも。それがラバン、いや零の本当の感情だ。だから殺したかったら殺してしまっていいんだぞ? お前にはそれだけの力が眠っている』
少女の甘美な囁きが耳元に響く。
とても魅力的な提案だ。
奴らを皆殺しにできるなら俺は……。
だけど俺には助けてくれた時に向けてくれたマリーさんの笑顔も偽物には見えなかった。
「もう少し、もう少しだけ人類を見極めさせてくれないか?」
『煮え切らない答えじゃな。つまらんのぅ』
「それだけ人にとって人を殺すことは禁忌だ。それをマリーさんが教えてくれた」
『あの女か。気をつけておけ。あいつもお前の力を狙ってるぞ』
「それって一体……」
『煮え切らん答えを出すお前に全ては教えてやらん。だがヒントだけならいいじゃろう。早めにここを出て行くことじゃな』
そう少女は俺に告げる。
顔をあげて言葉の意味を問おうとした時、少女の姿は俺の前にはなかった。
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