第22話

「今宵も月が綺麗だ」

 我が主の、我が偉大なる主の、我が愛しの主の言葉が私の耳を打つ。

 それだけで私の体は歓喜に震え、仮面の下で涙する。

 我が主である刹那様は悠然と足を組み椅子に座っていた。

 無防備な背中。隙だらけの姿。一切緊張感のない雰囲気。

 しかし、私の攻撃など効かないだろう。私が何をしようとも刹那様に干渉することはない。

 私は知っている。

 私と刹那様にどうしようもないほどの差があることを。

 格が、次元が、住んでいる世界が違うということを。

 刹那様はゆっくりとワイングラスに入ったワインを口に含む。

 ワインの入ったワイングラスがアンティークランプに照らされ、輝く。

 この部屋を飾っている品々はどれも一級品。

 そして、壁に何気なく掛かっている絵画を見れば驚愕するだろう。

 そこに掛けられているのは世界で一番有名であろう『モナ・リザ』。

 それがレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた本物であるということは絵に込められた思いを見れば容易く理解できる。

 なぜここに本物の『モナ・リザ』があるのかなどというつまらない質問は必要ない。

 その理由は刹那様だから。この一言で終わってしまう。

 刹那様以外にこの絵を所持するに値する人間がいるだろうか?ここに本物の『モナ・リザ』が存在し、刹那様が所有していることは至極当然の話しなのだ。

「刹那様。準備が完了いたしました」

 永遠と刹那様のお姿を眺めていたいがそれは許されない。

 ようやく準備が整ったのだ。

 これ以上に刹那様を待たせるわけには行かない。

 

「我には我の仕事がある。

 爆発的な魔力が空間を揺らし、私は歓喜に体を震わせる。

 爆発する魔力の中心地に立っているのは刹那様。

 あぁ、これが本物の魔力。美しい……。

 模造品でしかない私たちが使う儀典魔力とは何もかもが違う。

 刹那様が一歩。また一歩と歩くだけで刹那様の御身を飾る魔道具、呪具、聖具の数々が増えていく。

 あぁ、一個だけで世界の勢力図を塗り替えてしまうほどの力を有した道具の数々。

 一体何をどうしたらそれだけの数の品々を揃えられるのか。

「今宵もまた月が煌めく」

 私は立ち上がり、歩き出した刹那様の後を付いて歩く。

 えぇ。

 また月は煌めく。

 私たちが、私たち夜が、私たち星々が、

 満天の夜空としてあなたという月を煌めかせて見せます。

 私は、あの日。

 あの日、忌々しき『ジュネシス』の魔の手から助け出されたあの日から私はこの御方に私の全てを捧げると決めたのだ。

 例え、刹那様が何も欲してなどいなくても。

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