エッセイ集

郷野すみれ

救急車

 中学校の、何年生だったろうか。部活動が終わり、部活の子と一緒に帰っていたら、目の前を救急車が通った。

「なんかさあ、救急車がとおると気分下がるわ〜」

 彼女が言った。

「なんで?」

 不謹慎なことに、私は「うるさいな」というくらいにしか思わなかったのだ。

「だって今、死にかけている人がいるんだよ。だから私は救急車を見るたびに、心の中で絵『どうか助かりますように』って祈るようにしてるの」

 私は衝撃を受けた。彼女のように考えたことがなかったからだ。だた、その時は「確かに」などと言って、また話し始めた気がする。

 中学校を卒業して以来、家が近いのにもかかわらず、彼女とは会っていない。

 どうか彼女が元気でありますように。

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