第26話 圧倒的な実力

 魔法試験が終わり、予定通り模擬戦をすることになったカズキは、学園内にある闘技場に来ていた。闘技場を初めて見るカズキからしても、学園の闘技場の大きさには度肝を抜かれ、何故か観客席には沢山のギャラリーが集まっている。


「広すぎだろこれ……で、なんでこんなに人がいるんですか?」


 言い出しっぺで審判を務めるアイクに、カズキは文句を言いたい気持ちを全てジト目でぶつけながら言った。


「ごめんごめん。でも受験生のみんなは唯一の無属性適性の君に興味があるみたいだよ」


「それでも観客なしにしてくださいよ……」


 それでもカズキは「まあ、甲子園よりは少ないな」と、気持ちを切り替えて気にしないようにした。


 一方カエデは誰が勝つかは分かっているので、軽い気持ちで観客席にいた。


「カズキー! ちゃんと手は抜いたりや!」


 この発言に周りの受験生は驚き、完全に煽られているケビンはカエデを睨みつけている。それと同時に、自分がカエデの眼中にこれっぽっちもない事に、更に苛立ちが増していく。


「おい! さっさと始めるぞ!」


 アイクと雑談をしていたカズキに怒鳴り散らしたケビンは、やる気満々で既に定位置についている。


「ああ、悪いな。じゃあやるか」


 カズキはゆっくりとケビンの正面に向かって堂々と立つ。


「貴様、武器は持たないのか」


「ん? ああ、必要ないな」


 カズキは今の自分の戦闘スタイルに武器は必要ないという意味で言ったのだが、ばっちりと木の長剣を持ってきているケビンからすれば、お前ごときに武器は必要ないという意味に聞こえていた。


(この野郎……! 馬鹿にしやがって!)


 怒りが溜まりすぎて体がぷるぷると震えているケビン。そのふくよかな体でぷるぷる震えているのだから、さぞかし服の中で肉は震えまくっているだろうと、カズキは余裕しゃくしゃくの態度だ。


「では、今から模擬戦を始める。ルールは目にわかるようなダメージを一発与えた方の勝ち。武器も魔法も何を使ってもいい。怪我をしても僕が魔法で治すから安心してね」


 ルール説明が終わり、騒がしかった場内が静まり返る。


(あっ、いっけね。バンドの重さそのままだった。……まあこれでも充分だろ)


 付与魔法で重さを上げていたリストバンド。初めてつけた時よりも更に重くなっているのだが、寝る時と風呂に入る時以外はつけっぱなしだ。少しボロくなってきているのだが、サラに貰った大切なものということで使い続けている。


 そんな重りをつけた状態で戦う事が知れたら、更にケビンの怒りを買いかねないので、カズキは黙っていることにした。


「では、勝負開始!」


 ケビンはカズキと向き合って構えをとる。その一方でカズキは棒立ちのまま。場内にいる一部の人からはただ突っ立っているだけに見えるのだが、対峙しているケビンは攻めあぐねていた。


(こ、こいつ……!? 隙が全く無い! ただ突っ立っているだけなのに!)


 ケビンの脳内には、近づいた瞬間にやられるというビジョンが浮かび上がっていた。


「……なんだ、攻めてこないのか? 近づけないなら魔法でも使って牽制すればいいだろ」


(み、見抜かれてる!?)


 考えを見透かされた事に焦りだすケビンに、アイクは一歩ずつ近づいていく。


「く、くそっ!? 『炎槍ファイアランス』!」


 ケビンが詠唱すると空中に熱く燃え盛っている火の槍が創り出され、馬鹿正直に放たれた魔法にカズキは体を軽くひねることで対応する。


「なっ!?」


「そんな分かりきった魔法なんて当たるわけ無いだろ」


「だ、黙れぇっ!!」


 自分の弱さを誤魔化すように声を荒らげ、ケビンは剣を振りかぶってカズキに向かっていく。太っているわりになかなか速い動きだと、カズキは少しだけ感心した。


「ハアッ!」


 上段から振り下ろされた剣だったが、カズキはそれを腕で受け止めた。


「……そんな遅い剣で何を切るつもりだ」


 受け止めた剣を掴み、カズキはそのままケビンの剣をへし折ってしまった。


「あ、ああ……」


「実力差も分からないくせに勝負なんて挑むな」


 実力をはっきりと分からせるかのように、カズキはケビンの鳩尾に拳を打ち付けた。


「ゴエッ!?」


 みっともない声を出してケビンは膝から崩れ落ち、気絶してしまった。


「勝者、カズキ!」


 普通は勝負事で勝敗が決まれば、歓声で場内は騒がしくなる。だが、その圧倒的な実力差を目にして場内はシーンと静まったままだった。


 何気ない試合の中、観客席で見ていた一人の少女は、その圧倒的な強さに目が離せなかった。


「す、凄い……一切隙がなかった……」


 自信を持って挑んだ入試試験だったが、その圧倒的な強さにクロエは惚れ込んでしまった。

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