第23話 魔法試験で面倒事
学食で昼食を済ませたカズキとカエデは、魔法訓練場に向かった。魔法訓練場は三箇所に分かれており、受験生も番号で三分割されている。それでも大勢なのは変わらず、知り合い同士で雑談したり魔法の確認などをしている。
「人多いな。多すぎて気分が悪くなる」
カズキはもともと人混みがそこまで得意ではなく、まだ試験の時間になっていない人が散らばった状態が嫌いだった。
「ほんならウチが癒やしたるわ」
カエデはそう言ってカズキの腕に自分の腕を絡めて抱き着いた。
「周りに人いるんだけど」
「そんなんウチに関係ないもん」
そうは言ってもこれだけ周りに人がいる中でイチャついていれば流石に注目され、カズキはなんとも言えない気分になる。
カズキとカエデはしばらく何もせずに待っていたのだが、ここで思わぬ奴が話しかけてきた。
「おいそこのお前」
「なあ、今日どの属性でやるんだ?」
「的に当てるだけやろ? 威力も見られるらしいし、火やな」
カズキは自分が話しかけられているとは思わず、カエデと話しているだけ。カエデは一応気づいているのだが、面倒くさくて反応しないだけだ。
そこで無視された男は再び声を荒らげて呼びかける。
「おい! お前だよお前!」
「え? 俺ですか?」
カズキはようやく気づいて返事をする。
「お前、平民の陰キャの癖に生意気だぞ」
「ガハッ!?」
カズキはあるワードに反応して精神的にダメージを受けた。
「こ、この世界にも陰キャってワードがあるのか……」
「何なん陰キャって?」
「影が薄くて大人しそうな奴のことかな? 俺もあんまり知らないんだけど、結構言われたりしたわ。思い出してちょっとショック受けた」
男が言っている事に対して陰キャの事しか頭に入っていない二人。それを見た男は、
「俺が誰なのか分かってるのか!」
「えっと……昨日フロスト家の領主様と一緒にいた人ですよね? すみません、それ以外は分かりません」
「ふん! 俺の名前すら知らないとは、流石平民だな! 俺はケビン・フロスト。フロスト家の時期当主だ!」
意気揚々と胸を張って言うケビンだが、カズキは全く興味がなかった。
「そうですか。それで、貴族の方が平民になんのようですか?」
「隣りにいる女はお前とどんな関係だ」
何故そんな事を聞くのかカズキは謎だったが、一応答える事にした。
「えっと……彼女です」
するとケビンはいきなり笑いだした。既に周りの受験生の注目の的となっており、注目されすぎてカズキは嫌になっていた。
「フハハハッ、お前がその女の彼女か。おい女、そんな男より俺の方がお前を楽しませることができる。俺のものになれ」
訳の分からない事を言われてカズキは驚きを隠せずにいた。
(こんな人がいる中で堂々と人の彼女奪おうとするやついるんだな。そのメンタルは凄いよ)
カズキは呆れることよりも寧ろ感心のほうが勝っている。カズキがカエデの方を見ると、カエデは汚物を見るような目をしていた。
「……ごめんな〜、ウチはこの人しか考えられへんねん。だから無理やわ」
なんと切り替えたカエデは控えめに断ったのだが、ケビンは諦めない。
「そんなことはないぞ。俺と一緒にいれば分かる。なあ、お前もそう思うだろう?」
ケビンは何故かカズキに同意を求めてくる。ケビンは立場が上だからといってこう言っているが、確かに平民の立場からすれば確かに貴族に逆らおうとするのは難しい。
だがカズキは、
「……はぁ。あのさ、まず人の彼女って分かってんのにいきなり奪おうとするとか頭おかしいの? それにわざわざこんな人前で醜態晒して恥ずかしくないのか?」
「なっ!? 貴様無礼だぞ!」
簡単に渡してくれるなどと自惚れた考えをしていたケビンは、計画が狂わされた事と自分が馬鹿にされていることに怒りを覚える。
だがそれよりも、自分の彼女に手を出そうとしているケビンに対してのカズキの怒りの方が大きかった。
「この学園は階級差別とかないんだろ? それにお前の方が無礼だわ。話した事もない人にいきなり彼女をよこせって……こんな醜態晒した息子がいるって考えたらフロスト家の領主様が可哀想だな」
周りからはクスクスと笑い声が聞こえ、ケビンの顔は怒りと羞恥心で真っ赤に染まっていた。
そんなところに長髪の男の試験官が魔法訓練場に入ってくる。
「何を騒いでいる! これ以上騒ぐと試験を無条件で失格にするぞ!」
流石にそう言われては引き下がらないわけにはいかず、ケビンは舌打ちをして何も言わずにこの場から離れた。
「申し訳ありませんでした」
「なに、貴族の息子はああいう態度のやつが結構いたりするんだ。君こそ災難だったね」
そう言って試験官の男はカズキの体をジロジロと見始めた。いきなりだったのでカズキは少し驚きはするも、しばらくは何もせずにいた。
「……この容姿……君なんだね」
「え?」
「僕はこの学園の教師をしているアイクだ。君にはこれからも期待させてもらうよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
カズキは目の前にいるアイクという男に違和感を覚えた。まるで自分の事をもとから知っているかのようだからだ。
(まさか……サラの知り合いはこの人?)
まだ確信ではないが、カズキはアイクがサラの知り合いだと予想した。
「君たちはこの学園の歴史を塗り替えられるかもね」
そう言ってアイクは全体が見える場所に移動した。
「これから魔法試験を開始する。試験官は僕が務めるからよろしくね」
アイクは魔法試験の試験官だった。確かにカズキから見ても、アイクの実力は相当なものだと見当がついていた。
「多分あの人サラの知り合いやろ?」
「ああ、なんか俺らの事知ってる話し方だった」
「まあサラの知り合いおるんやったらいいコネを使えそうやね」
「そんな事言うな」
これから魔法試験が始まるわけだが、五年間死ぬ思いで鍛えたカズキの実力の片鱗は、この魔法試験ではほんの一部しか伝わらないであろう。
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