第2話 偉大なる父


世界各地に散らばった魔女、魔導士達は会議を開いていた、重たい空気の流れる中口を開いたのはフランス出身の魔女[ジャンヌ・ダルク]だった。

「なんということを、始まりの魔女に喧嘩を売るなど自殺行為です」

彼女は青ざめた顔でそう言った。

「我々が悪いと言いたいのか、元はと言えばあの男が我々の求めに応じないからで、」

政府の人間達は口を揃えて異論を唱える。

それを遮ったのは拷問の魔女と恐れられる女であった。

「扱いがおかしいからでしょう?言っておくけど私たち魔女が束になっても彼に敵うかどうかは微妙だわ。」

[エルジェベート=バートリー]

「始原の炎、導きの篝火。全てを溶かし、光の先に導く者、偉大なりし始まりの父。ふふっ」

[安倍晴明]

「何がおかしい、晴明」

[蘆屋道満]

面白そうに笑う青年を咎めた年配の男性は、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「それにしても、かの男がここまで怒るとは珍しいものよな」

[妲妃]

九つの尾を揺らす美女はケタケタと笑う、魔女も魔導士も顔色は変えずとも体が僅かに震えている。

「しかし、問題はそこではありませんわ。近く我々は殺される、」

[マリー・アントワネット]

幼さが残る美貌の女がそう言った、そして指差す先にある液晶画面が写すのは現在の東京を映していた。

自衛隊員達は困惑していた、東京タワーのてっぺんに腰を下ろす男、恐らくは人間ではない。

その手にはミサイルが握られていた、それは先ほどアメリカ軍の飛行部隊が発射した核ミサイルだ。

「怖いね〜、最近の若いのは。こんな周囲への被害も考えずに。」

そう言いながら男の手の中でミサイルはドロドロに溶け小瓶の中に入れられた。

それを突如現れたブラックホールの中に突っ込んだ、そして次の瞬間である。

彼を観察していたアメリカ軍の軍用飛行機に炎の薔薇が伸び覆い尽くすと爆散した、それはまるで美しい花火のように。

「キミ、きちんと政府に伝えてね。次、民間人を巻き込むような兵器をしようとした国は、一足先に地獄に落としてあげよう、って」

ーそこで映像は終わっている。

「すごい気迫ですわ、流石は始原の魔女。」

マリーは、感心しながら呟く。

「次は、ないそうですわよ。アメリカ大統領。」

エルジェベートに指摘され、アメリカ大使は顔を青ざめた。早く報告してやめさせなければ、関係のない市民が大勢死ぬことになる、あの魔女が約束したのはこの地球全土を炎の海に沈めることをしないだけ、国が一つ、二つ滅ぼうとも彼は気にも留めない。

そして、規格外の強さ。

改めて対策を練らなければ確実にこの星に生きる人々は死に絶える。

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