賢い犬

 お前は賢いね。


 朝は、おはようと返事をしてくれる。

 昼は、ごはんまだ? と目で教えてくれる。

 夜は、一緒に寝ようと布団に潜ってくる。


 あるときは、新聞を持ってきてくれたり。

 あるときは、待てを聞いたきりずっとしていたり。


 ときどき、やんちゃはするけれど。

 それでもお前は賢いね。


 お前は優しいね。


 散歩のときはいつも歩幅を合わせてくれるね。

 僕の足が遅くても文句のひとつも言わないのさ。

 犬だから言葉なんて喋るわけないけれど。


 それでもお前は何も言わないのさ。

 不満など一切ないと言い切るのさ。


 お前は賢いね。


 僕の手が冷え切っていくときも、

 片時も僕の側から離れることはなかった。

 大人たちが離れなさいと言っても、

 お前は僕から離れなかった。

 僕の手が体温を手放しても、

 お前は自分の体温を分け与えるように舐めていたのさ。


 やっぱり、お前は、賢いね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る