僕のはなし

今日は少しだけ僕の話をしよう。今まであまり話してこなかったからね。そう、君にだけ特別に話してやろう。今僕は気分がいいからね。君が今魅せてくれたもののおかげだ。誇るといい。


さて、仰々しいことを言うつもりはないが…僕は普通の生活は知らない。そう、そんなことを言うと、まるで自分が特別だと語っているように聞こえるだろう?


そんなつもりはないんだ。理解してくれとは言わないが知っていてくれるとありがたい。さて、僕が世界を作ることに憧れたのは遠い昔。学もなく世界の広さなど何も知らぬ子供時代まで遡る。


はじめは役者に憧れた。しかし、そう簡単になれるものではない。はじめての挫折は…そう「挫折」とあえて呼ぼう。はじめての挫折は15歳の頃、小さな小さな舞台の上で、小さな小さなお話をかき、小さな小さな役者になった。


しかし僕は絶望的に物覚えが悪くてね。おまけに…ははは。想像できないかもしれないが、あの頃はとても「あがり症」だった。その舞台は本当に悲惨なものになったよ。随分悪いことをしたものだ。舞台にも共演者にもそれをみるという苦行を強いられた観客にもね。まったく悪いことをした。


僕が崩れれば誰かが崩れ、誰かが崩れれば舞台も崩れた。子供の集まりの些細な茶番と思われていたかもしれないが、僕にとっては、強く、重たく、逃れようのない挫折だった。


だけども僕は執念深くも舞台へ向けた心を捨てられなかったんだ。僕は決意した。自分でできないのであれば、自分が演出家になればいい。作り手になればいい。


短絡的だ。そう。とても短絡的な発想だ。僕ができない演技を誰かにやらせる。そしてそれが最も映える物語と舞台を作ろうとした。それを僕の手中に収めて僕のものにしたくなった。頭の中にいくつも浮かび上がる世界を具現化するためには、それしか方法がなかったんだ。笑ってくれ。


とはいえそれも子供の頃の話。今の僕はもうあの頃のような弱い人間ではない。あの程度の挫折で望みが断ち切られるほど物語という存在は軽くないんだ。物語が人に与えるのは、計り知れないほど、深く、重い、宿命なのだから。


さあ、くだらない話はここまでだ。


続き?…それでは君がこの幕を綺麗に演じることができたら考えてあげよう。さあ、準備ができたら目を閉じなさい。もう一度君は闇に沈み僕の物語のひとつになりなさい。


それが君の宿命なのだから。

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