白紙のアトリエ

伊月 杏

無責任な思考回路

僕の頭の中には、空想上の君がいる


都合よく笑っていたり

都合よく怒っていたり

都合よく悲しみに暮れたり

都合よく道化になったり

都合よく嫌われてくれる


僕がこの白紙にひとつそうして書くだけで

君は世界の誰よりも美しい存在になる

そうして生まれた君の今後の人生に

僕が責任など持てるはずもないのにだ


嫌ならばここから逃げればいいだろう

僕の思考回路から消え失せてみせろよ


そうすれば君がその手で勝ち得るのは

誰にも侵されることのない未踏の自由だ

だけどそうしてみせないということは

僕に何をされても良いということだろう?


ああ、違うか


君は、逃げられないだけなのか

僕が、君を愛してしまったばかりに

君が、僕に大切にされてしまったばかりに


無限の可能性と引き換えに

無限の自由を失ったのだ


可哀想に 


自我の持てない空想の君は

僕が産み出した言葉によって

白紙の世界で踊るしかないのだ


けして君を不幸にしたいわけではない

けして君を幸せにしたいわけではない

けして君を笑いものにしたいわけではない

けして君を慰めものにしたいわけではない

けして君を縛りつけたいわけではない


ただ僕の望むまま自由に生きて欲しいだけだ

だから今日も僕の手で転がされて生きていろ

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