episode27 継承
存在をハッキリと感じたのは、『
そして今、大ピンチだろっと思った瞬間初めて僕の前に俺が現れたのである。
“でも意外だ。自分自身と面を向かって話すことになろうとは奇妙な感覚だな”
真っ白な空間。
足元には何もない……どうして立っていられるのか分からないし、更に言えば戦闘中だった筈の場所が何故か摩訶不思議な世界へと移ったことに対して疑問に思うべき所だが、そんなことどうでもいい。
寧ろそれより目の前に立つ僕に魅入る。
鏡に映ったかのような自分の見た目は同じに思えたが、目に見えないオーラは違った。
それが僕と俺の明確な違いだと実感した。
「僕もだよ」
“記憶消失なんて物語だけだと思ってたんだがな”
「それを言うなら、この現実こそ物語の中の世界だろってツッコミたいんだけど……。しかもその中心に僕が居るなんて」
“だな。俺もまさか行く場所誰もが知る有名人になるとはびっくり、びっくり”
「笑い事か!?」
こうして会話する中で少し違和感を抱く。
“そうカッカするなってそれより本題に入ろうぜ”
「君が出て来たってことは交代ってことだよね」
よくテレビや映画だと記憶消失の人間が記憶を取り戻す時、それは記憶消失の時点で生まれていた人格が失くなるというのが定番だし、今回こんな風に僕と俺が向かい合えばその時が訪れたと脳が錯覚しても可笑しくない。
けどそうならないだろうと予感があった。
“変わるわけないだろ、何言ってんだ?”
「え、でも」
“それに本当はもう解ってるよな。気づいてるからこそ、不安だって顔に出てるぞ”
ニヤつく俺の笑いは訴える。
そして予感は現実へと置換された。
俺の言う通り僕はもう知っていた。
だって……僕は全ての記憶を取り戻していたのだから。
“ちなみにいつからそうだと気づいてた”
「言う必要あるかい。君が僕なら知ってる筈だろ?」
“敢えて僕自身の口から聴きたいものでね”
「『
『神炎』ではなく『
神楽は火、水、土、風、四属性を持つ。
大空ヤマトが最も得意とした性質が火。
それ故か始めに僕が使い方を思い出したのは『神炎』だった。
ただ記憶を取り戻したとはいえ、慣れたものを放棄し性質を切り替えることを躊躇った為火属性のみを使っていたのである。
そして百鬼丸と向き合う中でそれだけでさえ足りないと思っていた。
そんな時俺が現れた。
きっとコイツはそれを伝える為に現れ、別れを告げることとなる。
俺は僕の前まで歩み寄り胸をポンと叩く。
“僕ならやれる頑張れ大空ヤマト”
俺の姿が透明になっていく。
どうやら別れの時が来たらしい。
最期に僕は口を開く。過去に向き合い今を生きる後押しをしてくれた自分にどうしても言わなきゃいけないことがあった。
「皆のことは任せろ俺!」
“任せたぞ僕”
別れの挨拶は哀しくなど無かった。
だって俺は僕の中で生きているそれに…。
どうしても拭い切れなかった事が一つ。
皆が想像する俺と僕との違い。
これについては全面的に僕が悪かった。
だって皆に勇気を与えたいばかりに仮面を被り続けていたのだから。
ただひのみが僕に驚かなかったわけもこれでハッキリとした。彼女と元々の僕を知る者の前でだけは素の自分でいた。
「ありがとう」
完全に消えた俺に礼を言うと不可思議な世界は元の世界へと塗り換わる。
※※※
「では私の手で引導を渡そうぞ」
流星の如く真っ直ぐ僕を標的と定め狙う百鬼丸。三つの竜巻が後押しし力を倍増させる役割を果たしているに違いない。
ならば力を削ぎこちらの力にするまで。
やり方はもう分かってる。
「
柄に備わっていた宝玉の色が変わる。
燃える炎を司る朱が、嵐の中吹雪く突風を示す翠へと。
「“轟風覇”」
流星と化した百鬼丸を神風から放たれる竜巻が正面から襲う。
情報として英雄が四属性の力を持つことは勿論知っていたが思い違いがあった。
姫様の話だと異空間から脱出する可能性もあると言われていた。但し脱出の後遺症で記憶に障害が起き、多少役には立つだろうが肝心な場面では使い物にならない。
姫様のお告げ通り人類は英雄を取り戻すために動き、悪魔側は罠を仕掛け出迎えた。
百鬼丸もこの戦に参戦し驚いた。
姫様の予知能力を信じていなかった訳ではなかったが、本当に彼女の言う通り事が進んだからであり、よもや脱出することは出来ないと思っていた彼処から出て来て戦場に現れる。
追い詰めていた筈の人類に逃げ道を作らした活躍には目を見張る事があったが、「火」の『神楽』しか扱わない所を見れば記憶障害による弊害と思う。
つまり今ここで弱体化した英雄を討つ事を姫様より託された気になっていた。
それが判断を鈍らせてしまった原因とでも言えよう。
「そんな姫様の予知がまさか外れるのか…」
「甘いと言ったこと死んで後悔するんだな」
轟風覇に完全に押し負け流星は失速。
さっきの僕みたいに空中で足止めされてしまう。向こうは最後の力を振り絞り金棒を投げた。
竜巻の中を巡り投擲された武器は僕の横を掠め地面に突き刺さる。
「“一閃・風刃”」
飛ぶ斬撃が遥か彼方へと向かう。
しくじったと百鬼丸が思考した時には、風の刃が飛んできて防御姿勢を取ったが無意味で身体は分かたれ命潰える。
「お疲れ様」
いつから視ていたのか。
ふと気づけば僕と百鬼丸を戦場から孤立させていた光の壁は消えひのみが立っていた。
どうやら外の悪魔は全て倒し尽くしたらしく、サポート要員と名乗ったわりにはそれ以上の役割を果たすのでは?っと言いそうになったのを堪える。
「そっちこそお疲れ」
「蓮たちから連絡あったわ。無事逃げ切れたありがとうって」
「そうか僕たちやったんだな」
「ええ一先ずはこれで」
「ひのみお姉ちゃんはこれで終われると思ってた?」
五〜六歳ぐらいの少女が地面に横たわる百鬼丸を踏み台にして立っていた。
「君、そこに居るのは危ないよ」と離れるように伝え少女に近づこうとするのを止める。
「貴女何者?」
「あれれぇ〜〜〜〜〜、完璧な擬態だと思ったんだけどなぁ〜。やっぱり巫女には見破れるのか、私頑張ったのに残念、残念。」
不気味な笑みを浮かべ淑女の礼
「ご挨拶が遅れました。貴方方が
「クロエって名前私聞いたことないんだけど」
「当然よ黒騎士が過保護過ぎて表舞台に立つことを許してくれなかったもの。そんな話はさておきここいらで一度決着をつけないか提案に来たのよ私」
「決着って今ここで私とヤマトで貴女と戦えばいいのかしら」
「ううん、そんな勝負したら100%私が負けるのでNG。その代わり東京に全ての悪魔を集めて場を設けてあげるから、最終決戦と洒落込みましょ」
「それを信じられるとでも?」
「仕方ないわね……ちょっと待ってて」
『あ、あ、マイクテスト。マイクテスト〜〜〜、人類の方聴こえてますか~~。私、これ以上各地での小規模の戦闘は不毛だと思うの。そこで貴方方のもとに彼も戻ってきた事だし一週間後、東京で皆様をお待ちしております。ただもしもこの決戦を邪魔して皆様参加されないようでしたら私キレてしまうかも。というわけで本日は悪魔の軍勢には退くよう指示を出すので、皆様一週間後楽しみにしていますね』』
「これで各地の同胞は退くからそれで信じて貰えればなによりね。じゃあ一週間後を楽しみにしておきますから是非いらっしゃい待ってるわヤマトお兄ちゃん、ひのみお姉ちゃん」
こうして嵐のように到来した少女クロエは瞬きする間に音もなく消え去った。
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