episode17 そして彼女は彼と再会した

 第ニフェイズ当日朝。


「グッモーニング!エブリワン!」


 霜山は作戦開始前予め決めていた無線の周波数に合わせ、今回の作戦に参加する皆に伝わるように語りかける。

 

「今回は、これまでに類を見ない大規模作戦になります。必ず我々は成し遂げます。どうか皆さんもお力をおかしください」


 霜山の心のこもった想いが伝播する。

 そもそも大空ヤマトをどうやって囚われた仮想世界から現実世界に連れ戻すか。

 二つの世界を往来する転移装置は作ったが、それだけで連れ戻せるほど敵の牢は柔くない。

 第一フェイズにて、神村の手により現状把握に努め分かったことがあった。

 一つ目、仮想世界にて大空ヤマトは記憶を消されごく普通に生活している。

 故にこちら側の情報を少しでも与え記憶を呼び起こそうとしたが、神村によるとそれは失敗したとのこと。

 そして最も肝心な二つ目。

 どうやって神村が仮想世界に入ったか、敵はそれを知らない。

 神楽の一族が大々守ってきた接続兵器コネクトウェポン

 当代の守り手として選ばれたのが神楽ひのみであり、彼女はを大空ヤマトに託した。

 それが主人公の道を切り拓く第一歩となった。

 その時に結ばれた縁。

 か細くともそれが現実世界と仮想世界を繋ぐ架け橋となった。

 ただその架け橋だけではヤマトを連れ戻すことは出来ない。

 大きな要因それは…。

 仮想世界が構築する堅固な結界によるものだ。入る者拒まずされど誰も外に出さないそんな作りになっている。


「東京までの護衛任せたぞ」

「わっ〜てるって蓮。それより

「もちのろん。俺様を誰と心得る羽柴蓮様だぞ」


 涼介は真剣な眼差しで物語る友の顔に気楽に応える。

 油断しているわけではない。

 これから起こる自衛隊の援護がない状態での大規模戦闘を前に緊張を和らげる為にも、敢えて普段通りの対応を互いに取る。

 涼介の性格を知らない者が、二人の会話を盗み聞きしていたら叱責するかも知れないけれど今この場にそんな輩はいない。

 今回の作戦に参加するのは、北海道、名古屋、大阪、愛媛、福岡、沖縄で戦う接続者・疑似接続者コネクターの面々達。そして彼らをサポートする仲間を加え総勢百人程度。

 一週間前、霜山の号令により集められた者全てが参加している。

 たった一人を救うため。

 大勢が駆けつけたのであった。

 

「蓮ごめんなさい……。貴方には負担をかけてしまって」


 蓮はモニター越しに会話していたわけだが、涼介の後ろに控えていた友美が申し訳無さそうに歩み寄る。

 反攻作戦にあたり友美は無理を言った東京遠征組に志願し、悪魔ウォンデッド第二の主力がある京都へのアタックは愛媛の蓮に託された。

 大阪、愛媛からの二方面攻撃を敢行予定だったが足立が東京遠征組に組み込まれた為、蓮の負担が増したことを彼女は本当に申し訳ないと心の底から思う。

 ただどうしても自分の瞳で確かめねばならなきゃならないことがあった為に、今回志願したのである。


「謝るくらいなら必ず結果を示せ。そしたら許してやる!」

「そろそろ時間だからそこ二人こっちに来なさい」


 蓮とオンライン会話をしていた涼介と友美は回線を切り、霜山のもとに集った。

 友美は周囲を見渡しふと強張り表情が少し固いひのみと目が合った。

 お互い何か喋りかける訳でもなく作戦は動き出した。

 

※※※


 第二フェイズ。

 仮想世界に囚われた大空ヤマトをどう連れ戻すか。

 仮想世界と現実世界を分け隔つ結界は外側からの干渉には脆く逆に内側から外に出ようとすれば鉄壁の要塞と化し獲物を逃さない構造になっていた。

 ヤマトとひのみの間に結ばれた縁によりかかった架け橋をより強固なものにするためには、彼本来の力を仮想世界にて取り戻す必要があった。

 結界が弱まれば無理矢理にでも突破し仮想世界から抜け出す道が完成する筈。


「準備完了っと」


 東京郊外。

 人里離れた森の中にある洞窟に東京遠征組はやって来ていた。

 ここに来るまでおよそ二時間弱。

 以前東京第二次大戦の時に脱出経路として使った抜け道が生きており、密かに辿り着くことが出来た。

 名古屋からでも仮想世界に入ることは可能だ。けれど距離が遠くなるということはそれだけ仮想世界から現実世界に戻る通路の距離も自然と長くなる。

 そうなれば大空ヤマトを救出する過程で敵に気づかれれば何かしらの対処をされるかも知れない。

 可能性の危険を出来得る限り排除する為にも東京にまで出向く必要があったのだ。


「シンクロ率70%到達。神楽さん準備お願いします」

「あっはい。分かりました今行きます」


 転移装置の起動準備が整ったことを報せる整備員の言葉にひのみは応え向かおうとすると、そこにが立ちはだかった。


「貴女にとって彼ってどんな存在なの?」

「何よいきなり……」

「いいから答えて」


 

 

「私にとってはただそれだけ。英雄だからそんな建前なくても、たとえ独りだったとしても私は彼を助けに行く。それは揺るぎない私の信念よ」


 考えるまでもなく、ハッキリとした答えを持っているからこそすんなりと言葉が出た。 


「ははっあんた今乙女の顔してるよ」


 何故足立友美が私に突っかかるのか。

 そして私の答えに彼女は笑う。

 彼女のおかげで私の中で高まっていた緊張感が解れる。


 待っていて、ヤマト。


 こうして第二フェイズは始動した。

 同時に第三フェイズのための布石である各都市の陽動作戦と仮想世界にいる三人を呼び戻すための転移準備を始める。

 

※※※


 皆の手で手繰り寄せた導き。

 予定通り彼に記憶を追体験させるため、神村が事前に用意していた悪魔もどきを指定の位置に召喚してくれており、私はそこに降り立つ。

 東京に悪魔が現れた二時間後の福岡県博多駅。

 当時福岡は東京にて悪魔が出たという話はどうせフェイクニュースだとばかりに誰もが思っていた。だから皆現実を受け入れられず惨劇が起きた時も慌てふためく。

 敢えて現実世界でヤマトが遭遇した時を追体験させることに意味がある。

 ただ唯一違うのは……。

 仮想世界にて降り立ち振り返るとが柚子ちゃんを庇うようにいた。

 瞳が合う。


 あぁ、ヤマトだ。


 たとえ私と過ごした記憶が無くとも彼の行動は全く変わっていない。

 この一瞬の邂逅だけで私は直感した。


 “世界を救う、君のために。”


 私は彼と再会したら何を話そうか必死に考えていたのに土壇場で全て忘れてしまった。

 なのにふと彼のとある言葉が過る。


 ふっ、馬鹿みたい私。


 普段なら絶っっ対に言わない台詞を吐く。


「世界を救うぞ主人公さん」

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