第115話
ワッツの武器屋からサムの会社はそう離れていない。通りを少しあるくだけでサム商会の建物が見えてきた。店に入って案内をこうとすぐに奥からサムが顔を出した。二人を見るなり、
「こんにちは。レーゲンス以来ですね」
「どうも、お久しぶり」
と挨拶を交わす。二人の様子を見てすぐにサムは二人を奥の応接室に案内した。このあたりの察しの良さは流石に一流の商売人だなと部屋に案内されたダンは思った。
社員が飲み物のジュースを置いて部屋を出ていき、3人だけになると
「さてと見た感じだと挨拶に来られた様ではなさそうですが」
とサムが切り出した。
実は…とデイブが話をしていく。二人が大陸中央部の秘境に行っていたと聞いてびっくりするサムだが黙って話を聞いていた。
「それでその山の中にある洞窟からこれを見つけてきたんだよ」
そう言ってアイテムボックスからクリスタルの結晶体を4つ取り出してテーブルに置く。サムは見た瞬間にそれが何かを理解し、よろしいかな?と言って1つを手に取った。そして結局4つ全部を手に取ってみる。
暫く見ていたサム、テーブルに戻すと二人を見て、
「純度の高い、非常に良い物です。ここまで純度の高いのは見たことがありませんな。それでこれを私に買い取って欲しいと?」
サムの見立てではこれほどの高純度のクリスタルの結晶体なら白金貨10枚、いや20枚の価値は十分にある。これでいくつオーブが作れるのか。などと頭の中で計算をしていると、
「いや、買取依頼じゃない。これは全部サムに差し上げるよ」
「えっ!?」
流石のサムも今のデイブの言葉にびっくりする。これだけあれば一財産どころか一生遊んで暮らしても使い切れない程の金額になるのは間違いない。
サムがびっくりした表情のままでいるとデイブが言った。
「ただで差し上げるが条件があるんだ。これを使ってオーブを1セット、2個を俺達用に作ってもらいたい。余ったクリスタルの結晶体はそのまま差し上げるからそちらで好きに使ってくれて構わない」
「なるほど。これを使ってお二人にオーブを1セット作るのが条件ですか」
その通りというデイブ。
「1セット作っても俺とダンが持つわけじゃ無い。1つは俺達が持つがもう1つはミンというワッツやレミーと中の良い元冒険者で精霊士の家に置くつもりなんだ」
そう言ってから今までいたワッツの店でのやりとりをサムに説明する。
「なるほど魔力の関係でワッツさんよりミンさんの方が良いというわけですな。確かにその通りだ」
「サムはミンの店とも取引があるのかい?」
ダンが聞いた。ありますよというサム。
「レミーさんから紹介してもらいましてね。ミンさんの雑貨屋にも商品を卸し始めているんですよ」
「なるほど」
「お二人の要望はわかりました。おっしゃった条件でお受けしましょう。オーブを1セット2個、直ちに製造する様に業者に依頼しますよ」
「ありがたい」
ダンが言うといつごろできるのかとデイブが聞いた。
「はっきりしたところは業者に持ち込んだ時点でわかるでしょうが、普通なら1ヶ月もあればできると思いますよ」
オーブが出来上がったら二人に連絡するという。
「暫くはヴェルスの街にいらっしゃるんですよね?」
「そうなるかな。次の挑戦のための準備もあるしね」
二人が店を出るとサムはすぐに会社にいる鑑定の専門家に4つのクリスタル結晶体を見せる。自分も鑑定能力はあるが専門家に見せて確認をとりたかったのだ。鑑定の専門家は4つのクリスタルをそれぞれ手に取ってじっくりと見てから顔を上げると、
「ここまで純度の高いクリスタルの結晶体は初めてみました。オーブの材料としてこれ以上のものはないでしょう」
その鑑定結果に満足すると次は自分の執務室にこのヴェルスの店のNo.2の地位にいる男性社員を呼び出した。男が部屋に入ってくると、
「このクリスタルの結晶体を錬金業者に持ち込んでくれ。そしてオーブを3セット、6個作る様に指示してくれるか」
「かしこまりました」
男はすぐに部屋を出て行った。彼の頭の中にはノワール・ルージュに渡す1セット以外にここヴェルスとラウンロイドのサムの店との通信用、そしてサムとレーゲンスのウィーナとの通信用の都合3セットが頭に浮かんだのだ。
「これができるとずっと楽になるな。それにしてもあの二人は私の想像以上だった。戦闘能力はもちろん、人間としても超がつく一流だな。見習う点は多い」
ダンとデイブはそれからオーブができるまでは郊外の森で体を動かしたりミンの店で品物を揃えたりしていた。
「山の上は寒くなかった?」
「少し冷えたかな?」
「なら寒い時はこれを寝袋の内側に入れたらいいわよ。あったかいから」
そんな調子で山に行った時のことを話ながら少しずつ備品を揃えていく二人。万が一にそなえて薬やポーションも一応準備していく。そして時間があるときにはワッツの店やレミーの店に顔を出しては雑談をして日々を過ごしていた。
そうしてサムの店に顔を出してから3週間後、サムから連絡がきた。オーブが出来上がったという。すぐに店に顔を出した二人。
「これが通信用のオーブなのか」
「綺麗だな」
サムの店の応接室で出来上がった1組のオーブを見ている二人。ガラスの様に透き通った丸い玉が2つ布の上に置かれている。
「この玉に手を触れて魔力を流すともう1つの方のオーブが光ります。そして光ったオーブに手を当てて魔力を通すとそれで通信が可能となるのです」
やってみようかと1つのオーブに手を当てたデイブが魔力を注ぐともう1つのオーブが光出した。光出した方にダンが手を当てて魔力を通すとオーブの中にそれぞれ相手の顔が写った。
「一度開通すればもう手を離しても大丈夫です」
言われるままに手を離すと確かに相手の顔が鮮明に写っている
「すごいものだな」
感心するデイブとダン。
「切る時は手を当てて魔力を止めるとそこで切れますので」
「なるほど。いやありがとう」
「お礼を言うのはこちらですよ。錬金業者もこんなに綺麗なクリスタルは初めて見たって言っていましたよ」
「純度が高い方が遠距離でも使えるだよな?」
「その通りです。純度が高く、魔力が強ければ強いほどより遠くと鮮明に会話ができますよ」
どうぞというサムの声を聞いてオーブを2つアイテムボックスに収納するダン。それを見ていたサムが、
「すぐにまた山に行かれる予定ですか?」
と聞いてきた。
「いつとは決めていないんだけどね。山は逃げないし」
「そうですか。実はレーゲンスのウィーナのところに行く用事がありましてね。もしよろしければ往復の護衛をお願いできないかと思いまして」
サムの言葉を聞いてデイブがダンを見ると彼は頷いていた。
「わかった。こっちも急ぐ必要もないし、サムと一緒にレーゲンスに行こうか」
「ありがとうございます。お二人なら安心ですからね」
そう言って3日後に出発することになった。
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