第111話

 ノワール・ルージュの二人がヴェルスに戻って2ヶ月ちょっとが過ぎた。二人は外で体を動かしながらミンの店に定期的に顔を出しては遠出の準備を少しずつ整えていた。ミンも協力的で二人の希望の品を取り寄せては入荷すると連絡してくれる。


「テントでいいのが入ったの。一回り大きくなってるけど折りたたみが直ぐできるのよ。さっと片付けられるわよ。それとテントの底の部分が厚い生地だから硬い岩の上で寝ても痛くないわよ」


「そりゃいいな」


「二人はアイテムボックスを持っているからに荷物の大きさを気にしなくていいわよね。色々とお勧めのが増えてるわよ」


 店で雑談をしながら準備を進める二人。ワッツやレミーも遠出の際の必要品などをアドバイスしてくれている。



 二人がそんな風にゆっくりと準備を進めている頃、レーゲンスから護衛クエストでヴェルスにやってきた冒険者達がヴェルスの酒場でこちらの冒険者と飲んでいた時に、ノワール・ルージュがレーゲンスで最も難易度が高くて長い間未クリアだったダンジョンをクリアしたという話をした。


 未クリアダンジョンのクリアはここヴェルスでも当たり前の様にしていた二人なのでそれ自体に驚く者はいなかったがそのボスがランクSSSSクラスだったという話がでるとギルド中が騒然となる。


「嘘だろう?」


「ランクSSSS? そんなのがこの世界にいるのか?」


「ああ、レーゲンスのギルマスが言っている。ボスはドラゴンでランクはSSSSだったって」


「ドラゴン?ダンジョンボスのランクSSSSのドラゴンをノワール・ルージュの二人で倒したって言うのかよ?」


「その通り。ランクSSSSなんてギルド始まって以来のランクらしくてギルド職員が間違いじゃなかって何度も魔石を調べて確かめたらしいぞ」


 レーゲンスから来たパーティはまるで自分達がクリアしたかの様に興奮して言う。それに気がつかない程ヴェルスの冒険者達は話に聞き入っていた。


「ギルド始まって以来か、そうなるわな」


「そりゃそうだろう。ランクSSSSだろ?地上には存在しない強さじゃないかよ」


「それを二人で倒したんだろう?本当に化け物みたいに強いな」


 ノワール・ルージュの強さはレーゲンスとヴェルスいや大陸中に響き渡ってる。二人組のランクSのパーティで訪れる都市の未クリアダンジョンに挑戦しては次々とクリアしている。二人共桁違いの実力を持っていると。


 その二人がついにランクSSSSのドラゴンまで倒してしまったのかとそのとんでもない強さに改めて驚く冒険者達。


「文字通り大陸最強のパーティだな」


 誰かが言うと全くだという声があちこちから聞こえていた。




 翌日郊外でランクA相手に体を動かして夕刻に久しぶりにギルドに顔を出した二人は直ぐに冒険者達に囲まれる。


「レーゲンスでランクSSSSのダンジョンボスのドラゴンを倒したんだって?」


「ああ。ボスのランクは後で聞いたんだけどな」


 デイブがあっさりと言った。


「ドラゴンだったんだろう?」


「そうらしいな。俺達は大型のワイバーンだと思ってやっつけたと思ってたら、後で魔石を見たらドラゴンだったんだよ。いやびっくりしたよ」


「どうやって倒したのか教えてくれないか?」


 その場にいたヴェルスのランクAのミゲルが聞いてきた。デイブはボス戦の前のフロア攻略から順を追って説明していく。


「フロアの中で2泊の野営か。そんなに広いダンジョンは挑戦したことがないな」


「ただちゃんと安全地帯はある。そこを見つけてそこに辿り着ければ安全に夜を過ごせる」


 ミゲルとデイブのやりとりを黙って来ている周囲の冒険者達。ダンはいつも通りデイブに任せながら自分はビールをちびちびと飲んでいた。


「ワイバーンが空から、トロルが地上からどっちもランクSSクラス?俺達なら即死コースじゃないか」


「ワイバーンは飛んでるが精霊魔法に弱い。ということで俺がワイバーンをやっつけてダンはひたすらトロルを倒しまくってたよ」


「もう地上やダンジョンでお前らより強い敵なんていないんじゃないの?」


「そりゃどうだかな。まだ未クリアダンジョンはいくつもある。しばらく休んだら挑戦するつもりだよ」


 ダンとデイブは自分達が中央の山に行くことは他の冒険者には言わないでおこうと決めていた。特にこれと言った理由がある訳じゃないが。


「ベラベラと人に言うもんじゃないしな」


 というデイブの言葉にそうだなと言ったダン。二人は自分達が強いのは知っているが最初から強かった訳じゃない、鍛錬を重ねた結果ここまで強くなったのだと自覚している。言い換えるとこの酒場にいる仲間だってそれなりの鍛錬をすれば高みに昇ってこられるはずだ。決して自分達は特別な人間じゃないぞといつも言い聞かせていた。


 だから自分達の力をひけらかす様な自慢話をするのは止めてことは止めようと決めていた。


 その後もフィールドで体を動かしながらワッツの店やレミーの店に顔を出して話をし、ミンの店や市内の食料品店から水や食料をしっかりと買いつけていた二人。



「そろそろ一度行ってみようかと思ってる」


「まずは様子見で行くんだな?」


「そういうこと。半年くらいで戻ってくる予定だよ」


 ここはワッツの店だ。店にはワッツの他にレミーとミンがいてテーブルを囲んでお茶を飲みながら話をしている。


「装備、防具はこれ以上ない程の業物を持っている。道中もミンが用意した装備と街の中で買い揃えた食料や水が十分がればめったなことにはならないだろう」


 二人の格好を見てワッツが言った。


「いっぱい店から買ってくれたからおかげでたっぷり稼がせて貰ったわよ。二人はお得意さんなんだからまた帰ったら黒猫をよろしくね」


 ミンが言う。


「こっちも二人がいない間にサムの店から良い防具が入ったら取っておくからね」


「ありがとう」


 レミーの言葉にお礼を言う二人。


「ギルマスには行くって言うのか?」


 それには首を振る二人。


「様子見だしな。帰ってきてから報告するつもりだ。もし聞かれたらワッツから言っておいてくれよ」

 

 わかったというワッツ。


 気をつけて行ってこいよと言うワッツの声を背中に聞いて二人は店をでてアパートに戻り、翌朝に城門を出ると西に向かって歩き出した。


 いよいよ大陸中央部の攻略だ。

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