第98話
「大した物が出なかった顔してるね」
「その通り」
そう言ってウィーナの前に剣と指輪を置くデイブ。テーブルに置かれた戦利品を一目見たウィーナは顔を上げると、
「今持ってる剣や装備の方がずっと良いね。ハズレダンジョンだったかい?」
「おそらくな。最後までランクSSは単体だったし、ボスもSSの上位クラスだが力任せに攻撃してくるだけだった。大したことは無かったよ」
デイブが言った。
「あんた達にはハズレダンジョンでも普通のランクAにとっちゃあそれなりの難易度のダンジョンなんだろう。要はあんた達が強すぎるってことだよ」
ウィーナの言葉に苦笑する二人。
「まだここレーゲンスで未クリアダンジョンがある。片っ端から挑戦するよ」
ダンが言った。
「それからどうするんだい?すぐに大陸の中央部の山に向かうのかい?」
ダンとデイブは顔を見合わせる。そしてデイブがウィーナに顔を向けると、
「俺達の中では一気に山奥に向かうんじゃなくてまずは様子を見たい。山の入り口付近の探索だな。そして一度街に戻ってから本格的に挑戦するつもりだよ」
「なるほど。未知の場所だしね。慎重に動くのは悪くないよ」
デイブの言葉にウィーナもそれがいいだろうと言った。そうしてお茶を飲んでいると、
「そういえば少し前にこの街で変なやつに絡まれたんだよ」
と話題を変えたデイブがエドガー商会という会社の社員にいきなり上から目線で声をかけられた話をする。聞いていたウィーナはデイブの話が終わると、
「エドガー商会ってのはこのレーゲンスでは大手の商会の1つさ。もう長い間この街で商売をしているから有名っちゃあ有名だよ」
「それでか。やけに態度がデカかったな」
「会社が大きいと自分も偉くなってると勘違いしている人が多いんだよ」
「ウィーナは彼らとは商売してるのかい?」
ダンが聞いた。
「多くはないけどね。仕入れ先は多い方が良いからね。ただ今回サムの商会とコネができたからエドガーのところとは減るだろうね」
どうしてだ?という表情でウィーナを見る二人。その視線に気づくと、
「あんた達が今言ったじゃないの、態度がでかいって。あの商会は社員のほとんどが私らに対しても売ってやるって態度で接してくるんだよ。鼻持ちならない奴等ばかりでね、商売して気持ちの良い相手じゃない。今までは他に仕入れ先が無かったから付き合ってたけどね、サムの様な良い商人と知り合えたから今後はサムのところからの仕入れを増やしてエドガーからは減らすつもりだよ」
「テーブルマウンテンにいた奴らみたいだな」
ダンが言うとそうだなと頷くデイブ。テーブルマウンテンという言葉を聞いてお茶を飲んでいたウィーナが顔を上げた。
「テーブルマウンテンってリッチモンドの先にある山の上にある街のことかい?」
「そうなんだよ」
デイブはそう言うとテーブルマウンテンに行った時の話をウィーナに聞かせる。話を聞き終えたウィーナ。
「オウルと同じ様なことがあったんだね」
「でもオウルの人は皆協力的だった、あっちは最初は違ってたけどな」
「それでもその意識を変えてあげたんだろう?大したものだよ」
「変えたのは俺達じゃない」
とダンが言う。
「それをやったのはリッチモンドの冒険者とギルドだよ。俺達はただ街の外にいた魔獣を討伐しただけだ。政治的な部分は全部リッチモンドの連中がしたのさ」
相変わらずだねとダンの話を聞きながらウィーナは思っていた。あんた達二人が100体以上の魔獣をあっという間に討伐したから彼らも冒険者を見直したんだろう。でもあんた達にとったらランクAが100体でも雑魚とは変わらないからすごいことをしたという気は全くないんだろうね。
「そうかい。でもまぁ協力してあげたんだろう?ちゃんと仕事はしたってことだよ」
「魔獣討伐は俺達の領分だからな」
デイブの言葉に頷くウィーナ。
二人がウィーナの店で話をしている頃エドガー商会では社長以下幹部連中が集まって会議をしていた。
「ランクSの例の二人組をどうにかしてウチの商会に取り組むことはできないのか?」
社長のエドガーが声を上げる。道で二人に声をかけた幹部の一人は黙っていた。実はノワール・ルージュを取り込んだら自分の成績になると先走って独断で二人に声をかけたのだ。二人に無視されたなんてここでは言えない。
「金、女、暴力、何でも構わん」
社長のエドガーが声を荒げるが誰も発言しない。普通に考えればランクSは彼らだけだ。彼ら以上の力のある者はこの街にはいないからだ。
レーゲンスの街にはエドガー商会以外にも大手と言われている商会が2つありこの3つの商会でレーゲンスの物流の多くを取り仕切っている。当然他の2つの商会もエドガー商会と同様にノワール・ルージュがSランクになった頃から彼らの囲い込みは検討されていた。
ある商会は護衛クエストで知っている冒険者達に二人の取り込みを依頼するも全て断られる。
「無理だな」
「あいつらを縛ることなんてできないぜ」
「無理にやったらこっちが返り討ちにあう。諦めた方がいい」
と冒険者達から逆にたしなめられてしまう。また金、女についてもあの二人は金や女で転ぶ様な奴らじゃない。金は相当持ってるし、女よりも格上の敵と対戦することに興味がある奴らだ。とこちらからのアプローチも全くうまくいっていなかった。
エドガー商会はスラムにこの話を持ちかけた。スラムの連中と組んでなんとか二人を取り込もうとしたのだ。
市内の某レストランの個室で社長のエドガーとスラムのユーリーとの会談が持たれた。その席上でエドガーよりユーリーに対してお互いに組んでノワール・ルージュを取り込まないかと提案を受けたユーリーは、
「悪いがノワール・ルージュの扱いについては俺達スラムはノータッチという方針が出ている。協力できないな」
「なぜだ?たかが冒険者だろう?」
ユーリーは軽蔑しきった目でエドガーを見ると、
「たかがと言うがな、あいつらの強さはそこらにいる冒険者のレベルじゃない。桁違いという言葉はあの二人に当てはまる。事を構えたら俺達が壊滅的な打撃を受けるのは間違いないからな。これは脅しでもなんでもない。あんたも余り派手な事をやると取り返しのつかないことになるぞ」
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