第54話

 ダンとデイブはヴェルスに戻ってからは市内のアパートを拠点として3勤1休のいつものローテーションで活動をしている。


 強くなってもやることは同じだと考えている2人。ただ3勤の内2勤をダンジョンにして1日は地上で乱獲クエストをこなしていた。


 今2人はヴェルス周辺のダンジョンの深層でランクSを相手に鍛錬している。このダンジョンは過去にクリアされたことがありボスはランクS以上ランクSS未満というレベルらしい。2人の実力ではいつでもクリアできるのだが身体を動かすためにボス部屋の1つ上の階層でランクS相手に鍛錬していた。ただし以前の様に階段を降りたところで湧いた敵を倒すのではなく階層を動き回って敵を見つけては倒していく乱獲をしていた。


 そうして何日かその階層で乱獲をし、ついでにやるかという感じでそのまま下に降りてボスをあっさりと倒して地上に戻ってきた。


「大したことなかったか?」


 受付嬢が魔石を持って鑑定のために部屋を出ていくとギルマスのプリンストンが聞いてくる。デイブがそうだなと言って、


「俺達は鍛錬目的だったからな。ボスよりもその1つ上の層でのランクSを相手に鍛錬しようとダンと話しててからさ。ボスはついでというかまぁここまで来たら倒しておくかといった感じだった。あのボスならランクAのパーティなら普通に倒せるんじゃないの?」


「普通に倒せるかどうかは別だがランクAのパーティにとってはあのダンジョンのクリアが一つの目標にはなっているな。深層でランクSを相手にして最後はランクSより上のボス。普通のランクAの奴らにして見たら目標にするには良い強さなんだよ」


 普通のを強調して言うプリンストン。


 逆に言えばあのダンジョンを攻略できないランクAは大したことがないということになる。それこそ護衛クエスト中心でポイント貯めてランクAにはなってはいるが、実戦で格上との戦闘経験が少ないランクAのパーティにとっては難易度が高くなるんだろう。


 ダンもデイブも他のパーティの連中のことは興味はないがそれでもあのダンジョンがクリアでいないランクAは問題だろうとダンが思っていると同じ事をデイブがプリンストンに言った。


「その通りだ。このヴェルスであのダンジョンをクリアできないというか深層まで降りられないパーティが何組かいる。その一方でお前さん達の様にさっくり倒してくる2人組もいる。どちらもランクAなんだよな。ギルドのポイントシステムを見直す必要があるかもしれない」


 このモスト大陸には国はなく各都市国家と呼ばれる都市がそれぞれ独立をして街を運営しているが冒険者ギルドだけは大陸で統一した規則に沿って運営されている。


 各都市でランクの基準がバラバラだと護衛を頼む商人が困るからだ。ランクAと言われて護衛を頼んだはいいが、よその街じゃあランクB、あるいはランクCのレベルだと魔獣に襲われた時に商人の身の安全が保証されない。


 従ってそれぞれの都市にあるギルドは共通のポイント計算方法を採用してランクを決めている。そうしてこの提案が商人側から出てきたこともあり護衛クエストについては高いポイントを設定したという歴史がある。


「ギルドのポイント云々については俺達の知らない世界だ。それについてはこちらからとやかく言うつもりはないよ。それに俺達はそれほどランクには拘ってない。幸にしてランクAになって行動、ダンジョンに制限がなくなった。それだけで十分かな。あとは自分たちで力をつけるだけだから」


 ダンが言うと隣で頷くデイブ。プリンストンはダンの話を聞いて


「そうだな。今のは独り言だと聞き流してくれ。また他の街に行く時は報告だけ頼む」


 プリンストンの執務室からカウンターのある受付に戻ると知り合いから声がかかる。そちらを向くとランクAのミゲルのパーティだ。


「またダンジョンクリアしたんだって?」


 ミゲル他メンバーと挨拶をして2人が座るとすぐにミゲルが話かけてきた。


「ミゲルらもクリアしてるダンジョンだろう?」


「まぁな、ランクAになってしばらくした頃に挑戦してクリアしたよ」


「ランクAならあのダンジョンはクリアできるだろう。ランクSも単体でしか出てこないしボスはランクSよりちょっとだけ強いだけだ。癖のある攻撃もしてこない。ガチでぶつかっても負けないだろう」


 デイブがあっさりというがそれを聞いて苦笑するミゲルらメンバー。ミゲルは酒場をグぐるっと見渡してから、


「確かにデイブの言う通りだ。ボスだってそんなにいやらしくはない。ただな、それでもクリアできないと言うか挑戦しないランクAのパーテイもここヴェルスにはいるんだよ」


 さっきのギルマスの話だなとデイブはダンと顔を見合わせる。


「今のシステムじゃ護衛クエストと同格や格下の敵を倒していると勝手にポイントが溜まってランクAだ。そんな楽して上がってきた奴らは格上と戦闘なんてしたことがない。戦闘能力も低けりゃ経験もない。そいつらにとっては難関のダンジョンなのさ」


 盾役のスミスがミゲルに続いて言った。


「そして何やかんやと理由をつけてダンジョンには潜らず、こことラウンロイド、せいぜいレーゲンスの護衛だけやってるってわけだ。他の街に行ってもダンジョンにも潜ってないだろう」


 ミゲルが言うと、聞いていた他のメンバーもあんなのと同じランクAってちょっと嫌なのよと言う。するとミゲルが2人を見て


「お前さん達も俺達と同じランクAってのが嫌なんじゃないの?どう見ても格が違いすぎるだろう?」


「俺達は何とも思ってない。とりあえずランクAになって行動に制限は無いしどこのダンジョンでも挑戦できる。クエストの報酬も高くなる。それで十分だよ」


「なるほど、他の奴らのランクは気にしてないってことか」


 そうだよとダンが言う。


「デイブが言った様に俺達は全く気にしてない。そりゃ護衛クエストをやるならランクAの中で取り合いになったりした時に色々と思うところがあるかもしれない。でもこっちは護衛クエストとは無縁の世界にいるんでね。強い敵を倒して強くなって良い装備や金を得る。他のパーティと競合することもない。何も問題ないね」


 ミゲルらは目の前に座っているこの2人組の実力は嫌と言うほど知っている。2人だけで格上、それも2つ格上相手にスキル上げをし、さらにその上のランクのボスまで2人で倒している。ワッツらもなれなかったランクSになるのはこいつらしかいないだろうなとメンバーは皆思っている。


「またどこかに武者修行に行く予定はあるのかい?」


 スミスが聞いてきた。


「今度はラウンロイドから奥にあるリッチモンドまで足を伸ばそうかって話している。知らない街に行けば出てくる魔獣が変わる。鍛錬になるしな」


「大陸中を歩き回るつもりか」


「そうなるかも」


 そして行く先々で名前を売っていずれ大陸中でこいつらの名前を知らない冒険者はモグリだと言われる位になるんだろう。スミスとデイブのやりとりを聞きながらミゲルはそう確信していた。

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