第47話

「こりゃ凄い」


 デイブが思わず声を出した。ダンは声こそ出さなかったがデイブと同じ思いだった。

 城壁の中は緑が多くて広くて綺麗に作られている道が街中に伸びていた。

 

 建物は隣との間隔を開けてゆったりと並んでおり目に見える範囲でも女性や子供がいる。


「犯罪者の街って呼ばれているからもっと汚くてゴミゴミとした殺伐としたイメージを想像してたんだろう?」


 驚愕している表情で前を見ている二人にウィーナが声をかけた。


「いや全くその通りだよ。目の前のこの景色を見て言葉がでないよ」


「この街に住んでいる人のほとんどがこの街を終の住処にしている。自分たちが一生住むとなれば住みやすい街を作るのが人の常ってもんだよ」


 デイブとウィーナのやりとりを聞きながらもダンは街を見ていた。


「さて、こっちだよ」


 その言葉で一行は街の中を歩きだす。中に入っていくとさらに人が増えてきているが人々の表情は穏やかだ。街の中に緊張している雰囲気が見られない。


 そして行き交う人がウィーナを見ると挨拶してくるのだ。


「おかえりなさい」


「長老、おかえりなさい」


 やりとりを聞いていたデイブが「長老?」と口にするとそれを聞いたウィーナが


「年寄りだからさ」


 あっさり言いながら通りを歩いていると背後から、


「我々はここで」


 その言葉に背後を振り返ったウィーナ。


「そうだね。ご苦労さん。しっかりと休んでからレーゲンスに戻るんだよ」


 そう言うと同行していた2人の男がウィーナとデイブ、ダンに挨拶をすると街中に消えていった。


「私らはこっちだ」


 再び街の中を暫く歩くと周囲よりは大きな建物が見えてきた。2階建ての立派な建物が通りに面して建っている。


 建物に近づくとスラムの屋敷と同じ様に建物の入り口の左右の椅子に座っていた男が立ち上がると1人が扉を開け、もう1人は立ったまま


「長老、おかえりなさいませ」


 と言う。そうして中に入ると扉を開けた男とは別の今度は女性が3人を出迎えるとこちらですと入り口からそう遠くないところにある扉を開けた。


「長老、おかえりなさい。ダンとデイブだったかな。オウルの街にようこそ」


 部屋にはいると大きなテーブルがありその窓側に3人の男が座っていたが3人を見てたちあがり、中央に座っていた男が声をかけてきた。


「私はこの街を見ているゴードンという。ヴェルスやレーゲンス風に言えば領主という立場だ。実際は領主でも何でもないがな」


 ゴードンと名乗った男は学者の様な風貌の男だった。中肉中背で温厚な顔だちをしている。自分の自己紹介が終わると左右の男たちを紹介した。


「私の右に座っているのがこの街の治安担当の責任者のマッケイン、そして左に座っているのが鉱山の責任者のヤコブだ」


「ヴェルス所属の冒険者のデイブ、赤魔道士でランクはA」


「同じくヴェルス所属の冒険者のダン。暗黒剣士でランクAだ」


 互いの自己紹介が終わると着席する。今日はウィーナが中央に座りその左右にダンとデイブが座る。部屋に3人を案内した女性が他の女性二人と部屋に入ってきて各自の前にジュースを置いて部屋から出ていくと、


「オウルの噂については聞いているとは思うが聞いている噂と実際は大きく違う。確かにこの街ができた頃は犯罪者というレッテルを貼られた人が集まってきていた。だがそれから時が経つと犯罪者ではなく様々な理由で自分の住んでいた街を捨てざるを得なくなった人たちの受け皿として街を発展させてきたのだ。もちろん今でもこの街に入るのは簡単ではない。誰彼となく受け入れることによって以前から住んでいる住民が不安になるのではこの街にいる意味がないからな。だから極力街の情報は外に出さず、そして入居を希望する人には我々のルートで詳細なチェックをしそれで問題のない人を住民として受け入れているのだ。犯罪者の街という噂があるとまず人は近づいてこない。住民がそれで安心して生活できるのならと我々は敢えてその噂を否定していないのだ」


「じゃあ人口は増えてきているってことか?」


 デイブが聞くと、頷く3人。


「毎年数名がこの街に新たな住民として入ってきている」


 答えたのは治安担当のマッケインだ。


「なるほど。そしてレーゲンスのスラムやこのウィーナを通じて人の調査をしたり物資のやりとりをしているんだな?」


 デイブが言うとその通りと頷いてから、マッケインが


「ウィーナはこの街では長老と呼ばれている。この街の最高会議メンバーの一人なんだよ」


 それを聞いてダンもデイブもびっくりして真ん中に座っているウィーナを見る。


「ふん。歳食ってるからさ。それに私は普段はレーゲンスに住んでる。名前だけのメンバーだよ」


 謙遜して言うが街に入ってきた時の住民の挨拶を見る限りこの街でも相当の地位にいるんだろうということがわかる。


 ウィーナは自分のことを言われて恥ずかしくなったのかコホンと咳払いをすると、


「私のことはいいから、ダンとデイブに事情を話してやりな」


 ウィーナの言葉に苦笑するゴードンが、じゃあヤコブ頼むと言うとそれまで黙っていたヤコブが前に座っている3人、実際にはダンとデイブを交互に見ながら話しだした。


「長老から聞いているとは思うがこの街の財源の1つは街の背後にあるミスリルの鉱山だ。我々はこの街に住んで以来周辺の山を探索してミスリルが豊富にあることを見つけて鉱山の開発を始めた。ここの住民は多種多様だ。商売をしていた者や医者、木こりや鍛治屋、裁縫屋、農家、そして鉱山技師もいる。その鉱山技師が見つけたミスリルを掘り出してからこの街は急速に発展していった」


「今のオウルの財源の1つがミスリルだ。それ以外にもあるがミスリル鉱の販売で得られる利益でこの街が潤っていると言っても過言じゃない」


 ゴードンが補足で説明をすると再び口を開くヤコブ。ダンとデイブは黙って彼らの話を聞いている。


「ミスリルは坑道堀りで採掘している。幸にに埋蔵量はまだまだ十分にあるというのが鉱山技師の説明だ。そして彼の指示通りに坑道を掘っていると山の中にある空洞にぶつかったのだ。空洞自体は問題じゃない。むしろその空洞の周囲に道を作れば今度はそこから放射線状に坑道を作ることができるからな。問題はその空洞部分の底に大きな魔獣がいることなんだ」


「その魔獣の挙動は?魔法を撃ったり壁をよじ登ってきたりはしていないのかい?」


 話を聞いていたデイブが聞き返すとその言葉に首を振るヤコブ。


「幸に今デイブが言った様なことはない。ただ底にゴロゴロしている岩を掴んでは上に投げてくる」


「そりゃ危ないな」


「その通り、魔獣はどうだろう身長は3メートル程か。オークの大型といった感じの容姿をしている。唸り声を上げて石と言うか小岩を投げまくっている」


「今は洞窟の底で吠えて石を投げているだけだからとりあえずは安全だがいつまでもその状態が続くとは思えない。そしてひょっとしたらそいつ以外に他に仲間がいるかもしれない。災いの目は早めに摘みたいとは思っていたが残念ながらこの街の住民では対処しきれない。元冒険者ってのもいるがランクで言うとせいぜいBクラスだ。その元冒険者によると底にいるオークの大型の魔獣はどう見てもランクA以上はあるという。そうなると我々ではお手上げになる」


 ヤコブとゴードンが言う。そしてウィーナに顔を向けたゴードン。


「長老にこの魔獣が討伐できる口の固い、もちろん強い冒険者はいないだろうかと聞いたところ二人の名前が出てきたのだ」

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