第45話

 ウィーナの長い話が終わった。ダンもデイブもしばらく何も言えなかった。新しく注がれたお茶を飲んでいると、


「さてと、ここからが本題だよ。私がこの話をしたのはあんた達が初めてだ。どうしてかというと理由は3つある。1つはあんた達がこの街の住民じゃないからさ。2つ目はあんた達は性格が良い。ベラベラと人にしゃべる様な冒険者じゃない。そして3つ目はあんた達は冒険者の中でも桁違いに強いってことさ」


「1と2はまぁいいとして3つ目の強いってのが関係あるのかい?」


 デイブの言葉に大きく頷くウィーナ。


「今言った様にオウルはミスリルを掘って売っている。山にある坑道からミスリルを採掘してそれを精製してから売るんだが、最近坑道を奥に掘り進んでいった時に山の中にある空洞の様な場所に出たらしい。そしてそこに魔獣が住んでいてそのせいでそれより奥に掘り進むことができなくなってミスリルの採掘量が落ちているんだよ。街の主要な財源であるミスリルがないと街は立ち行かなくなる。あんた達2人にその魔獣の退治をお願いしようと思ってさ」


 ダンとデイブは顔を見合わせる。ウィーナの話は分かった。要は山の坑道の奥にいる魔獣退治の依頼だ。ただし場所がオウルってことでギルドを通すことはできない。


「もちろん報酬は出す。オウルのボスからの直接の依頼なんで支払いは保証するよ」


「ああ、金の問題じゃないんだ。何というかその」


 デイブが言葉に詰まっていると隣からダンが


「受けよう。頑張って生きている人間がそこにいて、そこにいる人が困っているのなら俺達ができるのならやろう」


 ダンが言うとデイブが目を見開いた。そして、


「そうだな。ダンの言う通りだ。俺はギルドとの関係がとか考えたけど、よく考えればそういうのは関係ないな。それにウィーナには世話になってるし」


 デイブもふっきれた様だ。2人の言葉を聞いてウィーナはありがとうと言ってから、


「当然内密に移動する。その手配はこちらでやるよ。準備ができたら宿に連絡を入れるから悪いがしばらくは街の中にいてくれるかい?なあに準備ってもせいぜい2日ほどでできるから」


 2人はウィーナの店を出るとほとんど口を聞かずに宿に戻ってきた。ちょうど昼頃になっていたので食事をとりながらデイブが、


「表と裏か」


「どこの街でもあるんだろう。それよりも俺達を指名してくれたんだ。良いところを見せないとな」


「その通りだ」


 その日の夜に早速宿に連絡が来た。宿の受付から雑貨屋のウィーナからの伝言で明日の閉店前に店に来てくれという。


 翌日の夕刻、日が暮れるか暮れないかの時間に2人が再び雑貨屋に顔を出すとウィーナが来たねと言って


「街を出るのは夜だ。そこから荒野を歩いて20日弱でオウルに着く。準備はいいかい?」


「大丈夫だ。いつも魔法袋に入っている」


「じゃあ行こうか」


 ウィーナは店を閉めると日が暮れた街を歩いていく。その後ろについて歩いていると大通りから細い道に入りそのまま奥に進んでいくと段々と雰囲気が変わってきた。スラムのエリアだ。


 道は細くなり家は平屋のボロ家が連なっている。その中を3人がしばらく歩いて街の城壁がぼんやりと見えるくらいにまで街の端に近づいたところに1軒の家が見えてきた。


 周囲にある家よりはずっと大きな2階建の家だ。


 家の扉の両側に椅子がありそこには男が2人手持ち無沙汰に座っていたがウィーナを見ると一人の男が立ち上がってドアを開ける。ダンは扉を開けずに座っていた方の男を見てこいつはそこそこできる。冒険者ならランクAクラスだろうと見ていた。そうして入ってきなという言葉に2人が続いて家の中に入ると外観からは想像もつかないほどに手が入れられた屋敷の様になっていた。

 

 廊下を歩いて一番奥の部屋に進む3人。廊下にも男が固まって立っているが誰も3人には声をかけてこない。ダンは立っている男達を見ていたがせいぜいランクBクラスの腕前だ、玄関にいた男程じゃないと。


 廊下の先の部屋の前には男が立っていたがウィーナを見るとどうぞと言いながら扉を開ける。そうして中に入ると立派な部屋で中央に置かれたテーブルの向かいの正面の席に髭を生やした大きな男が座っていた。その男は立ち上がるとウィーナに頭を下げた。


「ご苦労様でした」


「平気さ。それよりこの2人だよ。おそらくレーゲンスどころか大陸でもトップかそれに近い位に桁違いに強い冒険者だよ」


 ウィーナがそう言うと男は2人に顔を向け、


「手間をかけて済まなかった。俺はユーリー、一応スラムの顔役ってことになってる」


「デイブだ。こっちはダン。ヴェルス所属の冒険者だ」


 座ってくれという言葉で4人が着席する。ウィーナはユーリーの隣に座ってその向かいにダンとデイブが座る。


「あんた達のことはこっちにも情報が来ている。ヴェルスからきた2人組、ノワール・ルージュと呼ばれていて2人とも桁違いに強い冒険者だってな」


 そう言うとウィーナが横から


「冒険者の動向についてはスラムもいつもチェックしてるよ。何と言っても戦闘能力が高いからね。そして最近とんでもない2人組が来てるって話も当然ここにも流れてきてる」


 なるほどとデイブが言う。ユーリーが


「ウィーナは鑑定スキルがある。鑑定は物だけじゃなくて人物もできる。そのウィーナがお前さん達をベタ褒めしている。ここまでウィーナが人を褒めるのを俺は初めて見たよ」


「うるさいよ」


 ウィーナそう言うと雰囲気が和らいだ。

 笑ったあとユーリーがまじめな顔になり2人を見た。


「おおよその話はウィーナから聞いているとは思う。ずばりあんた達にはオウルの坑道にいる魔獣退治をお願いしたい。俺が頼んでいるが元はオウルのボスから来た話だ。オウルとはウィンウィンで取引をさせてもらっている。彼らに問題があればその処理にこちらが協力するのは当然だと考えている。その協力の仕方であんた達を巻き込んだ形にはなってしまっているがそれについては報酬という形で応えさせてもらいたい」


 そう言ってからユーリーが成功報酬だがと今回の魔獣討伐の報酬を提示してきた。


「想像以上に多いな」


 報酬額を聞いたデイブが言った。


「それだけ困っている、そしてそれだけ簡単な相手じゃないと思ってくれ」


「分かった。受けよう」


 部屋に入ってからはいつもの様にデイブがやりとりをしてダンは隣で黙って聞いている。受けると聞いてユーリーの表情が緩む。


「急な話だが今夜出てもらいたいがいいかな?」


「構わない。行くのは俺たち2人だけか?」


 デイブが聞くと


「私も行くよ。私がいた方がオウルで色々と便利だからね」


「それとウィーナとは別に2人が同行する。彼らはここで手当をした商品をオウルに持ち込む仕事をしている。だから合計で5人だ」


 ウィーナの言葉に続いてユーリーが言う。ダンもデイブも問題がないので分かったというと


「2時間後に出発する。それまで部屋を用意するからそこで休んでいてくれ」


 2人が立ち上がるとユーリーが握手を求めてきた。


「俺もオウルにいたことがある。あそこは第二の故郷なんだ。よろしく頼む」


「わかった」


 ユーリーが声を出すと扉が開いて男がひとり入ってきたその男についてダンとデイブは部屋を出ていく。部屋に残ったのはユーリーとウィーナ、そしてすぐにドアが開いて別の男が入ってきた。玄関の椅子に座っていた男の一人だ。扉が閉まるとユーリーがその男を見て、


「お前から見てどうだ?」


「噂通り、いや噂以上でしょう。二人とも相当できます。俺でも全く勝てる気はしません」


「スラムで一番のお前がそう言うのか」


 その言葉に頷く男、そうして


「特に黒いローブを着ていた方、奴は半端ないです。こっちが少しでも殺気をだすとその瞬間に逆にやられてしまう。赤い方も半端ないが黒い方は桁違いの強さのオーラが出てます。奴らが家に入って姿が見えなくなると冷や汗がでました。レーゲンスにいてこんな経験は初めてです」


「なるほど。ウィーナの見立て通りだな」


 彼女は頷くと2人を交互に見る。そして言った。


「黒いのはダンという暗黒剣士だ。二人ともだが特にダンとはコトを構えない方がいいね。今でも大陸でもトップクラスの腕前はあるが私が見るにまだ十分に成長の余力を残している。赤い方のデイブもまだ余力はあるがダンの方がずっと余力が大きい。これからまだまだ強くなるよ」


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