第12話 ドナドナ
「いよいよだな……」
イモ兄妹と訓練を始める様になって、もう4年たつ。
彼らは無事レベル30になり、上級職へと覚醒を済ませていた。
お陰で騎士学校への試験は免除されている。
「はい!兄妹で最強の騎士になってきます!」
今日、二人は入学の為生まれ育ったこの村を旅立つ。
その表情は晴れやかだ。
それもその筈。
何故なら、彼らは自分達の夢の一歩を踏み出すのだから。
この4年間、兄妹はソアラの地獄の猛特訓に耐えきって見せた。
そんな二人なら、騎士学校でも余裕でやって行ける事だろう。
――勉強以外は。
「立派な騎士になりたいなら、ちゃんと勉強も頑張れよ」
二人は大馬鹿ではないが、頭がいいかと言えばノーと言える程度のお頭の出来だった。
まあだからこそ、二人は試験をパスする為にレベルを30にまで上げていたのだ。
一般知識の方で足切りされないために。
「う……だ、大丈夫です。根性で何とかしますから」
「安心してください。勉強どうこうでガタガタ言われないぐらいに強くなって見せますよ」
狼狽えるベニイモに対し、タロイモは堂々ととんでもない事を宣言する。
脳筋兄妹ではあるが、脳筋度は兄のタロイモの方が高かった。
「タロイモ。強くなるためにも知識は必要な物だぞ。魔物を倒すのだって、相手の特徴や弱点を知っておいた方が有利になるだろ?それと同じだ。ましてや。騎士になるお前が戦うのは魔物だけとは限らない。弱者を守る剣になるってんなら、強くなるため可能な限りの知識を求めろ」
長々と喋ったが、要約すると内容は――「ちゃんと勉強しろよ」――である。
まあ苦手な事を避け続ける様な奴に、騎士が務まるとは思えないからな。
「……分かりました、勉強も頑張ります」
タロイモが気まずそうに頬をかく。
その姿には不安しかない。
いやホント頑張れよ、お前。
「出発しますよー」
タロイモ達は、騎士学校のある王都まで馬車で移動する予定になっていた。
もう出発なのか、馬車の御者が声をかけて来る。
「ふたりとも!ファイトだよ!」
ソアラが拳に力を込めて、ガッツポーズする。
「「オッス!」」
それに応える様に、イモ兄妹が同じポーズで返した。
ノリは完全に体育会系だ。
俺にはついていけん。
「ソアラ師匠。アドル師匠。俺、二人に弟子入りして本当に良かったと思っています。今までありがとうございました」
「私もです!ありがとうございました!」
兄妹そろって俺達に大きく頭を下げる。
迷惑な押しかけ弟子だったが、何だかんだで長い付き合いだ。
こいつらがいなくなると思うと、少々物寂しく感じてしまう。
「元気でな」
「王都で待っててね!」
ソアラが力いっぱい腕を振る中、二人が乗り込んだ馬車は出発する。
やがてその姿が見えなくなると、ソアラがポツリと呟いた。
「二人になっちゃったね」
「ああ」
何か、子供が巣立った後の熟年夫婦みたいな会話だ。
まあ俺もソアラも10歳で、しかも巣立った側の方が歳が上ではあるが。
「よし!訓練を頑張って、向こうであった時二人をびっくりさせよう!」
ソアラは2年後に専門の教育を受ける為、王都に行く事になっている。
騎士学校は3年制なので、向こうで顔を合わす事も出来るだろう。
「俺は王都にはいかないから、頑張るなら一人でしてくれ」
親父の跡を継いでモーモ農家になる俺に、今以上の力など不要だ。
そもそも、王都にはいかないし。
「駄目だよ!アドルも一緒に頑張るの!」
相変わらずソアラは人の話を聞かない。
俺は首根っこを彼女に捕まれ、そのまま引きずられる。
「さ!今から訓練しよ!」
イモ兄妹を見送るから必然的に休息日だとほくそ笑んでいたのだが、世の中そう甘くなかった様だ。
しかもソアラは普段以上にやる気満々と来ている。
「はぁ……」
俺は大きく溜息を吐いた。
早く2年たたないかな……
心の底からそう願う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます