ブラック企業務だった前世に懲りて転生先で俺はスローライフを望む~でも何故か隣の家で生まれた幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~

まんじ

第1話 赤ん坊

赤ん坊は最高だ。

グースか寝て、たまに起きて泣けば上げ膳据え膳だからな。

自分の意思で制御できないお漏らしは確かに不快だが、それも前世の過酷なブラック労働に比べれば屁みたいなもんである。


俺の名は黒田武くろだたけし

前世ではブラック企業に勤めていた。


今思い返せば、地獄の様な日々だ。


1日18時間。

月の休みは2日取れればいい方。

毎日毎日上司からは怒鳴られ、取引先には頭を下げ、疲労を癒す暇もない過酷な労働環境。


そら過労死するわ。


そんな前世に未練があるとしたら、ムカつく部長のヅラを皆の前で剥いでやれなかった事ぐらいである。

どうせ死ぬんなら、やっとけばよかったと本気で思う。


ま、後の祭りではあるが。


「真面目に頑張れば、絶対に報われる」


それが子供の頃に亡くなった両親の教えだった。

それを馬鹿正直に信じて頑張った先が過労死では、全く笑えない。


だから決めたのだ。

転生先では、頑張らずだらだら生きると。


「アドル。ご飯のお時間でちゅよー」


ゆりかごでうたた寝していると、急に女性に抱き抱え上げられる。

彼女の名はユミル。

優しい瞳をした黒髪のこの女性こそ、転生先での俺の母親だ。


そして今世での俺の名はアドル。

どうだ、カッコいい名前だろう。


因みに苗字はない。

この世界では、平民は名前だけである。

俺がその事を知っているのは、生まれた時から異世界の言葉を理解していたというのもあるが、一番の理由は、転生直前にこの世界の事を神様から教えて貰っていたからだ。


おっと、別に知識チートじゃないぞ。

教えて貰ったのは、本当に極基本的な部分だけだからな。


この世界には魔法があり、魔物がいる。

そして国家形態は中世のヨーロッパに近い王制だそうだ。


但し、完全一致でははない。

あくまでも似てるだけ。

まあ魔法や魔物が居る時点で、当たり前の話ではあるが。


後、魔王なんておっかない存在もいるそだ。


ただ魔族の支配地から出て来る事はないそうなので、スローライフを求める俺には関係ない話ではあるが。

神様はなんか戦って欲しそうな雰囲気を出してはいたが、そこは丁重にお断りさせて貰っている。


魔王退治なんて、絶対ブラックに決まってるからな。

神様には悪いが、転生時に貰ったチートクラスは豪快に腐らさせて貰う。


「あぁ……う……」


抱きかかえられた俺は呻き声を上げ、体をもぞもぞさせて失禁のアピールをする。

言葉は理解できても、残念ながら生後半年の俺はまだ話す事は出来ない。


「あら!シーシーしてたのね。直ぐに取り換えてあげるわ」


母親が優しくおむつを取り替えてくれる。

抱いて直ぐにお漏らしに気付かなかったのは、このおむつが魔法で処理された特別製だったからだ。

吸水性が抜群で、いくら漏らしても外にはたれない仕様になっている。


もっとも、不快感はバリバリあるけどな。

魔法の品だってんなら、出来ればそっちにも気をつかって欲しかった。


基本的に、魔法処理された品物は高額だ。

そんなオムツを使っている事から、我が家が裕福である事は分かって貰えるだろう。

父親のオーガはしがない農民だが、この辺りで栽培されている果物のモーモが人気の高級品であるため、一般市民としてはかなりリッチな方となっている。


「はい、ごはんよ」


オムツ替えが終わり、母ユミルが俺の口に哺乳瓶を突っ込んで来る。

中身はヤギの乳だ。

正直たいして美味い物ではないのだが、前世で取り敢えず食事としてとっていたゼリー状の栄養補給に比べれば遥かにましではある。


「むにゃ……」


「あらあら、お腹いっぱいになったかしら」


腹を満たすと急激に眠気が襲って来る。

まるで食事に睡眠剤でも盛られたかの様な眠気だが、勿論そんな訳はない。

これが赤ん坊の平常運転なのだ。


俺はそのままゆっくりと眠りに落ちていく。

微睡まどろみの中、思う事は只一つ。


――マジ赤ん坊最高。


この時、俺はまだ知らなかった。

この後出会う幼馴染によって、この先に待っているのがスローライフなどとは程遠い地獄の日々になる事を。


異世界でも生活がブラックとか、マジ笑えないんだが?

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