【七輿・2】赤備えってやっぱ危険だよ

 長男は誰のもじりか分かる人はいるかなぁ。三男が気になるがまだ秘密……

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927862297566470


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1559年5月1日巳の刻(午前10時)

 上野国東甘楽七輿山北

 小幡信真(ウォージャンキー!)



 おもしれ~。

 あの大胡の切り込み隊長とかいう奴。

 金綺羅金の甲冑着て地団駄踏んでいやがる。


 そこは田植え直後の水田だ。

 足場が悪いどころじゃない。


 その場で威嚇射撃でもされるかと思ったが、既に敵の先鋒の背後に出ていたから同士討ちの危険がある。

 それはできねえだろう。


 射撃はしてこなかった。

 敵は長柄を持っていない。


 しかも密集体形を取っていないだと? 

 信じられんな。


 先手の右翼後方をかすめるように移動。

 10名以上を仕留めて離脱。


 こっちも足場が悪い所にいては危険だ。

 すぐに西へ逃げねばな。


  昨夜、飯富様から使い番が来た。

 敵の物見を狩り取って夜のうちに鏑川を渡ると。

 俺には大胡の本隊がこちらへ向かった場合は撹乱せよとのこと。


 この働き、俺としては上々の出来だ。


 金綺羅金の後藤の奴が飯富様を見つけたのか慌てて槍で西を指して吼えている。

 それを隣の者が止めているのがわかる。


 痛快だ。


 さて。

 俺の隊はここから七輿山に向かうのは危険になった。

 七輿山から西へ延びる道で伏せようか。


 この黄色い布は効いたな。

 だが今回の背後は緑の森。

 使えまい。


 堂々と「赤備え、ここにあり!」と堂々と立っていようか。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同刻

 後藤第3大隊長

 三浦鉄仁

(鉄壁の三浦です)



 この辺りの麦は良く育っているな。

 既に刈り取りの時期だというのに戦になってすまんな。


 だが、それでも昨日は鏑川南岸では所々刈取って稲架掛はさがけにしてある。


 よくこの戦でそんな余裕、いや勇気があるもんだよな。

 百姓は収穫があって何ぼじゃ。

 刈入れが戦なんじゃろう。


 ヒュンッ!


 おっと遠矢を射掛けられているんだった。

 俺にはこっちの方が大事だ。


 大局はあの青白い末成り参謀が見てくれるだろう。昨夜は熱が出てウンウンうなされていたというが、今日はしっかりしていた。

 頼んだぞ、殿お気に入りの参謀さんよ。


 朝っぱらから遠矢がしばしば射掛けられている。

 丑寅(南西)の方角に布陣する敵本陣からだ。


 たまに応射はするが火薬が勿体ない。

 2町以上離れている。

 無駄だ。


 あれは武田太郎義信。

 そいつに当たればいいがな、もしくは飯富…‥!?


 いつの間にか飯富虎昌の馬印がない!

 何処へ行った?


 谷間を通る南寄りの風。

 焼き畑のにおいがする。

 なぜ稲架掛けして間もない麦藁を焼く!?


 あの向こうか!


 目を凝らしてみる。

 麦を稲架掛けにした南に隠れるようにして「馬の首」が見えている! 

 あそこに隠れていた? 


 やられた。


 あそこには武田の象徴。赤備え500以上がいる。何処へ向かう?


 旅団長の側面を衝くか?

 それとも…‥鏑川を渡り俺たちの後ろへ出る!


 これはやばい。


 3方向を囲まれてあと一方は川だと?

 方陣で凌ぐか? 


 どうせ浅い川だ。

 川を渡って本隊と合流するか。


 しかしそれでは倉賀野までの道が……


 ええい。

 こういうことは参謀が考える事だろうが。


 遠矢が段々近寄って来た。

 本陣が迫って来たのだ。


 そして!?


 南に動き始めただと?

 その向こうに新手が見える。

 続々と。


 3000位はいるのか? 

 合計6500。

 こちらの4倍か。


 ここでの死守は意味があるのか? 

 守りは得意だがあの煙が押し寄せて来る。

 あれに隠れて急に現れる赤い群れに部下たちは耐えられるか?


 どうする!?


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同刻

 その西方2町

 武田太郎義信本陣

 武田太郎義信(22ちゃい。そろそろ一端の武将だよね)



「遅参いたしましたかな。太郎様。合戦には程よい頃合いでしたかな」


 遅参どころではない。

 の頃合いではないか。


「信春殿。助かる。これで敵は策に嵌まった。完全に二分された。その二つの内、あの手ごわい大将を相手にせずともよい」


 虎昌の策、敵方を南へ誘引。

 北に残った敵の備えを囲んで撃破。

 そのまま西へ後退する。


 無理に全滅、潰走させる必要はない。

 大胡に緒戦で勝つことが大事。


 南は開けてある。

 普通なれば川を渡って逃げるであろう、ずぶ濡れになってな。


「流石、次期当主。飯富殿を見事に使われて策を採用なされました。それが大事」


 自分が考える必要はそれ程ない。

 配下に考えさせ、それを採用するのが当主の仕事。

 そう言いたいのであろう。


 親父殿は従来の合議制を一方的な下令伝達に変えようとした。


 それも大事だが適材適所。これを行うのが当主の務めである。それが言いたいのであろう。


 この馬場は頭が切れる。


 多分、夜半の内に軍略を虎昌に授けたか何かしたのであろう。

 それに合わせた進軍からも明らかだ。

 これからの武田になくてはならぬ存在だ。


 問題は「これからの武田」を残す事。

 そのためにできるだけ損害を出さずに勝つことだ。


「(浅利)信種があの台地にいる限り、大胡は東への下手な後退は出来ぬ筈。赤備えの機動力・突破力が偉観なく発揮できる地形。北へ回り込めば側面を衝けましょう。そして後方からは飯富殿の700の赤備えの突撃。

 大胡は西からの本陣と儂の備えから圧迫されて、鉄砲を赤備えに向けることできずに潰走するでしょう」


 包囲殲滅には損害が付きまとう。

 大胡ですら北条氏康の首を取る際に包囲殲滅を選び、多数の死傷者を出した。


 諸刃の剣だ。


 今回はその必要はない。

 敵を潰走させるだけで十分。


 逆に下手に戦闘を長引かせると敵主力が北上してくる。

 小幡が引き寄せてくれればよいが、損な役回りは嫌がる奴と聞く。


 あてにはできぬ。


「(浅利)信種には敵の右翼が引く頃合いを見て、敵側面に出て鉄砲の筒先を北へ向かせましょう。前方敵中軍が退き始めたなれば、それに合わせて前進。

 矢盾を持って1町まで近づき圧迫。

 その間に……」


 俺は信春の後を受けて言葉を発した。


「赤備えが後ろから突破してくる。それを迎え入れて撤収じゃな」


 満足そうな笑顔をこちらへ向ける信春。

 親父殿よりも此奴の方が親父らしくて好感を持てるな。


 そう思いつつ、麦藁の焼ける焦げ臭さが漂う白煙の向こうに、もう一人の親父が突撃してくるのを待っていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日同刻同場所

 馬場信春

(作者のお気に入りですが、なにか?)



 素直で良い武将じゃな。

 暗い所がない。


 御屋形様のような陰湿な所がないのが魅力であろう。あの大胡政賢程ではないであろうが、人を引き付けるであろう。皆が支えればよき当主に成れよう。


 さて。儂の仕事はこの若を皆に認めさせること。

 そして大胡に「負けないこと」。


 勝たずともよい。

 というか「勝てぬ」わい。


 あのように大量の鉄砲を持ち士気旺盛。

 土地のものに慕われ、産業も繁栄。


 外交だけだな、うまく行っておらぬのは。


 遠く離れた織田しか同盟相手はおらん。

 四方敵だらけ。

 更には西国商人も敵に回している。


 ここだけじゃ、弱点は。


 正面からぶつかれば同数では必敗。

 2倍の戦力でぶつかっても危うい。


 だから此度は4倍くらいにはしてみた。

 これで勝てねばもう何をしても無理じゃな。

 潔う軍門に降る方が良い。


 しかしじゃ。


 此度は少々、己の意趣返しも含まれておる。

 儂もまだ若いの。


 あの品川の戦いの折り、多摩川で泳がされた恨みを少しばかり晴らさせていただこうかのう。


 大胡の1000程の中軍。

 南へ追い立てて水浴びをしてもらおうか。


 冬の多摩川は寒かったぞ。

 5月の鏑川では意趣返しには物足りんが、この程度じゃ。

 我らが出来ることは。


 大胡は強いのう。



 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸



 以前、以下のように書きましたが全く実情とは異なることが分かり愕然w 宿老の原昌胤と同一人物であったと勘違いしていました(T_T)



「宿老の意見」


 この辺りはフィクションです。

 この時期はまだ合議制の筈。宿老が否と言えば通った筈。

 て言うか虎昌など主戦派の筆頭でしょう! 

 今回のこの辺りの設定は面白くするために結構キーマンになる虎昌の性格や能力を弄ってあります。

 そうでないと武田が一方的にたたかれて滅亡するという全く面白くないストーリーとなってしまいますのでw


 よってこの部分は削除。

 あまり修正できませんでしたが「勘助と儂のような老練なものの意見も聞かず」との意味合いとしました。



「三浦鉄仁」


 勿論、かの銀〇伝の守備の達人のもじりですw



「麦を稲架掛け」


 今は見られなくなりましたね。

 普通、粉砕して燃やす。

 群馬県ではこの時期白煙が良く上がります。



「木曽馬」


 ちっこいです。

 肩まで120~140cm!

 稲架掛けで十分隠れちゃいます。



「二人の親爺」


 この二人が太郎の双璧です。

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