【太助】槍よりも強いもの

 本当にグダグダいっていないで、戦場へ行ってやめさせろよ

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927861897094627


 今日の作業BGM

「いつも何度でも」



 地図です

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816927861897490564



 取り敢えず、あと2話でエンタメに戻りますので、もうしばらくお付き合いくださいませ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1559年5月上旬

 上野国沼田城三の丸東堡塁北門周辺

 太助

(飛び出しちまったはいいが、武術からっきしな事に今気づいた)



 こええ。

 こええよ。


 なんでこんなとこ来ちまったんだよ。

 避難区画に居れば命は安全だったのによぅ。


 いや。また鮎が酷い目に合うのは見たくねぇ。

 仕事場のみんなもだ。


 だがその仕事場のみんなも、ここに来ちまった。

 皆大胡の鉄砲を持っている。

 来ちまったもんはしかたねえ。


「みんな! 

 かあちゃん、

 むすめっこ、

 がきを守りたい奴はこの城守ろうぜ! 

 あの門が落ちちまうと上杉の軍勢が避難地区まで来ちまう!

 あの腐れ坊主を殺れば上杉の奴らが登ってくるのは防げる!

 その内、矢沢様の応援が来るさ。

 それまで頑張ろうぜ!!」


 応!!


 いい返事だ。

 だがみんな腰が引けているな。


 こええが、これは俺が最初に……


「みんな。いいか。一人一人鉄砲を撃ちながらあいつを囲む。それで一斉に突っ込もうぜ!」


 坊主を囲んで半円になりながら銃を構える。

 立射の態勢くらいしかできねぇ。


「よしっ! 

 俺から撃つ!」


 練炭製造方の主任が声を上げる。


 しかし! 

 その声を聞いたその坊主は俺たちの列の真ん中に突っ込んできた!

 これじゃ味方に当たっちまう!

 もたもたしているうちにその坊主の槍が振り回されて、数人が吹き飛んだ。

 俺もその一人だったが。


「ぎゃぁ!」

「ごふっ」

「か、かあちゃん」

「いてえ、いてえよ」


 見る間に職人仲間と農家の奴ら、馬子や荷運びの連中がやられていく。

 どうやら大柄な奴らが先に狙われているらしい。

 おれは中くらいだ。

 もうその内順番が来るだろう。


 まるで屠殺を待っている家畜のようだ。

 家畜ってやつは、こんな気持ちなんだろうか?


 ◇ ◇ ◇ ◇


 胤栄

(もうお判りでしょうか? 宝蔵院流の開祖です)



 こいつらは一般の庶民?


 満足に鉄砲も撃てぬ。

 腰も据わっておらぬ。

 目の色も戦人のものではない。


 無性に己が情けなくなる。

 何故拙僧はこのような殺戮をしているのだ?


 槍働きだと?

 それに何の意味がある?


 一時はこの槍を極めようと思った。

 今でもそうだ。


 だが時代はそれを許さない。

 どんどん変わっていく。


 戦人同士の戦いから、このような平民を相手にする戦に変わりつつある。

 武器も鉄砲じゃ。


 何人倒したか分からぬが、血留玉(注)も真っ赤に染まって役に立たぬ迄になっている。この場に居る男どもは後備兵という者たちか?

 もしやそれらですらないのではないか?

 

 義勇兵。

 義を感じて戦う者たち。

 その者どもを拙僧は次々に屠っている。


 あと6人。

 これを屠れば10人程は上杉の兵が登ってこよう。


 それで儂の戦はおわりじゃ。

 多分二度と戦場に出ぬだろう。


 今後何をするか。また考えねばならぬ。


 坊主としていられるのか?

 このような無益な殺生をして。


 儂は残り5人を倒すために再び槍をしごいた。

 既に立っている大胡兵は1人のみ。

 まずは此奴からだ。

 そして槍を突こうとした時……


 南の方から石礫が飛んで来た。

 思わず避けたが、次々と飛んできた。

 そして大声が続く。


「あたしの父ちゃんをかえせ!」


「よくもやってくれたね! 私が叩きのめしてやる!」


「あたしらだけじゃなんだぞ! まだまだ1000人はいる! 全部殺してみなよ。 そうすれば気が済むんだろうよ!」


 物干しざおに使っていたような竹を振り回している女子たち。

 竹槍などというものではない。

 まさに「ものほし竿」だ。


 今、正しく先程、決心を付けたのだ。


 準備をしていたわけではない。徹底抗戦する気ではなかったに違いない。

 だが愛する者を守るため。

 手にできる物をもって駆けつけてきた女子たち。


 先程槍先にかけようとしていた男を抱き寄せ、無言でこちらをキッ! と睨みつける女子。


 ああ。

 儂は鬼じゃ。


 鬼畜よりも、地獄の悪鬼にも似た存在。


 ようやく悟った。


 手から槍が落ちた。

 そしてその場に崩れ落ちる。


 南から大胡の正規軍らしき一隊が到着したらしく、一斉射撃により城門を開けようとしていた上杉勢が一掃されていくのを傍目で見つつ大の字に横になった。


 ああ。

 天はこんなにも青い。


 それなのに拙僧はこんなにも赤黒くなっておる。


 仏の道へ帰りたい。

 今からでも遅くはないのだろうか……


 周りを次第に囲んでくる大胡の民衆を視界の端に見たがもう何も考えられなかった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 鮎



 赤黒く染まった悪鬼のような破戒僧が、太助さんを槍で突こうとしている! 必死で太助さんの体を抱きしめ、思いっきりこの僧兵を睨みつけた。


 殺すなら一緒に殺して!


 9年。

 長いような短いような9年。


 一緒に連れ添ってきて子供は授からなかったけれど何十年分もの幸せを頂いた。


 毎日が幸せだった。

 いつ終わってもいいようにと、毎日を大切に大切に過ごしてきた。

 それは助介さんも同じだと言っていた。


 だから今、人生が終わってもいいと思う。

 だけどこのお坊さんにモノを言いたかった。


「貴方はそれでもお坊さんなの? 

 仏様はそれを許しているの? 

 それがあなたの生きる道なの?」

 

 そんな気持ちで睨みつけた。


 すると急に殺気がなくなり、手にした槍を落としてしまい、崩れるように座り込み、更には大の字になり仰向けに寝転んでしまった。


 周りにいたみんなが包丁や鎌を持って近づいていく。

 お坊さんがピクリとも動かないのを見て、一斉にそれらの得物を振り上げた。


「やめて~~~」


 私は声を上げた。


「そのお坊さんはもう戦をする人じゃなくなった見たいです。やめてあげて!」


 だけど、愛する主人や息子をこの場で失った者がこれで収まる筈はない。


「こいつはわたしの半助をぶち殺したんだ! 許せるわけねえ。切り刻んでやる!」


「うちの息子も槍で胸を突かれて死んじまったよ。同じ目にあわさねば気が済まねぇよぉ」


「いくら鮎さんのいう事でもこれは納得いかないよ」


 当たり前のことだ。私も9年前はそうだった。仕返ししてやりたいと。


 でも思ったの。

 自分が幸せになるのが一番の仕返しなんじゃないかって。


 このお坊さんは苦しんでいる。

 たとえ悪鬼として暴れまわっても、どこかで苦しむ気持ちは持っている。

 本物の破戒僧や武将でも、いつかは後悔する日が来る。


 それが先の先でも、その人が死ぬ時でも。

 その時私たちは幸せになろう。

 そしてそれを見せつけてやるんだ。


 どうです?

 あなたの苦しめた人はですよ。

 幾ら苦しめてもまた立ち直ります。

 生きている限り。

 そこに住む人がいる限り。

 必ずやまた復興します。


 それが私たちの戦争です。



 私達大胡の民の戦争はそんな戦争なの。

 そう思いたい。

 これがそのことを最初に感じたときでした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 矢沢綱頼



「三の丸東北門確保完了。東方より800の兵が避難地区、及び二の丸への配備完了! 東西の三の丸にも十分な兵力が配備できました」


 副官が伝令と信号兵からの情報を纏めて報告して来た。


「さて。そろそろよい頃合いじゃ。乾門を突破させよ。未門はどうじゃ」


 手を抜いての攻撃らしい未門。

 既に鉄砲の撃ち掛けも殆どなくなった。


 先手の登坂も捗っておらぬ。

 こちらも仕留めるか。


「西側の鉄砲隊を撤収。殲滅区画へ移動させよ」


 これから那波城の再演か。


 兄者が

「あれは後味が悪い」

 と言っておったが、やらねばこちらがやられる。


 今後の大戦略上、ここで上杉に壊滅的な打撃を与えれば数年は大胡に猶予が出来る。その時間が何よりも大事。


 早く天下一統をせねば多くの民が飢え、戦で傷つき命を落とす。

 産業も金融も発展しない。

 その内海の向こうの国が襲い掛かってくるかもしれぬと殿は言っておられた。


 鬼にならねばならぬ。


 この手を血に染めて平和を勝ち取る。

 その復讐を一手に引き受けようぞ。

 そのような者がおらねば平和は手にできぬ。


「先手の大将、柿崎だけは何としても仕留めよ。狙撃兵は何人集めた?」


「はっ。鉄砲使い2名。弓兵2名です」


 たった4名。と思ったが彼奴らか?

 なれば問題は無かろう。


 儂は地獄への門を開く指令を出した。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸



 注:血留玉


 現存するものはない。

 使い捨てのものらしい。

 槍の穂先より手元に近い所に巻き付けた、返り血が流れて来て手が滑るのを防ぐための紐。





 やっと鮎と胤栄のシーンが書けました。


 こんな甘い戦場では無いと思います。

 復讐が復讐を呼ぶ。

 ついでに中共がロシアに武器輸出開始とか……


 もう二国間だけではなくなってきた。

 そんな戦場を書くことは私には無理。

 この程度で勘弁してください。





「胤栄」


 事前の計画ではどこかの槍名人を出すつもりでした。

 でも、こっちの方が平和の方向へ導けるのかな、と。


 勿論無理はあります。

 元々、上泉伊勢守が来なければ槍の伝授なんかし始めなかっただろうし。

 単なるお坊さんだったはず。

 それを大胡の経済戦争の巻き添えで放逐されたことにしました。


 この人出すことが出来なければ、ここでこの作品終わっていたかもしれません。




「一番の復讐?」


 鮎さんの一番の復讐は

「自分たちが幸せになった所を鬼になった人々に見せる事」

 です。


 何度でも立ち上がる。

 この強さを大胡のものは身につけてほしい。


 けれどあまり大胡を大敗させると物語的に面白くないので、この程度でご勘弁を。



「柿崎景家」


 こいつがいるのといないのとでは、越後勢の強さが全く違うかと。

 まるで赤備えがいない武田みたい?




「矢沢さんも鬼」


 このあと、殲滅戦が行われるわけですが、やはり大胡も鬼です。

 いい悪いは関係ない。

 戦争とうは善と善の戦いだと思う。


 自己で思う善、他人の善とがぶつかり合う。

 それの繰り返しで歴史が繰り返す。




 どのように「楽しいエンタメ」にしていくかは難しい所。

 主人公に頼るしかないか~


「みんなで高崎観音様の前で大夜泣き蕎麦」とかw


(本当にやりそう……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る