【沼田・3】もう山師は飽きた~

 胡散臭いものはどんどん取り入れましょう!

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927861717727051


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1559年5月上旬

 上野国沼田城東方1里

 大蔵信安

(有名なあの金山奉行のおとーちゃん)



「この辺りでございましょう」


 儂は地脈の流れを読んだ。

 水脈もこれでわかる。数年前まではこうしてたまに水脈や鉱脈を探し当てる仕事が舞い込み、忙しく旅をしたものだ。


 これは爺様の時代からそうだ。あの生野や黒川の金銀の鉱山もうちの家系の者が見つけた。最近では伊豆の土肥金山、足尾の銅、佐渡にも金脈を見つけた。


 このように数多く見つけられる才は血脈もあろう。

 じゃが儂の代になり急速にその力が衰えた。

 代わりに「大胡の殿様」から贈り物を頂いた。


 なんでも「だうじんぐろっど」というらしい。

 2本の直角に曲がっている棒じゃ。

 たねも仕掛けもない。只の棒。


 だがこれが使える。

 此度も水脈探しにそこかしこを歩き回っていると、ある一点でその棒が開いたり閉じたりする。気のせいかと思うときもあるが、儂の経験ではほぼ確実にその下に何かがある。

 これで多くの鉱脈を発見して来た。


 もう10年以上前になろうか。

 大胡という誰も知らぬ小さな国衆からの贈り物が届いたのは。 その当時はまだ奈良にて猿楽の一座にいた。そろそろ独立して座を設けようと計画して居ったときじゃった故、銭が欲しかった。


 親父様の山師振りはよう見ておったが、やり方はとんと見当が付かなんだ。

 教える気もないという。


「お前は、堅気に猿楽など習って皆を幸せにせよ」


 と言われていた。


 儂にはそんな技は身についていなかった。しかし、物は試しとその大胡殿の贈り物を使ってみた。ご丁寧にも使い方まで書いてあった。


 それが最初じゃった。


 山を歩くと何かしら反応がある。その下に何かがある。それを近在の領主に知らせると褒美を貰えた。


 これは良い稼ぎじゃ。そう思い何度も稼いだ。そこへ鉱山開発で名の知れた甲斐武田から仕官の誘いが来た。


 迷ったのう。


 ようやっと猿楽が面白うなって、一座を率いて天下を廻ってみたいと思っていた。猿楽をもっともっと広めたいと。


 じゃがそのためには銭がいる。

 仕官をした。


 5年の契約でな。

 だが武田は味を占めたのかあと5年居ろと言ってきた。


 中には

「このようなご恩を受けておきながら!」

 とかいうふざけた奴もいた。


 恩など受けていない。

 ただ仕事に見合う銭を貰っただけじゃ。


 そこへ今回の沼田城攻略への合力。

 「嫌だ」とは言えぬところまで来てしまった。


 大恩があるのは大胡様に対してじゃ。

 その大胡の守る城を攻略する手助けをせよと?


 その儂の気持ちを見透かしたように信玄坊主め。


 儂の跡取り息子を篭絡し家臣として採りたておって。

 目付としてついてこさせた。


 まさか自分の息子に監視されようとは思わなんだ。


「やはりここじゃな。ここに水路が掘られている」

 

 何度も歩き、その場所でだけ反応がある。それも水路状に東西に走っている場所。


「そうか、ご苦労じゃった」


 それだけか?

 儂らは使い捨てじゃな。


 元々猿楽師は河原者。

 下賤の者。


 必要な時だけ人間扱いされる。

 それ以外は人以下の扱いじゃ。


 ……大胡に行きたいのう。

 京の公界市には何度か行った。

 あそこは極楽じゃった。

 様々な芸事を商う河原者が生き生きと人生を謳歌していた。


 大胡様はあの世界をこの日ノ本中へ広げるのが望みだとか。

 それは皆が嫌う筈じゃ。既成権力者がな。

 武田上杉、特に武田は新羅三郎義光からの家柄と言って威張っておる。

 大胡を目の敵にするのは当然の成り行き。


 世は変わりつつある。

 河原者にも良き風が吹きつつあるのを感じている。

 その流れに乗りたいのう。

 もう山師のような当たりはずれの大きな仕事は沢山じゃ。


 もっと人を幸せにできる仕事がいい。


 金は人を狂わせる。

 戦も呼ぶ。

 かかわりたくない。


 なんとか我が子も説得できぬものか。


 そう思いつつ、儂の仕事が終わりを告げた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1559年5月上旬

 大蔵信安


 掘削が始まった。

 この作業は儂以外の棟梁が受け持つ。


 専門性を高めるべきか、汎用性を高めるべきか、などという禅問答のようなことも書いて寄こされる大胡左中弁様。


 このような山師擬きの猿楽師に、なぜそのような文を送るのか分からぬが、多分儂のこの山師の腕を買いたいのであろう。


 飼うの間違いか?


「出申した。これは深い。深さ2間近くありました」


 まさか水路一つに2間もの深さを延々1里以上掘ったのか? どれだけの工期・人足が掛かったのだ? だがそれも探られて水を断たれれば、城は落ちたも同然。

 大胡様には悪いがこうでもせねば儂の身の上が危ない。


 わざと

「見つかりませんでした」

 で済めばよいが、それでは放逐だけで済めばよい方。


 此度は武田の生死を掛けた戦という。

 長子である長安(注)が付いてきておる故、手抜きは出来ぬ。

 迷いに迷った末、本気で探すことになった。


 勘弁じゃ、大胡と沼田の衆。


 そして見つかった水路は見る見るうちに土砂で埋め戻された。もう沼田の街へは水は引けまい。


 しかし……

 それにしては少し水量が少なかった気もするが、それ以外にも深井戸があるのであろう。


「ご苦労であった。これは駄賃じゃ」


 一応軽格ではあるが武田の配下である儂と長安に、上杉の家臣から小粒金を1つ放り投げるように手渡された。


 これでは上杉に行きとうはないな。犬扱いされるのは眼に見えている。

 金を掘る技術を持つものになんという仕打ち。


 阿呆か。

 まだ武田の方がましじゃ。


 上杉も長くないか。

 佐渡の金山は当分掘れないであろう。


 人が集まらん。



「父上。私にもその技、伝授願えますか?」


 長安が言うてきた。

 敏い奴じゃ。

 これが出世に使えると思ったのじゃろう。


 猿楽の方が遥かに人のためになろうものを。

 少々財宝に眼が眩んでいるのか?


 一子相伝というわけでもないが、儂らの血脈にはこの力が色濃いものが多い。


 教えてやらない理由もない。

 そこで名胡桃に帰るまでの道すがら色々と探ってみた。

 

 すると水脈らしきものが無数に反応した。

 もしや! あの水路は囮?


 いや、そうではなかろう。

 この無数の水路。

 そこかしこから取水し迷路のように入り組んだ仕組みになっている反応があった。


 これは切れぬ。

 いったいどこを切ればよいのか見当もつかぬ。


 これをどう報告すればよいか、頭をひねりながらの帰り道、河岸にできた段差で何度も転びそうになり、その度に大胡様と武田上杉との差を思い知らされた。




 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 注)

 大久保長安ですが、元々は猿楽師として武田家に召し抱えられました。

 ですが武将・土屋長安として登用され武田滅亡後徳川に仕官、金山奉行となりました。


 勿論、ダウジングロッドはチートです!





 「ダウジングロッド」

 直角に曲がった棒の短い方を手で持ち、左右の長い方の棒を平行に持つ。


 そうして歩いていると、あ~ら不思議。その並行であった二本の棒が開くではないか!


 ということで金脈などを掘り当てた山師がいるという事です、

 はい。




「1559年現在の大胡が所有する貴金属鉱山」


 金山は、湯ヶ島と土肥。

 銀山は無し。

 銅山は足尾。

 こんな感じです。


 他に何かチートで見つけられそうなとこあります?

 灰吹法は使うけど水銀が入手困難かも。





「上水道」


 これは結構簡単なようですね。

 玉川上水などは数十kmあるけど工期2年以内だそうで。

 技術力とお金があれば結構簡単。




「大久保長安」


 正史では嵌められた感のある最後でしたが、別に金に執着していた印象はありません。

 ですがこの作品では、少し悪者になってもらおうかな。

 小物ですがw




「公界市」


 ここまでくると作者の意図がわかってくるかと。

 あの特別区は思想的な侵略基地だったのです。

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