【忍城・6】狐を罠にかけよ!
1559年4月下旬
武蔵国忍城北半里(2km)
第2大隊長新田義国
俺の先祖は新田義貞公だと親父が「言っていた」。
そんなのあてにできるかい。どうせ家系図弄ったんだろうよ。取り敢えず、つい10年前は国衆だった。
しかしそれも大胡に吸収された。
それより以前から俺は大胡の竜騎兵に参陣する格好で、赤石砦の戦いに参加した。
面白かった。
戦とはこんなに面白いものか?
そう思った。
爽快じゃねえか。敵の裏をかいて敵の弱点を急襲する。
それが竜騎兵だ。
あの地黄八幡の尻を思いっきり蹴飛ばしてやったのも爽快だった。
だが品川では多くの部下・同僚を失った。
ま、世の常だ。
戦で死者が出ぬ方がおかしい。
竜騎兵といえども逃げられなければ大損害を被る。
これは何度も確認したことだ。
そして。
今、このそこかしこに雨が降れば沼地に変わる泥濘の上で戦うこととなる。
さっきは旅団長の元、忍城南方半里まで強行偵察を行った。
冷や冷やもんだったが、いくつものしっかりとした道を確保しての進軍だったから包囲されずに済んだ。
流石は旅団長だよ。
俺の第2大隊の後ろを見ると旅団長が馬上で酒をちびりちびりやっている。あれはどうやら戦の時だけらしい。家ではあまり飲まないという。
戦で失った部下の事でも思っているのだろうか。
ああ。酒瓶をしまったな。
水を浴びている。
そろそろだ。
「状況開始! お楽しみはこれからだ!」
号令一下、後ろの第3大隊も指令が飛ぶ。
うちもやってやるか。
「第2大隊! 傾注!
打ち合わせ通り、第2中隊が小隊銃列騎射4連の後、左右に反転。
その後ろに続く第1中隊第3中隊が騎馬突撃。
第3中隊は拳銃にて長柄を撃破。
第1中隊は敵後方まで突入後散開。
敵方大将の首を狙え。
首を狩ったら赤煙弾を発射する。逃げられたら黒煙弾だ。
逃げる機を間違えるな。
敵隊列の穴は第4中隊で保持。退路を絶対に死守せよ!」
皆が頷きハンドサインで「承知」と反応する。
鐙は既に襲撃用の高さに調節した。
足が長くない者でも馬の脇腹を支えることが出来る。
これで両手を使い戦える。
槍をぶん回すまではいかないが。長巻(注1)で徒の者を切り捨てるのは楽になった。これで騎馬突撃の衝撃力が倍増しとなっただろう。
地図です
https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816927860912910524
第2中隊が突撃を開始する。
この中隊だけ馬の前面に簡易な矢を防げる鎧状の物を付けている。隊員も小さな盾で飛んでくる矢から身を防いでいる。
そして10間(20m)まで近づき徐に盾を鞍に懸けてから騎兵銃を射撃。各銃30個以上の小粒な鉛玉が敵兵を襲う。
それが4射。
勿論桶側胴は貫通できない。
だがその多数の弾丸は半間(1m)程度の円に拡散する。
それは言うまでもなく甲冑で覆われていない部分にいくつかは着弾するのだ。
これで立って引き続き戦える足軽がいるであろうか?
俺なら無理だな。
戦の中、頭に血が上っていれば(注2)別であろうが、このように始まって間もない時にこれを喰らっては、痛みで転げまわっているであろう。
そんな敵兵を大量生産した第2中隊が左右に散開して追ってくる矢を交わしながら戻ってくる。左右に散るのも蛇行するのも飽きる程訓練している。
さあ次は第3中隊での拳銃突撃だ。
初めての火打石銃実戦投入。
無理はするなよ。不発だったら捨ててもよい。
命を捨てるんじゃねえぞ。
🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸
注1)長巻
薙刀と似た形状の物。
槍の補助兵器であるが、主に「斬る」ための武器であるそうな。
この場合は敵の徒兵をその重量を生かし上から斬りつけるために使用されています。
太刀だと届かないw
注2)血が上る状態
早い話がアドレナリンが放出されていると痛みもあまり感じないのです。
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