【勧誘】上洛最大の目的

 1555年11月上旬

 左京南禅寺

 智円(お堅い大胡の外交僧。最近、占いに凝っているらしい)



 流石にこのご時世、他宗派の寺では落ち着かぬ。それでも他の者に気取られること、絶対にさせぬが。


「殿。御山ひえいざんへの根回しは首尾良う終わり申した。関白殿下に置かれましては何と?」


 先ほど近衛邸から帰ってきた殿は、政影殿に肩を揉ませながら首を回している。余程気を使われたのであろう。

 (作者注:ただ単にごろごろ転がりすぎて首をやっちまったらしい)


「一応、市の立地はうまくいきそう。あとは三好の支援を受けられるかと、将軍家からの呼び出しにどう答えるかだなぁ。何かいい方法ない? だが断る、じゃあダメ?」


 この京に市を立てることは南禅寺への支援と同時並行で行われる。近くにある浄土宗総本山知恩院のすぐ北であり、出来得ればその2宗派を同時に掌中に入れる狙いもある。


 立地は東海道が京に入る場所にあり、本来ならば市が立ってもおかしくない場所であるが、御山てんだいしゅうと琵琶湖の水運の要衝である堅田を抑える御坊ほんがんじの勢力が交わる場所であるため、諍いが絶えない。


 そこに三好の支援を受けて市を立てようとしているのだ。


 相当な嫌がらせがあろう。拙僧が御山には「手出しご無用」とのこちらの言に「是」との言質を取ったが、何時まで持つやら。


 また鼻薬を要求してくるであろうな。


「本願寺は今、平和を求めているから手は出さないと思うよ……多分。この前の三好との死闘が堪えているみたい。今は三好の勢力が強くなりすぎちゃったから。あとは法華宗だね。角倉すみのくら屋さんはどうだった?」


 殿は下座に控えていた磐梯屋に問いかけた。


「やはり東国への酒流通の繋がりをもっと強くしたいとの事。金属を豊富に使った焼酎の効率的な製造装置も取引材料になり申した。品川の鈴木屋を通して武装集団を手配できると。しかし、京には本当に入れるのか疑問視しておりましたが……」


 10年前の法華一揆で大火を出した責任を取る様に、京での寺の建立を禁止された。これを市の護衛集団とする案が立てられているが、うまくいくとは思えない。


 うまくいかずとも試行錯誤するしかないと円卓会議では一致を見た。


「ね~ね~。それよりさ~。人材登用はうまくいった? そっちの方が楽しいよ~。外交陰謀は嫌い、戦も嫌いだけど」


 この京でも坂東太郎での大殺戮を京雀が毎日姦しく囁き、鬼か神の化身かと恐れられ『首取り大胡』と言われている大名が、「この気の抜ける声色で戦は嫌い~♪」といっても誰も信じないであろう。


 当人である殿がその噂を極度に嫌がっている。最もその噂を強かに使っての今回の市設置なのだが。


「仰られていた狩野派の絵師は加納元信殿にお会いして、次男の秀頼殿が東国へ行きたい旨を確認、許可を得ました。

 秀頼殿の友が越後長尾家へ召し抱えられ、頻りに自分の描きたい絵を描かせていただき有難いと便りを送ってくるとかで。殿が描かれた磁器の絵にとても興味を持たれ、ぜひ師事したいとのこと」


「師事って、そんなことできるわけないじゃん。

 天下の狩野派だよ。あんな絵、どうして興味を持ったのやら。奇特な人だねぇ。まあ、絵の才能がある人にあれ描いてもらおうと思っていたけど、まさか狩野派の跡継ぎが来たいというとは思っていなかった、ははは」


 拙僧にはとんとその良さがわからなんだが、色事の絵とは少々違うのでほっとしていたものの、あれも少しいただけない気がした。


 机に立てて飾るという人形ひとがたの制作も仏師の半端者の中から見つけ出し、連れていくこととなった。


「あとは西陣の職人さんと……。臨済宗の東班衆とうばんしゅうって残っていた? あと穴太あのう衆」


 西陣の職人は元々、仕事が京では安心して出来ず、西国へ流れていった者が多く出て、以前のような栄華はない。


 上野国にも桐生に多くの職人が住み着いている。殿はさらに多くの職人を欲しがっている。


「東班衆は残念ながらほとんど残っておりませんでした。ですが、僅かながら計算のできる者が居り、安定した禄につられて大胡へ来ると申しております。華蔵寺で行われている微分計算の書を見せたら目の色を変えておりましたな」


 華蔵寺ではここ13年で、高度な計算が発展してきている。殿が測量に使える計算を開発してくれと要望したためである。殊に図形による計算が多く、三角関数や積分というものが研究されてきた。


 そのほかにも微分という概念が発見されたため、多くのことに応用できないか、今試行錯誤をしている。


 その研究のできる人材を探しに来たが、数十年前まで年貢の計算を頻りに行っていた東班衆という荘園代官役の者たちを狙っていたのだが、既に廃れていた。

 数人の間で戯れとして計算を行っていたため、これを誘うこととなった。


 あまり役には立たないようであるが……

 何かの役に立つだろう。


「穴太衆は残念ながら誘いには乗りませんでした。その代わり弟子は取るとの事。如何いたしまするか」


「じゃ、公園の子で建築に興味のある子がいたよね。その子……岡本ちゃんだっけ? 希望を聞いて入門してもらおうね。これで石垣の城作れるかな?

 石炭もっとあればこんくり作れるんだけどね。将軍家については明日にしよっか」


 そう仰られると欠伸が出て、眼がトロンとしてきたようで、政影殿に担がれるように寝所へ向かって行かれた。


 最近はよくお眠りなさる。小さき頃、あまり眠らぬ御子であったという。今になってその分眠られているのか?


 問題がなければよいのだが。


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 フラグいっぱい

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860663182478

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