【決戦・再】やっと冒頭に戻ってきた
1553年11月下旬午の刻(午前11時)
那波城東馬出し
真田幸綱
(那波城守備隊隊長。自分が作った城の威力にびっくりしている)
先ほどまで儂に付いて征きたいとせがんでいた息子の政綱を説き伏せ、ここから送り出す。
500の兵を預けた。
政綱にも馬は降りて行けと命じ、無理をせず「残敵掃討」をするように改めて指示した。
「よいな。くれぐれも最優先は民の保護じゃ。無理に敵を倒さずともよい。いずれ逃げ場は無くなる。そこを武者だけ狩れ。それだけじゃ。あとは在地の自警団に任せよ。敗残の足軽雑兵に水と飯を配るはずじゃ。これが一番大事じゃと殿も仰せじゃったろう」
まだ政綱は不満な顔をしているが、此度の任務をこなせばよい経験となろう。
兵500を指揮する大変さ。儂もほとんど経験がないが、此度は分散しての行動。それをいかにまとめるか。それが此度の初陣の目的ぞ。
東雲殿や秀胤殿が書物から例を出して教えていた。それを聞いていれば大丈夫じゃ。
……憶えておらずとも、側近に優秀な者を付けていただいた。
問題はない。
500が東へ向かい行軍していった。
城の周囲に転がっている赤黒いモノ。
これを自分たちが作り出したことを思い出し、改めて口を押さえ吐き気を催している者も多い。
時代が変わったのじゃ。
戦の様相が変化しつつある。
殿の手によって。
さあ、儂も出陣じゃ。
城には500の後備兵を残し、1500の常備兵を率い、北へ駆け足で進軍し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
華蔵寺物資集積所
冬
(公園育ちの元孤児。補給周旋の才あり。結構おしとやか)
轟音が南から聞こえた。
どうやら那波のお城に配備されている大筒の一斉射撃のよう。1里離れているのにこれだけ大きな音とは。
「冬殿。手はず通りじゃ。那波は大丈夫そうじゃから殿の元へ大至急次の補給を」
そう。
手はずでは南から大筒の音が聞こえたらもう南は安全となるので、殿の本軍へ援軍と物資を送り出すことになっている。
私は焦らず、しかし急いで皆さんに指示を飛ばす。これが遅くなれば、多くのお味方が亡くなるかもしれない。
政賢様の事だから、遅れても何とかしてくれそうだけど、少しでもお役に立とう。
だからこの目の前に並べられている【大筒】を大至急、桃ノ木川に届けるよう指示を下した。
大筒が載せられた大胡車48両を、それぞれ10人もの屈強な男の人たちが綱を引きながら勢いよく駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
桃ノ木川の渡し場大胡陣地
上泉秀胤
(政賢の影響を良い方に?受けている純粋な奴)
南で砲声の音が聞こえた。
上手く引き付けて砲撃を出来たらしい。腕木式信号機が、今度は支障なくその知らせを送ってきた。
「黙祷。僕は大殺戮者だね。1人殺すと殺人者、1000人殺すと英雄! こんな考えはしちゃあいけないよ、秀胤くん。地獄へ落ちるからね」
いつになく殿が暗い顔をする。声も抑揚がなく少し震えている。那波城の周りは今頃人の山が出来ているだろう。もう動かない肉塊だが。
初めての試射の際見たその威力、並べられた甲冑が10近く一瞬で吹き飛ばされた。それが今、那波では現実のものとなっていよう。
必要な事とは言え、その惨劇を起こすように指示したのは紛れもなく殿と某だ。
「これが戦だ」と言われればそうなのかもしれぬが、今までの戦とは全く違う世界だ。殿の手により、どんどんとこの世が変わっていく気がする。
「あまり考えても仕方ない。今は時代を前に進ませるだけ。国民国家を作るために避けては通れない道だ」
一人沈思黙考をしていると、後藤殿の隊を迎え入れた後、殿と話をしていた政影殿が北条の陣形が変わったことを伝えた。
後備えが上泉城へ向かっている。
「やっぱそう来るよね~普通は。さて僕はどう受けるかな?」
決戦を前にして、いつも通りの殿か。
いや、少しだけ緊張しているか?
指が震えている。
それを見越したかのような、政影殿の「ツッコミ」が入る。
この前、
「やっとツッコミをできるようになった」
と嬉しがっていた政影殿。
まだまだ時々なのだがと言われていたが、どんどん皆も変わっていく。
某も変わらねば。
「フラグは折ればいいっ!
秀胤!
皆に演説する!
準備を」
殿の言葉で、すかさず先に用意していた巨大な拡声喇叭で「総員傾注」の号令を発し、そのまま伝声管をお渡しした。
さあこれから北条氏康の首を獲る。そのための今までの12年間だった。
きっと成功する!
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やっと2話目に戻って来た世界線 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860661592710
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