【飛砲】右斜め上行っちゃったよ

 1554年11月下旬

 上野国厩橋城

 長野政影

(政賢君の物見櫓)



 竹束を担いだ兵を鉄砲にて撃退している様子を見て、殿はいつもの様に余裕な様子。道安様はその様子を見ても浮かれずに北条方を見つめている。


「政賢殿。次の竹束が来ますぞ」


 いつの間にか、次の列が西側本流を渡ってきた。


 これも先の竹束の二の舞であろう。しかし……この列は縦隊から横隊に変化して、横一線にその竹束を積み上げ始めた!


 次々とその列が竹束の壁を作り上げていく。その隙間を縫うように矢盾が前進してきた。これは支流に架かる橋のたもとまで進み、そこで横に並べられている。


 その間にも断続的に大胡の銃撃は続くが、竹束の数に圧倒され始めた。矢盾は鉄で覆われているらしい。貫通できないでいる。


 そこまでの距離、大胡の銃隊が並ぶ自然に盛り上がった堤防まで20間! やはり橋は落としておくべきであったのか?


 殿と某は竹束と矢盾の進撃に目を奪われていた。

 その時、道安様が鋭い声で警戒を呼び掛けた。


「何かが来る! あれはなんじゃ!?」


 中州をちょうど渡り切ったあたりに目を移すと、何か巨大なものがだんだんと近づいてくる。


 それも5つ。


 下には修羅そりをつけ、上には大きな杓子しゃくしがついている。その物は殆どが竹で出来ているらしい。


 素早く殿を天車かたぐるまして川を見通せるようにした。

 それを見た殿が叫んだ。


「ああああ。こうきたかぁああ! 城攻めじゃないのにぃいい!! よく動かせるなぁ」


 よく見るとそれほど大きくないのかもしれぬ。しかし50名ほどで引いているのだから、その巨大さは目を疑う。


 前方に突き出ている重りらしき石は、相当な重さであろう。それを幾本かの竹筒にて支えながら徐々に東岸に近づいていく。


「おじじ様。直ぐに鉄砲で横撃して! 当たらなくてもいいから行動を阻害しないと。たねちゃんに信号機で一時後退の指示を! 2町は引かないと危険だぁ」


 直ぐに信号係に指示を出そうとしたが、その兵はまごついている。

 そして悲鳴に似た返事が聞こえてきた。


「殿! 信号機、故障してございまする!!」


「ひゃああああ~。声で届くか??」


 いや、もう北風が強くなってきた。

 銃撃音も大きい。

 いくら殿の大声でも聞こえないであろう。


 少しでも早く、本陣へと戻らねばならぬ。

 某は殿を背負子に乗せ、本陣へと急いだ。



 地図ペタリ


 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816700428957537280


 ◇ ◇ ◇ ◇


 北条本陣

 北条氏康

(歴史を勉強していて助かった相模の獅子)



 上手く行ったわ。

 からの史記の書に出ていた飛砲(投石機)。応仁の乱でも使われたという。


 本来は城攻めに使うものであるが、その大きさを少し小さめにして修羅で引くことにより、移動がしやすくなった。


 このごろた石、野戦で防盾を潰す弾にも使える。移動にも都合が良かった。滑りを良くするために油も使うたが、意外とすんなりと動いた。


 飛ばせる物と飛距離が満足できるものではないが、あの銃列に突進するよりは遥かにましじゃ。


 まずは列を崩す。

 そのためには、大胡勢が纏まって布陣している場所でなければいかぬ。渡河とはちょうどよい場面があったわい。こちらが大利根を渡るときは、この狭い一帯に大胡は布陣するしかない。そこまでこの投石機を運べば、無事に渡河できる公算は高くなる。


 敵は逃げねば一方的に叩かれるだけ。

 投石機は石の代わりに、油壷と(高価な)火薬の入った焙烙。

 これらを3町(300m)くらいは遠くまで投げることができる。


 あの自然にできた堤防の上に敵がいなくなれば、安全に渡河できよう。


 厩橋城から銃撃が始まった。そこからでは狙い撃つこと能わぬわ。側撃でも矢盾がある程度防いでくれる。


 そろそろ準備ができたようじゃ。

 綱成を始めとした諸将の恨みを込めた火薬、受けて見よ!!


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 ランペルール補足記事

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860660400864

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