【夜戦】河越夜戦だよ

 1546年4月21日寅の刻(午前4時)

 武蔵国河越城北方10町扇ケ谷上杉家本陣

 風魔小太郎

(ガタイが良く戦働きが得意な風魔の棟梁)



 ようここまで潜入できたものよ。皆の者、張り切っておる。


 此度は斥候をほとんど置かず、最大の手勢をここに集結している。氏康様のなんと大胆な事よ。長綱様・大道寺様・綱成様が城より討って出た頃合いで、敵本陣を強襲する。


 痴れ者の憲政ならば今頃酒を喰らい寝ているやもしれぬが、果して朝定はどうであろうか。まあ周りの警護を強襲で仕留めればそれで決着がつく。


 本陣は完全に手の者で囲っている。

 そろそろ氏康様の本陣が夜討ちを開始するはず。それを合図に開門、城の手勢が打って出る。混乱に乗じて、我らが朝定を打ち取り中軍を崩壊させ、一気に敗走させる。


 氏康様の作戦通りに運べばよいが。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同刻

 入間川西方渡河地点

 東雲尚政

(自分の目標を見出した天才)



 全く、殿には驚いた。

 これが元服前の者の初陣か? 

 俺なんぞ、16の時の初陣では槍を持って小便ちびっていたわ。


 戦の策だけでない。

 どうしてあれだけ肝が据わっているのか。策だけなら俺でも練れる。

 (それでも今日のような策を咄嗟に考えられはしないが)


 その策をギリギリの状況で冷静に判断して、号令をかける時を見切り決断する。


 これは戦場での呼吸・勢いを感じとり、逃さずに判断できるようにならねばならぬ。これができるのは百戦錬磨の将であろう。


 なぜこれができるのか、どうせはぐらかされるのは覚悟して、軽い調子でなぜできるか殿に聞いてみた。


「う~ん。死ぬ気、いや死んでいる気になっているからかなぁ。生き物でない感じ。絡繰りだね。あとはえすえるじい」


 よくわからぬが、捨て身で戦に臨んでいるのだろう。


 勝てぬな。


 しかしいつか追いついて見せる。

 同じ土俵に上がれるかどうかわからぬが、限りなく近づいて同じ視線で戦場を、世の中を見て見たい。


 そのような思いを胸に殿が言う「夜討ちの可能性」に備えて、明け方の暗い夜のとばりに目を凝らす。


 地図ペタリ


 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816700428500130389


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同刻

 河越城北門

 北条綱成

(最精鋭地黄八幡を率いる北条一の猛将)



 本隊の方角から火の手が上がった。

 焼き討ちが始まったのだ。


 昼間には敵方で小規模な焼き討ちの煙が見えたが、早速氏康様はそれを取り入れたらしい。敵方はさらに混乱するに違いない。


 ここの所の長対陣で敵方の士気は弛緩しきっている。昼間の戦勝を良いことに、ぐっすりと眠っている兵がほとんどだろう。酒を喰ろうている可能性すらある。


 北方のこれから突入する扇ケ谷上杉家本陣はどうであろう?

 とにかく中央に布陣し地場を領地にもつ朝定の首を取れば、お味方勝利間違いなし。大道寺殿と2手に分かれ、突入する。


 こちらは3000。

 敵陣は山内上杉勢に加勢した兵が帰ってきていなければ、3000に満たないであろう。

 十分に勝機がある。

 いや、負ける気がせぬ。


「綱成どの。では敵本陣で会おうぞ」


 大道寺殿が気合を込めた声をかけてくる。


「応!」


 さあ、開門だ。一気に10町を突っ切るぞ!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同刻

 扇ケ谷上杉家本陣前難波田憲重陣

 難波田憲重

(太田資正と双璧だったと思うのに……)



 やはり来たか。

 松風丸の言うたことが真になった。篝火の向こうに、続々と北条勢が押してきた。

 左右に分かれているのか? 

 これは回り込まれるのう。


「右翼の敵には弓隊で牽制。左翼に長柄隊を集中させよ!」


 この夜間では、長柄は上策ではないが、敵方への牽制となる。

 敵の足を止めて、後方のお味方の態勢を整えるまでの時間を稼ぐ。


 我が隊は1000。

 城から討って出たとすると敵は精々3000。

 時間稼ぎはできよう。


「右の敵。北条綱成が手勢。1000以上!」


 地黄じき八幡か。

 厄介な。

 弓だけではいかぬか。


 しかし、ここで方向転換はまずい。


「一の陣。殿しんがりせよ! 後方、2町まで退く!!」


「殿! 右手の敵、方向を変えて横槍!!」


 くっ、逃がしてはくれんか。ここで時間を稼ぎ、敵中突破、殿をお守りするしか……


 ……すっと、目が見えなくなる。


「殿~~!!」



 難波田憲重、矢に眉間を射貫かれ戦死、

 享年50


 ◇ ◇ ◇ ◇


 卯の刻

 松山城方面への入間川渡し場

 上杉朝定

(上杉家の凋落を止められなかった人)



 一瞬の出来事であった。

 難波田討ち死にの報とともに、風魔が襲ってきた。旗本が動揺した所に戦働きの得意な風魔の強襲。


 逃げられたのは奇跡に近い。用心深く愛馬を陣幕の内につないでおいたのが功を奏した。


 しかし、ついてこれた馬廻りはわずか3名。


 風魔は既にこちらの居場所を突き止め急速に追ってくる。まさか、逆襲をされるとは思っていなかった味方は、奇しくも背水の陣になっていた。我が陣は壊乱した。そして行く手には増水した入間川。


「殿、お逃げくだされ。ここは某3人で!」


「もういかぬ。が、北条に首はやらぬ。介錯いたせ。その後、首は川に流せ。頼んだぞ!」


 馬廻りの者の泣き声がする。


 ああ、松風丸の言う通り、本陣を下げておればよかったか。

 同じことよの。お味方2万、ばらばらの烏合の衆であった。これから坂東は、北条のものになるか……


 口惜しいわ!


「御免!」


 意識が飛ぶ。



 扇ケ谷上杉朝定、自害。

 享年22。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 やはり強い北条勢。戦働きは風魔にお任せ^^



 別の世界線でもレンジャーは大事

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860632695112

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る