#21

 

「行きたくないんですけど……」


「一緒に行けないからな、帰って来たら目一杯、甘やかすから行ってこい」


「それでも行きたくないんですよぉ……」


 樹さんが甘やかしてくれるのは嬉しいけど……

 それでも行きたくないものは行きたくない。

 まあでも行かないと怒られるどころの話じゃ済まされなくなるからなあ……


「はぁ、行ってきます……」


「いってらっしゃい」


「行ってきますのキスをください」


「家帰ってから甘やかされるのと今キスするのどっちがいい?」


「どうせ、樹さんは甘やかしてくれるのでキスで」


 あ、図星だ。

 樹さんの表情がピクッと少しだけ動いた。

 最近は樹さんの微表情も読み取れるようになってきたので、今樹さんが何を考えているかある程度分かるようになってきた。


「あー愛理さんそろそろ行ったほうがいいんじゃないか?時間に間に合わなくなるぞ」


「問題ないです」


 樹さんとは一秒でも長く居たいので家の用事なんか捻じ曲げても全然問題ない。

 私が笑顔で期待して待っていると、樹さんは照れながらも顔をこっちに近づけてきて、


「あーいってらっしゃい?―――――」


「――――――ふぁ、え、えへへっ、いってきます~」


 樹さんとのキスは最高!

 私が玄関から出るまで樹さんはなぜかその場で固まっていたけどどうしたんだろう?

 玄関の扉を閉めると、


「ああああああ、なんだよ。「えへへっ」ってなんだよ!可愛すぎるだろうが!」


 と、微かに樹さんの声が聞こえた。

 結構な大声で叫べば家の外からでも多少は聞こえるんだよね……

 私は暑くなって顔が真っ赤になっていることを自覚しながら下へと降りた。




 マンションから出ると一際目立つ黒色の車両が止まっていてその横には使用人の服を着た目立つ男性がいた。


「お待ちしておりました。お嬢様」


「はぁ、迎えはいいって言ったのに……」


「当主様からは、『今日みたいな大事な日に何かあったら大変だからね』と」


「……まあ車の中で話そっか」


 ただでさえ少し珍しい車両で目立っているというのに会話のこともあり、周り人々の目がこちらに向いている。

 荷物を入れ、車の中に入り座席に座った。


「出しますよ、お嬢様」


「うん」


 大体三ヶ月ぶりぐらいだというのに半年ぶりに実家に帰る気分。

 まあ半年も家を離れたことなんてないから本当にその気分かは、分からないけどね。

 少し話したりすると特に会話もするこもなく暇だったので、スマホを見てこの暇な時間を過ごすことにした。









 門の前に立っている数人の使用人の前で車が止まった。

 あんまりこういうことしてもらいたくないから一人で来ようとしてるんだけど……

 まあ現状回避する手段はないので大人しく車を出た。


「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」


「はぁ……」


「どうかなさいましたか?」


「いちいちこんなことしなくてもいいのに……」


「そう言われましてもこれが私たちの仕事ですので。お荷物お運びします」


 私が使用人と軽く話してる間に、運転手の人は荷物を下ろしてしまっていた。

 数人の使用人が私の荷物を持ち、私の後ろから付いて来た。

 門を潜るといつものように番犬が何匹も私のほうを向き座っていた。


「増えた?」


「はい、一頭ですが増えました」


「これ以上増やす必要あるかなあ」


 次、買うならどの犬種かを考えながらも玄関へ向かった。

 門から家の玄関までの距離が少し遠いのがじれったい。

 ようやく玄関に着き中に入ると、


「おかえり」


「ただいま、お父さん」


「随分と嫌そうな顔してるね」


「だってただの集まりで私まで呼ばれたんだから嫌に決まってるじゃん。樹さんと一緒に家で寝てたかった」


「あはは、まあ今回は相続問題も話すからね。愛理がいないと困るんだよ」


 確かに本家であるお父さんとお母さんの子には、私しかおらずもし私が樹さんの家に嫁ぐとなったら相続問題が出てくる。

 だからって私を呼ばないでほしい。


「まあ先に荷物運んで置いて、もう少し話すから。愛理も上がっておいで」


 お父さんがそういうと使用人たちは私の荷物を持って部屋へと向かってしまった。

 私とお父さんもゆっくりと後を追うように歩きながら話すことにしたはいいけど……うーん?久しぶりに来たからか凄い違和感がある。

 うちの家系は、何十何百と続く家系でこの家も様々な時代を過ごして来ている。

 そのせいか家の増築、改築、文化の取り入れがあったせいで今やとんでもない家になっている。

 門は和式なのに玄関というか正面は洋式だし……

 そして最大の違和感は普通は靴を脱がないということ……流石に和室では脱ぐことになってるけど……

 あ、あと私の部屋も脱ぐことにしてる。靴を履いたまま過ごすなんて嫌だったから部屋を丸ごと改築して玄関付きのような形にした。

 でも靴を履いたままなのは嫌なので樹さんを婿に入れて私と樹さんでこの家を一つにまとめよう、そう思えるくらいかも。


「お父さん、いい加減この家何とかしないの?」


「うーん、そうしたいんだけどね……」


「お金は腐るほどあるくせに」


「今日の集まりでも少し話題に出してみるよ。あの世代がぐちぐち言ってきそうで嫌なんだけど」


 ああ、そういうこと。

 あの世代というのは祖父母の世代。

 頑固者が多くてだいぶ前だが家の話をしたら家の歴史を大切にしないのかとか、これだから若者はとか、ぐちぐち言いながら猛反対してきた。


「そういえばお母さんは?」


「料理してるよ。副料理長が少し怪我しちゃってね」


「大丈夫なの?」


「うん、問題ないそうだよ。ただね、愛華あいかがね……」


 あーまあうーん……

 どこかお母さんらしいようでらしくないなあ。

 あ、ちなみに愛華は私のお母さんの名前だよ!

 誰に向かってそしてなぜ心の中でお母さんを紹介したのか分からないけどなんかそういう気分だった。

 私の名前に愛が入っているのはお母さんから取ったからだよ!

 またしても謎に紹介してしまった。


「他は来てるの?」


「来てるよ。まあまだそこまで揃ってないけど」


 時計を見てみてもまだ始めるには早いので、居なくても当然なのかもしれない。

 お父さんは忙しいので話すのはやめて各々の自室に向かうことにした。


「ん……居た」


「え?」


「久しぶり」


「お久しぶりですね。詩音」


 後ろから声を掛けてきたこの子は音咲 詩音おとさき しおん

 うちの分家である音咲家の長女。

 昔は私と一緒によく遊んでいた仲なので久しぶりに会えて嬉しい。


「愛理…探してた。でも…詩音より遅かったから…見つからないの当然」


「探してくれていたのですか?」


「ん…色々と訊きたかった。許嫁とか」


「あ~じゃあ一緒に私の部屋で話しましょうか」


「ん…そうする」


 丁度すぐ着くところに私の部屋があるので一緒に部屋へ入り靴を脱いでから床に座った。

 やっぱり家の中では靴を脱ぐべきだと思うなあ。


「愛理…さっきの喋り方なに?」


「あれ?あ、私は詩音に対して普通に喋れるんだっけ?」


「その癖……まだ抜けてないの?」


「あはは、そうみたい……」


 いまだに樹さんとの喋り方もあれだし……

 初対面の相手に敬語を使うのは普通かもしれないけど仲が良くなっても敬語を使ってしまう癖は何とかしなければならない。


「頭」


「はいはい」


 詩音は私が敬語を詩音に使うたびに「頭」と言い頭を撫でるよう要求してくる。

 頭を撫でられている時はいつも真顔でいる詩音が表情を崩すのでとても可愛らしい。

 頭から手を離すと詩音はまた口を開いた。


「……許嫁。愛理、許嫁…どういうこと?」


「そのまんまだよ?私には許嫁がいたんだよ」


「会った?」


「うん、今は一緒に暮らしてるよ」


「同棲?大丈夫?」


「うん、全然むしろ――――――」


「むしろ私のほうから襲いたい……違う?」


「ふふっ、合ってるよ」


 どうやら詩音は私の言いたいことが分かっているみたい。

 流石は私の……幼馴染?

 大分血が遠いけど同じ血が通っているからなんて呼べばいいんだろう?いとこみたいな感じのやつ。

 まあでも幼馴染なことに変わりはないかな?

 そういえばもう一人の幼馴染の紀里はどうしてるんだろう。

 冬期休暇に入りしばらく会っていなかったこともあり少し様子が気になった。


「愛理?」


「ん?どうしたの?」


「考え事?」


「ああ、いやなんでもないよ」


「ん…許嫁、どう?」


「うへへぇ、いや~許嫁君ねぇ~私の推しだったしぃ、会ってみたらなんかからかいがいのあって性格とか色々見て来たけどもうズッキューンだったよね」


 詩音が何故か驚いたように瞼を何度もパチパチさせていた。


「珍しい。愛理、ずっと男…興味ないと思ってた」


「うん、でも樹さんは別かな?」


「樹……許嫁の、名前?」


「そうだよ」


 詩音は何か考え事をするかのように黙ってしまった。


「気になる……愛理を落とした男」


「落としたって……でも詩音が会う機会は少ないかなあ」


 今日は集まりでこっちに来ているが詩音が住んでいるのは国内だけどここから飛行機に乗るか新幹線で移動しないとなかなか行けない場所に住んでいる。

 流石に気になったというだけで樹さんに会うためだけにこっちに来ることはできないはず……


「いつか会う」


「んふふ~詩音が樹さんと会う頃には私たちは結婚してるかも?」


「……今回の集まり、終わってから…行く!」


「いくらなんでもそれは……音咲家に怒られるよ……」


「じゃあ、やめる……残念……でも必ず、会う」


 珍しく詩音が楽しそうにしている。

 正直詩音は面白そうだからという理由で興味を持っている気がする。


「詩音、昔より表情増えたね」


「?……詩音、変わらない。樹、面白そうだから」


「う、うん?」


 なんか詩音がここまで興味を示すのは珍しい……

 もしこれで詩音が樹さんに会って恋に落ちたらどうしよう……

 さっき詩音が私に対して男性に興味がないと言ったが、それは詩音も例外ではなく私以上に興味を示さない。

 まあ詩音の場合は男性だろうが女性だろうが物だろうが滅多に興味を持つことがないから必然的にそういえるだけだけど……

 もし本当の本当に詩音が樹さんに恋をしてしまったら私はどうしたらいいのだろうか……

 詩音がこちらを覗き首を傾げた。


「…どうしたの?」


「なんでもないよ」


「そう?……困ってた、みたい…だけど……?」


「ううん、本当になんでもないからね」


 詩音は不思議そうに見ている。

 まあ詩音が恋に落ちることはないと言い切ろう。


「時間……また、話そ」


「うん、またね」


 詩音は部屋を出ていってしまった。

 癒された。

 樹さんとはまた違う癒しだけど癒しであることには変わりない。

 ……樹さんのことを思い出したら今すぐ帰りたくなった。

 もし集まりが長引けば樹さんと会えない日々が続く、そんなのは嫌だ。

 冬休みが終わるまでには帰れるだろうけど……冬休みが終わってしまったら、一日中樹さんとイチャイチャラブラブできなくなってしまう。

 なら堂々と公表して学校でいちゃつけばいい?私だってそうしたい。

 他のメ……女子が樹さんのことを見ているのは嫌だからね!まあ樹さんだからそんなことはないと思うけど!陰でひっそりと見てる人がいるかもしれないからね!

 でも樹さんも同じように私が他の男子から見られたり告白されたりするのは嫌らしい。


「だって私に告白した男子を徹底的に排除してるんだから気づかないほうがおかしいよね」


 誰もこの部屋に居ないのでボソッと口に出した。

 樹さんと付き合っているというか許嫁ということを公表してしまったら他の男子から私が告白されるようなこともないのに……

 それなのに何で樹さんはこの関係のことを黙っているんだろう?


「うーん、やっぱり関係のことを隠して大切にしたいのかな?」


 独占欲が無意識のうちに出ているのだとしたら考えられる。

 樹さんがどういう意図で公表しないのかを考えていたらトントンと、部屋の扉がノックされる音がした。


「なに?」


 部屋の扉が開くと使用人が二人立って服を持っていた。


「お召し物をお持ちしました」


「いらないし着ないから片付けておいて」


「ですが……」


「いいから、出ていって」


 私は使用人を部屋から出し扉を閉めた。

 余計なお世話だよ、まったく……

 このやり取りも何回繰り返してきたんだろう?

 中学生になってからは面倒になって着替えていないからね。

 正直親戚とかの集まりで堅苦しい衣装を着る必要ない気がする。

 詩音はドレスを身に纏っていたけど……

 詩音は場に合わせたような服を着ていたことを思い出した。

 似合っていたなあと、思っていたら部屋の扉が開き、


「愛理、身なりぐらいはしっかりしなさい」


「お母さん……」


 少し怒った様子のお母さんが部屋の中に入ってきた。


「全く、高校生で将来の相手もいるのに……」


「大丈夫、樹さんの前ではちゃんとしてるし」


「こんな姿見られて見放されるよ」


「それは絶対にないから」


 だって樹さんだよ?

 あの樹さんが私のことを見放すなんて死んでも考えられない。

 もし見放すことがあるようなら……いやその前に依存させないと……

 お母さんが心配そうな顔をしてこっちを見ている。


「今よくないこと考えたでしょ」


「そんなことないよ。必要なことを考えただけだからね」


 帰ったらまずどうしようかなあ……

 落とすところまで落としてから手を差し伸べる……うーん。

 隣に母がいることを忘れ、人を駄目にする方法を考える高校生とはこれ如何に。


「まずは着替えなさい」


「え、これでいいじゃん」


「はぁ……この会話は何回すればいいの……」


「分かったってば。着るから」


 私はお母さんが色々と言い始める前に仕方がなく着替えた。


「似合ってるしこれでよし」


「帰りたい」


「……もし愛理が大人しくしてたら樹君と旅行に行かせてあげても……」


「大人しくします。あとえっっの許可もください」


「そういうことは、樹君の合意のもとしなさい」


 うへへへへへ……

 樹さんと一緒に旅行に行ってそこで18禁展開へ持っていく妄想をしたらニヤ付いてしまう。

 最初は樹さんが襲ってきて……グヘへ……


「愛理、だらしない」


「はい……」


 樹さんと一緒に旅行へ行くためにも大人しくしていないと!

 私は大人しく集まりの時間も過ごした。









 なっっっっがかったぁ。

 全ての分家が集まり同じ部屋で何時間も口論を繰り返すだけのつまらない時間だった。

 なんであんなゴミみたいな場所に居なきゃならないの……

 高校生をああいう場所に呼び出しても必要ないというのに……

 それに樹さんと私の許嫁の関係に愚痴を言う人間もいるし……許せない。


「はぁ……この後は会食だし……」


 うちの財産にしか興味がない人間たちと一緒の場に居るだけで吐き気がしてくる。

 あの場での唯一の癒しは詩音だけだった。


「樹さんに会いたい……」


 こんなにも樹さんに会いたいという思いが膨れ上がったのは初めてかもしれない。

 いつも同棲していたから分からなかったが普通のカップルはこういう会いたくても会えない気持ちがあるんだろうね。

 朝まで一緒にいたはずなのに僅か数時間でこんなにも会いたいと願う。

 樹さんを依存どうこうさせようと考えていたが私はもう依存しているみたい。

 電話をして声でも聴こうかと思っていたけどどうやらそんな時間はないらしい。

 扉がノックされて会食の時間だと言われたので、すぐに部屋を出た。


「はぁ……」


 もうこんなこと終わりにしたい。

 こんな家に生まれてきたことを後悔したいがこの家に生まれなければ樹さんと許嫁になるどころか出会うことすらなかったかもしれない。

 樹さんとの出会いがなかったらどうなっているんだろうと考えて答えが出せないまま会食のための部屋についてしまった。

 重たそうな(実際結構重い)扉が開き中へと通された。

 部屋の中には何十人も人がいるが誰一人として喋っていない。

 そんな部屋の中を私は歩き自分の座るべき椅子へと向かった。

 まあこんな席に座ってもどうせあとで立つだろうけど……




 少し待つとようやく全ての空席が埋まった。


「いつもの通り全員の顔が見れて嬉しいよ。これからも支え合ってこの家系の繁栄を見ていこうじゃないか」


 私も含めこの場の全員がグラスを手に取り掲げた。


「本家である雪上家とここいる分家の繁栄を願って…乾杯」


「「「「「乾杯」」」」」


 雪上家での分家も含めた会食では一つだけ掟がある。

 それはどれだけ家同士のいざこざがあり両者の関係が悪かろうがこの場だけは忘れよう、と……

 これを作ったのが十代前の雪上家当主だったかな?

 そんな掟があるため始まる前とは違い皆楽しそうにしている。

 勿論私のもとにも色々な人が来て会話を楽しんでいる。


「いや~愛理ちゃんも綺麗になったなぁ。あれか!噂の許嫁君のおかげか?」


「ほんっと、綺麗になったねぇ」


「あはは、やっぱり許嫁というか好きな人に綺麗に思われたいですからね」


「いやぁ~青春してるねぇ」


 あの集まりの時のような雰囲気は嫌いだけどこうしてみんなでワイワイ楽しく雑談をするのは好きだ。


「愛理、綺麗。昔から」


「詩音は優しいね。詩音も私に負けないくらい綺麗で可愛いよ」


「そりゃうちの詩音だから可愛いに決まってるなぁ」


「じぃじ、恥ずかしい」


「はっはっはっ!すみませんな。うちの孫が可愛いくて」


「じぃじ!」


 詩音が珍しく声を出している。

 よっぽど恥ずかしいんだろうね。

 詩音は顔を真っ赤にしながら祖父を連れて別の人のもとへ歩いて行った。


「おや、これはこれは、こうして話すのはお久しぶりですな」


「お久しぶりですね。調子はいかがでしょうか?」


 私と今話しているのは久江家前当主、久江 楽参くえ らくざん


「いつも変わらず、心ゆくまでのんびりとさせていただいておりますぞ。してそちらは?」


「私もいつもと変わらずと言いたいですがここ最近少しばかり忙しくてですね。許嫁の件もありますが数か月前のことでまだ少し疲れが……」


「……またまた、ご冗談を。それとこの場の掟を覚えておりますかな」


 この久江楽参もそうだが久江家は雪上家の座を奪おうと必死になっている。

 樹さんと会う前も久江家は色々と仕掛けてきたため冗談交じりに私は言ってみたがまだ癪に障るらしい。

 この場では掟があるためお互いあまり関わらないようにしているがまさか話しかけてくるとは思いもしなかった。


「ここら辺で。次、会う時はどういう関係になっているか楽しみですな」


 そう言い残して楽参さんは私から離れた。

 久江家には、この雪上家の座を取られるわけにはいかない。

 私はそう心に誓いこの場を楽しんだ。









 ようやく会食も終わり私はすぐに部屋へと戻った。

 あんな腐っているような場所にはいたくない。

 全員が全員、雪上家の座を狙っているわけではないけどそれでも多いからね。

 私は樹さんの声が聞きたくなりスマホを使い電話してみた。


『どうした?』


 まさか1コールで、出てきてくれるとは思わなかった。

 電話を掛けてすぐ樹さんは出てくれた。


「樹さんの声が聞きたくなったので」


『……そうか。俺も愛理さんの声が聞きたかった』


「…寂しいですもんね」


『ああ、声が聴けてもいつものように隣にいないしな』


 なんか樹さん、変?

 というか樹さん最近、羞恥心が薄れてきている気がする。

 まあからかうのは楽しかったけど、樹さんともっとイチャイチャできるのならいいのかもしれないかな?

 家に帰ったら樹さんと目一杯イチャイチャしよう。


「今すぐにでも帰りたいです」


『まあ明日までだろ?すぐ帰ってこれるから我慢しろ。そしたら……抱きしめてやるから』


「じゃあ樹さんとハグするために我慢します」


 樹さんからハグしたいと言っているようなものだけどね。

 私は三十分ぐらい樹さんと会話をしてハグを楽しみにしながら寝支度をしてベットへ横になった。

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