#19
「ふわぁ眠いです」
「年越しするんだろ?配信してたほうが良かったんじゃないか」
「樹さんと二人で年越ししたかったんですもん」
俺と愛理さんはホテルでソファーに座りながら年越しをしようとしていた。
「もん」ってなんだよ、可愛いな!
こんな彼女が横に居るなんて最高だなあ……
この生活が崩れずに永遠と続いてほしいと俺は思っている。
「明日は二人で配信ですよ。それも公式に出て」
「正直愛理さん一人でよかったと思うんだがなあ……でも愛理さんを一人にするのはな……」
「運命共同体の私たちは例えどれだけ離れようとも心はいつも一緒です」
「物理的な距離が離れるだけで不安なんだが」
「まったく仕方がない人ですね」
俺が物理的に離れるのが嫌だと言ったからなのか愛理さんは俺にくっついてきた。
これはこれで心臓に悪い。
「樹さんってよく私の事本能に任せて襲いませんよね」
「それは……愛理さんを傷つけたくないからな」
「え~」
愛理さんは俺から見たらショーケースの中に入っている展示物のような存在だ。
そんな愛理さんを傷つけるわけにはいかない。
「はぁ、ちょっとぐらい期待させてくださいよ」
「期待するだけ無駄だ」
「なーんでこんなヘタレなんですかねえ」
俺はその言葉が気に食わなかったので愛理さんの唇を奪った。
相変わらず愛理さんは舌を入れようとしてくる。
こんな清楚な見た目で可愛いのに中身が少しアレなのがまたいいよなあ。
だんだん性癖が愛理さんの方向へ傾いている気がするがそれはそれでありなので良しとしよう。
「……んぅはぁ、一回ぐらい許してくださいよ」
「一回許したら取り返しのつかないことになりそうだから断固として拒否させてもらう」
「ちぇ~ケチですね。いつになったらしてくれるんですかね」
「まあもっと恋人らしくなったらな」
結構関係を築いている恋人だというのに俺は何を言っているんだ?
言ってから俺自身が何を言っているのか分からなくなった。
「でも世の中の恋人って済ませるところまで済ませますよね?というか私たちみたいに同棲してるなら尚更の事」
「……なら勝手にしてくれ」
「え?いいんですね?」
「え?マジで言ってるのか?」
「え?勝手にしてくれって言ったじゃないですか」
「いやいや普通しないだろ」
「勝手にしてくれ」と言った場合普通しないよな?それとも俺が間違っているのか?
俺が世間一般的に考えたらどうなんだ?と考えながらボーっとしている間に愛理さんにソファーの上で押し倒された。
この状況に俺は?という文字しか浮かび上がらなかった。
「あ、愛理さん?」
「あと1分ですね」
愛理さんが別の方向を向きそう言ったので同じ方向を見ると残り40秒程で年越ししそうだった。
「ふふ~ん」
「ちょ、愛理さん?そこどいてくれないか?」
「嫌で~す」
そういうと俺の体の上に座っていただけの愛理さんが俺の体の上に全身を乗っけてきた。
愛理さんの顔が近い。
キスしてるときはそこまで意識していなかった……
全身が触れ合っているからか心拍数が上がり愛理さんが動くたびにさらに上がっている気がする。
「えへへ~」
愛理さんが俺のことを殺しに来ている気がする。
「あ、年越しましたね。今年もよろしくお願いしますね、樹さん」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ということで今日で樹さんもそつ…ふにゅ?」
愛理さんがよろしくない言葉を口にしようとしてたので両手を使い頬を引っ張った。
「まあ再来年の話だな」
「ひゃらいねん!」
「愛理さんがその調子ならいつまで経ってもしないからな」
「やでしゅ!」
「……じゃあ大人しくしててくれ」
「やでしゅ」
頬を引っ張られたまま話す愛理さんがとてもかわいらしい。
「はにゃしてくだしゃい」
「しょうがない」
「む~ちょっと痛かったです……」
「それはすまん」
プクーっと愛理さんが頬を膨らませ怒っている。
怒り方も可愛いなぁ。
思ってみれば配信の時でもこんな感じに怒るのでいつも画面の前で頬を膨らませていると考えると少し微笑ましい。
「樹さんってちょっとお茶目ですよね」
「愛理さんもだろ?と言いたかったが度が過ぎたからかいしかしてこないからな……」
「私だって健全な高校生なのでお茶目です」
「健全とは?」
愛理さんが健全というのなら世の中7~8割の人は健全ということになりそうだ。
「ふわぁ流石にもう眠いです」
「寝るか?」
「え~樹さんと一緒に朝まで起きてたいです」
「……眠いんだろ?それに明日公式配信あるしな」
「でも午後からですし」
「そうだな。でもな明日でここを出ないといけないんだ。10時にチェックアウトしないといけないからな」
明日の公式配信が終わって少ししたら俺たちは帰らないといけない。
正直もう少しこっちに居てもよかったが雪上家の用事もあるので必然的に帰らなければいけない。
愛理さんは若干不満そうな顔を見せたが、
「まあ家に帰っても樹さんの横に居れることには変わりないですし大人しく寝るとします」
「そうしてくれ」
愛理さんに引っ張られベッドの上まで来た。
「このふかふかベッドともお別れなんですね」
「帰ったらふかふかなやつ買おうな」
「そうですね、勿論二人で一緒に寝れるダブルベッドサイズですからね」
「ああ、そうだな。これからも一緒に寝たいからな」
俺の言葉に反応した愛理さんは照れていながらも嬉しそうにしている。
そうこうしているうちにベッドの放ってくる誘惑と睡魔に負け二人でベッドに潜ってしまった。
「……愛理」
眠いからなのか少しだけ恋人らしくなりたいからなのかは分からないが俺は声が出てしまった。
頭が回らない。
いつもだったら焦ったり羞恥心を抱き悶えているところだが今は特に感じるものはない。
急に名前を呼ばれた愛理さんはこちらを向きながら驚いたのか目を開いている。
「樹さんが『さん』も付けずに私のこと呼ぶなんて……」
「嫌、か?」
「いえ、むしろそのままずっと呼んで欲しいです」
「……そうか」
今にも瞼が落ちてしまいそうだ。
睡魔が全身を眠りにつかせようと襲ってくる。
「樹さん寝ていいんですよ」
流石にもう限界だったので瞼を閉じた。
あの瞬間どこかに何かが当たった気がするが気のせいだろう、と思いながら眠ってしまった。
日の光が当たりあまりの眩しさと原因不明の息苦しさに目を開くと驚愕の光景が待っていた。
「んっ!?」
いつからかは分からないが愛理さんにキスされていた。
俺たちは寝たままキスをしていたのか……?
本当は起きているんじゃないかと愛理さんの肩を軽く叩いたが「んぅ」と軽く声を漏らしただけだった。
「本当に寝ているみたいだな……」
じゃあ本当に寝たままキスをしていたことになってしまう。
しかしこれでは俺からしたのか愛理さんからしたのかが分からない。
記憶にないので決して俺ではないと言い切りたいのだが事故という可能性が否めない。
「……さっきまでしてたからいいよな」
愛理さんの顔を見ていたら不思議と唇へ目が行ってしまい我慢できずしてしまった。
安心感を覚えるな……
勝手にキスされていることも知らずに愛理さんはスゥスゥ、と寝息を立てて寝ている。
流石にこれ以上は理性が吹き飛びそうなのと今後、過度にキスを求めるようになってしまう可能性があるので離れた。
「あぁ、やっぱり愛理さんはいつ見ても可愛いな」
寝顔もそうだが普段も俺のことをからかってくる時も照れている時も全てが可愛い。
これからもずっと隣に置いておきたい。
「ふわぁ……やることないな」
目を擦りながら部屋を出た。
部屋を出てから物音がした気がするが気のせいだろう。
愛理さんは寝ているしな。
〈愛里視点〉
部屋のドアが開いた音がしたと思ったらすぐに閉まった。
あーびっくりした。
まさか昨日樹さんが寝る前にキスしたのが物足りなくなって朝起きて私が寝ている樹さんのことをキスしてたら急に目を覚ますなんて思ってもいなかった。
流石にあの状況で動いたら樹さんに起きてると思われたのでキスしたままの状態でいたがまさか樹さんからキスされるなんて嬉しい誤算だった。
「えへへ」
樹さんが部屋から出ていったので黙っている必要もない。
軽くバレない程度にベッドの上でゴロゴロしていたら横にあった棚にぶつかった。
「いたっ」
漏れ出てしまった声を抑えるように口を塞いだ。
少し経っても樹さんは戻ってくることはなかったのバレていないみたい。
「にしても……」
昨日の寝る前みたいに「愛理」と呼んでくれなかったことが少し不服。
「……まあ私のこと好きだってことは多少なり伝わったしいいのかな?」
樹さんが手を出したりしてくれなかったから本当に好意を持っていくれているのか疑っていた。
好きだということが伝わったけど……
いつまで経ってもこのままというのは少し嫌だ。
「もう少し近づくべきかな?でも嫌われそうだなあ」
嫌われるのなら私はそんなことはしない。
でも樹さんなんだよなあ……
樹さんだからグイグイ行かないといけないと思うけど……
「う~ん?」
まあ今のままを保っていくのが一番なのかもしれない。
それでも少しは進んでいきたい。
今出ても樹さんが起きていたんじゃないかと怪しむと思ったのでベッドの上でさっきのキスのことを思い出しながらゴロゴロと転がって時間が経つのを待った。
〈樹視点〉
荷物をまとめた後、ホテルを出て事務所へ向かった。
時間に余裕はあるが早めに行っておいて損はない。
事務所へ着くといきなり控室に案内され中で待機してるように言われた。
「はぁ……緊張してきた」
「いつも通り私と喋る感じでいいと思いますよ。リスナーガン無視で」
「それはそれでよくないだろ、と言いたいが公式放送だからコメント拾わないか拾うとしても事務所のほうが拾うだろうからな……」
「なので正直事務所のほうから指示がない限りは無視でいいと思います」
「そうだよな……」
今まで個人でやってきて来る人も少ないのでコメントはほとんど読んでいた俺からしたら少しむず痒い。
公式配信をするときの注意やアドバイスを愛理さんから教えられながら台本を見て練習をして本番に向けて進む時計の針を見て待った。
「そういえば練習してなかったんですか?」
「事務所に来ている間ってことだよな。……手伝いが意外と多くてな、時間がなかった」
俺が居ると知ったREVIAとsiveaの社員は面倒な仕事を全て押し付けてきやがった。
それも面倒なのが同じ会社とはいえやっていることは全くの別物なところもあるため同時にやれることも少なく時間が掛かる。
siveaのものに関しては俺ができないものまで混ざっていたからな……
この会社の人間は俺のことを何でもできて適当に押し付けておけば全てやってくる機械のように思っているのかもしれない。
「なら仕方がないですね。まあ飲み込み早いですし残りの時間軽く練習しただけで何とかなりそうですね」
「そうだといいんだがな……」
「大丈夫ですって」
正直今の心境は不安と緊張で染まっている。
少し人見知りなところもあるのでもしかすると緊張して何も喋れなくなるんじゃないかという不安がある。
それと今まで個人でやってきたからよかったものの企業の公式配信となると勝手が違う。
その企業での規則があるからな……
愛理さんに時々心配されながらも練習をして配信の質が上がるように努力した。
とうとう本番がやってきた。
俺は愛理さんの話が軽く終わってから出ることになっているので部屋の隅で座って愛理さんの様子を見ている。
スマホを開き公式配信の待機枠を見てみると既に2万人が待機している。
今でこれぐらいなんだから配信が始まったら倍以上の人が来るんじゃないか、そう考えるとますます緊張してしまう。
開始に近づくにつれて心拍数が上がっていくのが感じられる。
「始まった……」
配信が開始して今はオープニングムービーが流れている頃だろう。
ムービーが終わったのか周りにいるスタッフが愛理さんへ合図を出した。
「こんにちは~雪原の姫、雪の花、雪姫雪花です。今回は公式配信に居ま~す」
雪姫雪花、恒例の挨拶が終わりすぐ本題に入った。
「今日は私個人の話と公式のほうからの話があるので最後までよろしくね。……じゃあまず私個人の話から。え~私、雪姫雪花に彼氏ができました。まあこれだけだったら前の配信でも言ってるから知ってる人も多いよね。普通だったら恋人ができた報告とかはすぐ済ませられるようなものなんだけどちょっと事情があってね」
愛理さんはいつも雑談をするときのようなノリで淡々と話題を進めている。
大勢の人に見られているというのに愛理さんは凄いな……
俺には無理と言いたいところだがこの後俺も話すからな。
「まずその相手とは結婚前提で付き合っているような感じかな?あんまり詳しいことは言えないけどまあそんな感じ。それと同棲もしてるから今後の配信に関わってくるかな?ここら辺はまだ未定だけど」
愛理さんがとんでもない発言を淡々としていたのでコメ欄を見てみると驚愕と混乱の様子が伺える。
まあそうだよな。
俺だって推しにそんなことを言われたら困惑する。
「で、彼氏なんだけど社長と知り合い?なんだよね。というか結構仲良いみたいだし。それでね、社長が『二人で配信して』みたいなこと言ってきたせいでまあ色々と話さないといけなくなったんだよね~あ、彼氏はもう少ししたら出てくるよ」
スタッフがコメ欄のコメントを拾い愛理さんに答えるように指示した。
「今後の配信で彼氏が出てくることはあるかも。彼、自身もVtuberとして活動してるからコラボって形になることが多いと思うけどね」
あれ?もしかして……願いが叶うんじゃないか?
いつも二人で話している時点で願いは叶っている気もするが雪姫雪花、神木凛斗として話ができる。
俺がVtuberになったきっかけは推し、雪花様と喋るためだからな。
とうとう願いが叶うのか、と考えていると俺が出ないといけないころになった。
「じゃあこの話も終わりそうだし彼氏に出てきてもらうよ~ちょっと待ってね」
愛理さんはマイクをミュートにした。
俺は配信の画面がオープニングムービーに変わっている間に愛理さんの横の机へと座った。
オープニングムービーが終わり配信画面には俺の立ち絵が置かれていた。
本当は動かしたいところだがいちいち家まで戻ってまで準備するのは面倒だったので今回は立ち絵ということになった。
「はい、今ここにある立ち絵の人が私の彼氏です~じゃあ名前言ってもらって」
「sivea公式生配信へお越しの皆様こんにちは、神木凛斗です」
「あ、ちなみに凛斗さん敬語なんか喋ることないからね。今はただ台本読んでるだけだから」
「その言い方はなくないか?」
「ほらもう崩れた」
「あのな、雪。いつも敬語のお前が何、言ってるんだ?」
「確かにそうだね」
普段の愛理さんとは違うので少し違和感を感じるが雪花様だと思えば何とかなる。
俺たちの関係というか雰囲気というかが伝わったところで話しを進めることにした。
「さて個人の底辺Vtuberがこんなところにまで呼ばれて何をするか期待してる人が居るかもしれないが、その期待はさっさと捨てろ俺は公式からの情報を喋るだけだからな」
コメ欄を見てみると俺に対して様々なコメントがされている。
批判的なコメントは少ないが面白がっているようなコメントやどんな人間なのか見ているようなコメントが多い。
「確かにそうだね。社長が出るように言っただけだし」
「まったくあの社長は……」
「まあこうして世界中に私たちのイチャイチャを見せつけられると考えたらいいじゃん」
「バカップルが過ぎるだろ」
神木凛斗のモデルが雪姫雪花のモデルに近づけられた。
おい、スタッフ……
まあ愛理さんはご機嫌のようなので今回は見逃してやろう。
「じゃあ私たちの話はもうほとんどないから公式からの情報に移っていくね」
俺は台本を見て最初の話題に触れた。
「まず六期生の募集を始める、だそうだ。条件やらなんやらはこれまでと同様ということになっている」
「後輩ちゃん増えるのか~」
「後輩に敬語を使う先輩……」
「私……」
「後輩なんだからな、何回かコラボして慣らしておくのがいいんじゃないか?」
「そうします……」
普段の配信や特定の人とのコラボだと敬語を使わないが基本愛理さんは敬語で喋っているからな。
俺が後輩だったら先輩から敬語を使われると逆に困ると思う。
まああくまで俺の個人的な意見でしかないが。
「じゃあ次……一期生と他事務所所属のVtuberでコラボ配信があるそうだ。詳細は後々発表ということになってる」
「先輩達のコラボですか……」
「ん?結構大掛かりなものになるらしいから期待しても良さそうだぞ」
「見るしかないですね」
スタッフが大掛かりなものになるとカンペをしてくれたおかげで話が楽に進んだ。
「一期生というと私はまあコラボを何回もあるから関係はあるけど凛斗さん結構関わりあるよね?」
「そうだな」
「まあこれ以上詳しいこと話すとめんどくさいことになるし今度時間あって社長と凛斗さんから喋っていいって言われたら喋るね」
流石に今、俺が元創立メンバーと話すことはしなかった。
まあ公式配信で言う必要はないからな。
俺は台本に目を移し次の話題へ進むことにした。
「これは今日のメインじゃないか?」
「え?今日のメインは私たちのいちゃラブをリスナーに見せつけることじゃないの?」
「だとしたら相当たちが悪いぞ」
「え~でもそんな感じじゃん」
「いちゃラブは二人きりの時だけにしような」
「は~い」
今、配信していなかったら頭を撫でてやりたかった。
コメ欄が少し荒れているような気がする。
「チッ……」とか「おい、凛斗。そこ代われ」とかそういうコメントが増えている。
「話を戻して……えーsiveaというかREVIA?まあ事務所がMMORPGを出すそうだ」
「会社の企画に私たちのいちゃラブを持っていかれた気分……」
「……他社との共同制作の作品となっている。大まかなことは配信画面に出ているのを見てもらえば分かる……T〇itterの公式アカウントに今ツイートされたもののリンクを踏めば公式HPに繋がるようになっているので詳細はそちらから」
「リリースされたら配信しないといけないのかぁ……」
「参加型とかもできそうだな」
「正直期待大かなあ。その他社って言うのも結構有名会社が多いし」
「何十社との共同制作なんかあまり見たことないからな。期待しても良さそうだ」
愛理さんと二人でできるといいな。
愛理さんとプライベートでゲームをしたことがほとんどないのでこのゲームも一緒にできるといいなと考えてしまう。
「リリース予定は一年後。基本無料ということになるらしい。今のところ課金要素はあるということになっているがプレイヤーの公平性を保つために強さが変わるとかはないらしい」
「じゃあ見た目とかかな?あ、でも事務所から出るゲームだからゲーム内で私たちのライブとかする可能性はあるのかな?そこで課金するとか」
「まああり得なくはないな」
「これも情報公開を待つしかないかな~」
「まあ予定は一年後だしまたすぐに追って情報が出るんじゃないか?」
「そうかもしれないね~じゃあ情報出たら雑談配信開こうかな」
コメ欄が「雑談枠待機」という言葉で埋まった。
公式配信だというのに相変わらずsiveaリスナーはやりたいことやってるな。
「あれ?もう話すことないじゃん」
「ん?そういえばそうだな」
「結構早く終わっちゃいましたね」
時計を見ると配信が開始してから四十分経っていた。
スタッフから一時間と言われていたが意外と早く進んでしまった。
「じゃあ終わらせますか~」
「特に話すこともないからな」
「「おつ~」」
俺ら二人がそういうとエンディングムービーが流れ公式配信が終わった。
「お疲れ様でした」
「お疲れさま」
「ふえ~公式配信は緊張しますね」
「二人ともお疲れ様」
「社長!」
声がした方を見てみると社長が立っていた。
どうしてここに来たんだろうか?
俺は社長が来た理由が気になったので訊いてみた。
「どうしたんだ?ここに来て」
「二人ともこのまま帰るんだろう?少し話しながら駅まで行こうかなと思って」
「それでもここまで来る必要はなかったと思うんだがな」
「まあ二人とも支度してきなよ。外で待ってるから」
一度控室まで戻り荷物をまとめてから外へ出ると言葉通り待っていた。
「歩きながら話そうか」
駅へ向かいながら話すために三人は歩きだした。
「配信はどうだったかい?」
「流石に緊張したな。愛理さんが居なかったらまともに喋れなかったかもしれない」
「私も久しぶりの公式配信だったので少し緊張しました」
「そうかそうか。まあこれで二人でコラボするときのきっかけにはなったんじゃないか?」
確かにそうだな。
もしあの配信をしていなければコラボすることなんて到底あり得なかっただろう。
「まあ今後二人がコラボするということを止めることは私からはしないかな」
「まあ世間から止められたらしないな」
「まあ炎上の熱よりも私たちの熱のほうが熱いですし」
「う、うん。なら大丈夫そうだね」
社長が少し引いた気がするのは俺だけだろうか?
愛理さん偶にこういう少し気恥ずかしい発言をしてくるのでさも当たり前かのように言うのは少し控えてもらいたい。
別に嫌というわけではないがな。
社長の苦笑いを横目に愛理さんは俺へ大しての愛を語り始め止まらなくなった。
「しかし何で樹さんは私のために生まれてきてくれたと言っていいような存在だというのに奥手なんですかね?まあそのおかげで他の女につかないことはいい事ですが少し寂しいと思うんですよ。どう思いますか社長」
一通り愛理さんが喋り終わったところで愛理さんは社長に訊いた。
「それはまあ神崎だからね」
「解釈一致が酷い」
REVIAの人間の俺への解釈が違ったところを見たことがない気がする。
そういえるぐらい俺への解釈が一致しているということになるがそんなにか?
もう少しで駅に着くというのに時間のほとんどを愛理さんが取ってしまった。
「君たち二人が本当に仲が良さそうで安心したよ。許嫁だからこそお互いちゃんと仲良いのか心配だったからね」
「推しだからな」
「推しですもん」
「高校生とはいえゆき君を採用してよかったよ」
「それに関しては私も感謝の言葉しかありませんね」
「推しができてまた会社と関われたし俺も感謝しないとな」
俺たちが出会う前から知ることになったきっかけを作ってくれたのには本当に感謝している。
まあ偶然だがな。
「さてもう駅だよ。私はここまでかな?」
「また収録の時にでも来ますね」
「俺も愛理さんに付いて行くことがあったらまた来るかもな」
「二人のことはいつでも歓迎してるからね」
「じゃ、またな」
「またすぐ来ると思いますけど……それではまた」
社長に見送られ俺たちは駅の中へと入っていった。
久しぶりに来たが楽しかったな。
これからは愛理さんに付いて行くという形でまた来ることになるかもしれないな。
次来るときは何か持って行ってやろう、と考えていると愛理さんに声を掛けられた。
「樹さんちょっと急ぎましょう。電車は乗り遅れてもすぐ来ますけど新幹線は予約してたのに乗れなくなりますよ」
「愛理さん人に荷物を持たせておいてそれはなくないか?」
「じゃあ持ちましょうか?」
「いやそれはだめだ」
「なら急いでください」
俺は愛理さんの荷物も持って急いで改札口へ向かった。
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