第1章 第5話
お兄ちゃんに会えない日々が続く。
お兄ちゃんじゃなくて、拓哉君って言わなきゃ。
拓哉君に会えない。
寂しい。
「沙希ちゃん、元気ないね?」
遥ちゃんが心配してくれる。
「うん、お兄ちゃん……拓哉君に会えない。」
「え?
拓哉君?
誰?」
「お兄ちゃんの事。」
「え?」
「いつも遊んでくれてた人。」
「あぁ、会った事ある?」
「うん。」
遥ちゃんは拓哉君に会った事がある。
「あのお兄ちゃん、イケメンだよね。」
「イケメン?」
「ママがカッコいい人の事をイケメンって言うって!」
「ふーん。」
どっかで聞いた事のある言葉だった。
「お兄ちゃん、忙しいの?」
「小学生は忙しいって。」
「へぇー。
遊べないのかな、小学生って。」
「分からない。」
「いっぱい遊びたいから幼稚園でいいね。」
「うん!」
幼稚園は毎日楽しいし、いっぱい遊べる。
粘土をグチャグチャこねるの好き!
砂場で山を作ってトンネル作るの難しいけど、ワクワクドキドキする!
皆でダンスも好き!
紙芝居の時間も好き!
新しい歌を歌うの好き!
小学校でも出来るのかな?
出来るなら忙しくても我慢する!
「小学校入るまでに平仮名とカタカナ練習するんでしょ?」
「え?」
「書ける?」
「うん、名前は練習した!」
紙に『さとうさき』と書いた……つもり。
本当は『ちとうちき』になってたらしい。
多分『さ』と『ち』が似てるって言われて、混乱したと思う。
「さとうたくやって、書いてみて?」
「うん、いいよ。」
遥ちゃんが書いてくれたけど、読めない……。
グッチャグチャ。
クレヨンで書いたから余計に読みづらい。
「あっ、クレヨン折れた!」
「あーあ……。」
「まっ、いいか!」
遥ちゃんは『まっ、いいか!』が口癖。
でもあんまり気にしてないのは羨ましい!
私だったら泣いちゃうかも。
「せんせーい!
この人、もらしたー!」
誰かが叫んでいる。
おもらししたのを大声で叫ぶクラスの子大嫌い。
こっそり先生に言えばいいのに。
幼稚園児だもん、おもらしする時もあるよね。
「ほーんと、クラスの男はデリカシー無いんだから!
やっぱ、年上がいいよね?」
誰かが言った。
私も年上が好きかも。
ううん、拓哉君なら年下でも好きだよ。
「沙希ちゃんも年上好きでしょ?」
「まぁ……そうかな。」
「告白したの?」
「告白って何?」
「好きですって言う事!」
「言ったよ。」
「じゃあ、付き合ってる?」
「え?」
「違うの?」
「分からない……。」
この頃は付き合うとか、あんまりピンと来て無かった。
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