第13話 助けた先には
「きれい」
色とりどりの薔薇を見ながら思わず感嘆の声が出てしまいます。
ディアナ達は知り合いの方たちと話があるとかで席を離れたので、手持ち無沙汰になった私は庭園の散策に出かけることにしました。庭園内であれば自由に行動してよいとのことで、ちらほらと薔薇を見学している方もいます。
庭園を見回すと大小の花を組み合わせつつ、薔薇の花の色がグラデーションになっていて見ごたえがあります。これも職人さんたちの工夫と技術の結晶なのでしょう。研究者の一人として話を聞いてみたいなあなどと思いつつ、見て回っているとけっこう奥まで来てしまったようで、あたりには人の姿が見えなくなりました。
そろそろ、会場に戻った方がいいのかもしれません。黙って出てきたので、ディアナも私を探しているかもしれないですしね。
帰りましょう。そう思って、踵を返そうと思ったら……
ミッ……
どこからか、声が? 気のせい?
ミャー。
やっぱり、聞こえます。
ミャー。ミャー。
猫の声のよう。しきりに鳴いているようです。迷子になったんでしょうか?
私は周りをキョロキョロと見回しましたが、姿は見えません。
飼い猫か、野良猫が散歩をしているのかもしれません。気にすることはないとは思いますが。
ミャーン。ミャーン。
声が一段と大きく聞こえてきます。助けを求めているような鳴き声。
ここから先は庭園外。でも、気になります。そうよね。猫に何事もなければすぐに帰ってくればいいわと自分に言い訳しながら、ちょっとだけごめんなさいと独り言をつぶやきながら一歩足を踏み入れました。
庭園の先には木々が立ち並び、下生えの草木の緑やひっそりと咲く花の様子が森のよう。華やかな薔薇の世界から、自然あふれる森の世界に入り込んだみたい。
ミャー。ミャー。ミャー。
どこかしら? 猫の鳴き声を追って足元を探しながら慎重に中に進んでいくと、いました。木の上に。ちっちゃな猫が枝にしがみついています。
ミャーン。
登った木からおりられなくなったのでしょう。体を縮こまらせて動けなくなっているようです。大人の猫だったら簡単に降りることができるかもしれませんが、小さい子猫です。恐怖に身がすくんでいるのでしょう。助けてとばかりに私を見ていました。
かわいそうに、どうにか助けてあげたくて手を伸ばしますが、あと少しのところで手が届きません。
どうしましょう。
ミャーン。ミャーン。ミャーン。
すがるような子猫の鳴き声。助けてあげたい。
木を観察しながら考えます。枝につかまって登ればなんとかなるかもしれません。
靴を脱いで、ストッキングも脱ぎました。
よし。
私はこぶしを握り気合を入れました。枝につかまり足をかけて、踏ん張って……足が滑って、うまくいきません。
そういえば、木に登ったことはありませんでした。でも、ここで諦めては子猫ちゃんを助けてあげられません。
何度もやり直しているうちに、要領がわかってやっと子猫ちゃんにたどり着きました。
「子猫ちゃん、おいで」
手を伸ばすとおそるおそるですが手のひらに乗ってくれました。よかった。子猫ちゃんを落ちないように捕まえて……どうやって降りましょうか。
片手には子猫ちゃんがいるので、動かせません。かといって片手だけで支えて降りることは、無理です。そんな筋力はありません。
どうしましょう。登ることは想定してても子猫ちゃんを捕まえて降りることまで考えていませんでした。
枝を持つ手が震えてきました。いつまで腕がもつのでしょう。子猫ちゃんは安心したのか首のあたりをスリスリして、喉を鳴らしています。
子猫ちゃんのためにも、ここはもう飛び降りるしかないかもしれません。私は無事ではないかもしれませんが、子猫ちゃんが助かるのなら多少の犠牲には目をつむりましょう。
よし、せーの。
意を決して飛び降りる瞬間、
「わああっー」
誰かの慌てたような絶叫が聞こえたような……
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